日系製造業の台頭とこれからの行方 次世代航空機の実現がもたらす現状と可能性
航空会社とメーカーの戦略───
1960年代から世界中の空を飛び回り、ジャンボの愛称で親しまれてきたボーイングの旅客機の大型機747が日本の旅客機として退役した。老朽化、燃費効率化などの問題から、後継機となる旅客機の開発が各社で次々と進められている。航空業界全体で今、こうした新機種への航空機の世代交代が始まっていることもあり、航空関連の製造業にも追い風が吹き始めている。
「効率」「機内快適性」を追求
新たな世界的基準を作り出した最先端機種787型機
「ジャンボ」で知られる大型機747型は3月、日本の旅客機として就航44年目の今年3月31日、ラストフライトを終えて引退した。現在も僅かな航空会社が使用しているが、近い将来はすべてボーイング・イエローストーン・プロジェクト(Boeing Yellowstone Project)という呼ばれた次世代旅客機開プロジェクトで開発される 後継機旅客機に更新されていく予定になっている。現在は3機種( Y 1・Y 2・Y3)を中心に開発しており、すでに日系航空会社が新しく提供してプロジェクトから生まれた。
787型機はボーイングにおいても導入期の最大となる全日空からの50機の発注により、開発が本格的にスタートした。2011年10月、全日空が世界初の日本国内での初の商業的就航が行われ、JALも2012年4月に就航した。その後に続き、ユナイテッド航空がボーイング787ドリームライナーの第1号機の所有権を北米で最初に取得した。
高騰化する燃料費、運航経費の低減、運賃の引き下げといった航空会社のニーズに合わせて開発された787型は、炭素繊維を採用したことで軽量化を実現。同クラスで最高の効率性を誇り、機内の快適性を追求している。
革新的な燃費向上とCO2排出量削減の実現に貢献した新たな世界的基準を作り出した最先端航空機となった。中型機で2基のエンジンを搭載し、長距離飛行も対応できる。
787型機は就航からしばらく経ち、相次ぐバッテリーのトラブルなどの問題があったものの、当時も調達を見直す動きはなく、長期的に見ても新しい時代を切り拓く航空業界の重要プレーヤーとなっていくことは間違いない。

Copyright © 2014 Boeing. All rights reserved.
資料:Boeing 2014 CMO Presentation
日本製が注目される航空製造業界
日系航空機サプライヤーの優勢が顕在化
日本とボーイングの関係は今に始まったことではなく、商業用ジェット旅客機自体でみても過去10年間の売り上げ80%以上が日本の航空会社によって支えられている。特に787型機や777型機では、ANAは国際線を含めた最大の顧客に位置づけられる。
787型機の部品に関しても65社以上の日本のサプライヤーが製造し、部品の3分の1以上は日本製だという。主に日本のメーカーが製造したものを、米国で組み立てられる。
767 型機以降、ボーイング社は日本の企業の生産分担比率が上昇。767型機は16%が21%に、777型機は21)%、787型機は35%と上がった。
ボーイング社が優秀なサプライヤーに贈る「ボーイング・サプライヤー・オブ・ザ・イヤー賞」を受賞した全体の42%が日本企業でダントツの1位を獲得した。
民間航空機においては1960年代半ばからボーイング社の部品の供給を介した日本企業は、長い年月をかけて築き上げてきたパートナーとしての信頼性が高く、日本の高い技術力や生産管理能力が評価されている。
また、最近のニュースでは、ボーイングは2013 年6月に2020年の就航を目指している次世代大型機「B777X(トリプルセブンエックス)」の製造に三菱重工業など日本企業(川崎重工業、富士重工業、新明和工業、日本飛行機の5社が参加すると発表した。
2017年から製造を始めANAなどに納入される予定の777X。
ボーイングと日本の航空機製造サプライヤーとの関係は今まで以上の緊密な関係となり、日本の性能には大きな期待を寄せている様子が伺える。
エアバスも日本製部品の導入を視野に入れ、航空関係の日系製造企業に歩み寄っている。
2通路型機のA330ファミリーに関しては合計12社の日本企業が部品供給パートナーとして参加。ブリヂストンは全機種のタイヤ、三菱重工は下部デッキ貨物ドア、富士重工業は垂直尾翼を提供しており、その他トーレ、東邦テナックスは2010年に炭素繊維複合素材供給で長期的な契約を結んでいる。
神戸製鋼は、A350 XWB機の着陸装置に使用されるチタン大型鍛造品の供給契約を国内で初めて締結日立金属との合弁企業で製造を行う。IHIも「A320neoのエンジン部品の生産のため100億円超を投資して工場を増設し、雇用も増やしている。エアバス・ジャパンのステファン・ジヌー社長はロイター誌とのインタビューで、「日本企業によるエアバスの製造比率を20%程度まで高めたい」と語った。
航空機の部品は約300万点とあり、その部品一つ一つを作っている企業が存在する。航空業界は裾野が広く、また長期的な生産展望も望める。日本のメーカーの製品はどれも高い技術による精巧さで世界中から評価が高い。また人口の増加、グローバル化もますます進み、効率化や低燃費化によるますます各国へ拡大する路線など様々な理由から航空市場は今後もさらに成長すると言われている。ボーイングの
「2014年度最新市場予測」によると、今後20年間の製造民間機航空機需要は機数ベースで36770機となり、金額ベースで5兆2千億ドル。市場需要は前回予測と比較して4・2%増加するという予測を出している。日本の航空機製造関連の成長にますます期待が高まる。
ここまで成長してきた背景のひとつに規制の自由化( オープンスカイ)がある。
