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〝持続可能な成長を続けるために〟 トップが率先垂範!

日系企業の動向と施策を探る
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日系企業の動向と施策を探る 
〝持続可能な成長を続けるために〟 トップが率先垂範!


『柔軟な思考』『流通改革』『後継者の育成』—が経営者の関心事

グローバル経営が定着する日系企業の次の課題は何か。日進月歩の技術革新は、次々と新しい市場とそれに相応しいマーケティング戦略が必要となってきている。そのためには、現状の既成概念を打ち破るユニークな発想と、それを生み出す若い人材力が不可欠。「社内をいかに充実させていくか」も、新たな挑戦となっている。
弊社では、2014年5月から自動車部品メーカーをはじめ、専門商社、建設、食品業界など、50社以上の多岐にわたる業界のトップの方々にインタビューしながら、今後、日系企業が、米国市場でプレゼンスを持ち、シェアを拡大し、さらに持続可能な成長を続けていくためのポイントとは何かを探ってきた。その中で、最も共通のキーワードとして使われていたのが、『柔軟な思考』『流通改革』『後継者の育成』。いずれも、トップ経営者の関心事となっている。

 

プリディクトとプリベントで、リスクとチャンスに対応

2015 年3月期の北米販売台数を176万台( 前期6.8%増)に定めた日産ノース・アメリカ。そのうちの66万4000台をテネシー州のスマーナ工場で生産する。「数と品質をいかに極限まで追い求めていくか」――同工場とミシシッピー州キャントン工場の生産2拠点を担当、新車・生産責任者を務める吉田浩司ディレクターが、最も心がけているのが団結力。現場で率先垂範の指揮を奮っている。
「アメリカは変化が激しい国。それがリスクであり、チャンスにもなる。『プリディクトとプリベント』。この考え方を大切にしている。
様々なリスクが存在する中で、66万4000台という数字を達成するためにどんな手が打てるのか。メンバー全員がそれを意識して動けば、やるべきことは見つかる。それぞれの責任感の上に、この数字が達成される。現在はサプライヤーさんを含め、皆がやる気で溢れ、『次の高いレベル』を狙って、全体が挑戦者といった雰囲気ですね」。社内を含め関係者との関係を密に、共通の目標に向かって、力を合わせていくことを強調した。
自動車産業に限らず、創意工夫を怠れば生き残れない。日産はルノーとのアライアンスがあり、カルロス・ゴーン社長を中心にグローバル化の展開へと舵を取った。

日産アメリカス社長はスペイン人、日産ノースアメリカ社長もイギリス人。適材適所に徹底した人事政策が行われている。
「『どこの国の人間がオペレーションしているか』は重要ではありません。結果がすべて。エクスキューズも許されない。各国の良い部分を手本にしながら、この厳しい北米市場を勝ち抜く。最終的には、お客様に満足してもらえる。全体のレベルを高めていきたい」と、抱負を語ってくれた。

流通改革が次の成長へのキーワード

大阪に本社を持つ半田ごての製造販売会社・白光(株)の現地法人アメリカン・ハッコー・プロダクツ社。
30年前に進出、ゼロからの出発で、今では半田ごて業界では屈指に数えられる企業に成長している。
同社の藤原均史社長は、これから30年後を見据え、新たな成長戦略を描くうえで、流通革命は避けられない、必ず通らなければならない道だと強調。