世界的に空港の発着枠や路線などの厳しい規制があった航空業界は1978 年以降に米国での撤廃が実施され、それからヨーロッパなどでも自由化が活発化してきた。その規制が緩和された動きの中の「新規航空会社の参入」は多くの企業に航空業界への参入のチャンスを与えた。それから、旅行客の増加、旅行代理店からの要求など、これらの様々な要因が「コスト重視の航空会社の誕生」へと導いたと言える。
米国で勢力のあるサウスウェスト航空は主に短距離の路線展開を行っている。機体はリースで調達しており、737 型機と1 機種のみ。1機種に統一することによって、パイロットの訓練の単純化と短縮化が可能になり、また整備士も機種ごとに教育をせずに済む。教育面のコストや人件費、さらに部品調達や整備費も削減といったこの「効率化」が低コストに全て繋がる。
◆◆◆LLC の台頭によって世界的に激化する業界競争LCC(ロー・コスト・キャリア)はここ10 年の間で市場が急成長してきており、ますます航空会社間の競争に火をつけている。※北米や欧州ではシェアが30% 以上、日本も同様に成長してz いる。代表的な米国のLLC のキャリアは、ジェットブルー航空、サウスウェスト航空、スピリット航空、フロンティア航空、ヴァージンアメリカ航空、エアトレイン航空など。日本はピーチアビエーション、バニラ・エア、ジェットスター・ジャパンなどがあたる。
※資料:国土交通省
◆◆◆航空機リースの潮流
日本の商社や金融機関が揃って航空機リース市場に参入
日本国産航空機の開発 世界への挑戦 ちなみに世界中で需要が大きい中小小型機、特に737 やA 320 に関してはリースがよく行われている。 LLC ではローコストを図るために機体はほとんどリースなところが多い。
LLC が使用しているのは中小型機でサウスウェストも737 という小型機をリースで運用している。エアバスのA 320 型機も多くリースされており、LLCの多くがこの機種を使用している。世界のリース機体の割合は約5 割近くまでに増加しているという現状がある。
リース元は一般的に金融機関や商社が行っている。2014 年6 月には、三井住友ファイナンシャルグループと住友商事はエアバスから115 機を一括購入したことで話題になった。
航空機の利用者の増加、航空会社間の競争の激化に伴って、住友商事は航空機市場を注視している。航空機リース市場に足を踏み入れたのは1990 年の半ば頃で、2012 年に英国大手金融機関ロイヤルバンク・オブ・スコットランドグループ(RBS)傘下の航空機リース事業の共同買収し、「SMBC アビエーション・キャピタル」として本格的にリース事業の拡大に踏み切った。三菱商事も傘下であるMC アビエーションパートナーズグループで航空機リース事業を行っている。東京・ロサンゼルス・ダブリンに拠点を持ち、海外を中心に事業展開している。2012 年には三菱UFJリースが米航空機リース大手のジャクソン・スクエア・エビエーションを約1000 億円で買収。同年丸紅も大手 大手航空機リース会社Aircastle 社を買収。
2014 年10 月には、みずほファイナンシャルグループ系の東京センチュリーリースが米金融グループCITと共同出資で航空機リースの新会社を設立してい
る。
航空業界の市場の変化に敏感に反応する日本の一流商社が揃って乗り出すリース事業。航空業界の市場の拡大とともに、目まぐるしく変わるトレンドやニーズの変化に迅速に、またフレキシブルに対応できるという様々な利点が背景にある。
開発費が1800 億円近くにのぼった次世代「三菱リージョナルジェット(MRJ)」が2014 年10 月、ロールアウト式典でお披露目を行った。この時、三菱航空機の大宮英明取締役会長は「最高レベルの運航経済性と客室快適性を兼ね備えた世界に誇れるMade in Japan の製品が、ようやく夢から現実へと姿を変えようとしている。私は自信を持ってこのMRJ を世界に送り出せることを誇りに思う」と述べた。
同社によるこの一大プロジェクトは、2015 年の初飛行、2017 年の初号機納入へと目指している。
三菱重工、川崎重工、富士重工などが共同で開発したYS-11 以来50 年ぶりの日本国産旅客の開発となる。
MRJ は70 〜90 席クラスの次世代民間旅客機で、世界最先端の空力設計技術、騒音解析技術などの適用と、最新鋭エンジンの採用により、大幅な騒音・排ガスの削減、同型機に比べ20%の燃費向上を実現。運行面での効率性も高く、移動コストと環境負荷の低減、そして収益力の向上も図れる。最初に受注したのは25 機のANA で、続いて米国のトランス・ステイツ空港が100 機、同じく米国のスカイウエスト社から200 機、今年の8月にJAL から32 機の発注を受けた。同社は今後20 年間で、世界のリージョナルジェット機市場の50% のシェア、また5,000 機の受注を目標に掲げている。
一方、ホンダも創業から30 年を経た1986 年に航空機に着手。それから20 年近く研究を重ねて開発されたのが小型ビジネスジェット機「Honda Jet(ホンダジェット)」だ。2015 年には納入が開始される予定になっている。同社の米国ノースカロライナ州にある航空機事業子会社「ホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)から、2014 年6月に量産1号機が初飛行に成功。 主翼上にエンジンを配置するなど、航空機製造業界の歴史にも残る、斬新で独創性を持った機能美ということで、世界中から注目を集めている。
HACI の社長である藤野道格氏はホンダジェットは優れた技術力とものづくりにかける情熱の結集とコメントをしている。また藤野氏はホンダジェットの開発が評され、航空科学・工学の発展を推進する国際団体、ICAS の「航空工学革新賞(Award for Innovation in Aeronautics)」を受賞している。