アメリカン・ハッコー プロダクツ 藤原 均史 氏

アメリカン・ハッコー
プロダクツ
藤原 均史 氏

「人は、周りを気にする。何もなければそのまま波風を立てずにという人も多い。しかし、『人が行く道は楽のように見えるが、反対に人に頼ってしまうので不安も出てくる』それとは逆に、『道のないところは、不安が出てくるだろうと思いがちだが、実際歩き始めると、それがそうでもなく、より安心につながることが解ってくる』」と、先駆者の心意気を述べつつ、今後の発展の道筋を次のように言及した。
「『レップ・販売店・ユーザーの構造』も、これからも先、やり続けることが出来るのか。メーカーとしては『ノー』と言わざるを得ない。それではどうすれば良いのか。今は、インターネットで直接ユーザーが簡単に購入できる時代に入った。レップや販売店に支払うコミッションはこれで良いのかどうか?
公平な利益分配を行っていかなければならなくなってきている。そうしたことを考えていけば、今まで以上の『流通改革』しかない。それが次なる挑戦となるだろう」
自身の成功体験をベースに、これからの30年、さらに、業界が大きく変貌を遂げることは間違いないと断言する。

グローバル展開から流通改革がさらに進化

レジャー中心のオートバイ製造販売会社・米国現地法人カワサキ・モータース・コーポレーションの中川雅文社長は、これからも、グローバル展開での流通改革が進化することを予測する。同社も、リーマンショック後、タイを拠点に、製造を海外に移管しながら、世界市場を睨んだバランス経営に乗り出した。世界の需要を予測しながら、生産をコントロールしながら多様化するニーズに対応。グローバルな視点から開発とマーケティングに力を注いでいる。

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カワサキ・モータース コーポレーション 中川 雅文 氏

「リーマンショック前は欧米に圧倒的なシェアがあった。しかし、その後は、中型車、小型車をタイやインドネシア、そして南米のブラジルなどの新興国への販売にと切り替えた。商品ラインを増やし、上半分を先進国、下半分を新興国、オーバーラップするところを、先進国ではエントリー車、新興国では上級車としたマーケティング戦略を進めてきた。それが功を奏し、ビジネスがここ数年で安定してきている」
ビジネス上、今後、気になる点はアメリカ人の趣味の多様化。アウトドアを楽しむ人の平均年齢が上がっているとの声。業界全体で、アウトドアの魅力を発信するイベントの重要性を指摘する。一方、新興国であるアジアは、庶民の生活が豊かになり、『トランスポーテーション』から『レジャー』へと移る人々が急増。そうした世界のトレンドを俯瞰した上で、「世界の需要は上向き傾向。アメリカ市場も、難しい反面、やり方次第では拡大のチャンスは充分にあると見ている」と、グローバルな製造、マーケティング・販売、流通の三位一体の取り組みは欠かせないと指摘した。

環境対応ビジネスも成長産業の芽

カリフォルニア州に本社を構える三菱電機の現地法人MITSUBISHIELECTRIC US, INC.も、新しい商売の芽を模索している。その一つが太陽光発電システムの販売。日本で製造した太陽光発電システムをこちらでも販売することに力を注いでいる。 太陽光発電のアメリカ市場は、年間30%以上の伸び。背景には、アメリカ連邦政府の税制面での恩典があり、それが2016年まで続く。

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MITSUBISHI ELECTRIC US, INC. 毛塚義正氏

毛塚義正プロダクト・マーケティング・マネジャーは、特に注力する州としてはカリフォルニア、そしてハワイだとし、いずれも太陽光発電への気候条件がよく、需要が伸び続けている点を指摘しつつ、「太陽光発電は、プロジェクターのように単品販売ではなくシステムとして提供できるのが嬉しい。お客様に月々の電気代が下がって利益を取ってもらえる。お互いがウィン・ウィンの関係になる。長期使用が前提の製品のため、信頼できる製品を選ぶことが大切。当社のパネルは日本製。安心して選んで頂ける」と、新しい事業立ち上げに携わっている誇りに胸を張った。

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米国では、ここ数年、環境問題が大きく取り上げられてきた。自動車産業も将来どの方向に行くのかが注視されている。各自動車メーカなど、そうした動向を睨み、様々な施策を試みている。そのため、各部品メーカーとの濃密なコミュニケーションが行われる。工作機械(研削盤)、モーターコア・ラミネーションなど、自動車産業に大きく貢献する三井ハイテックも、この分野で、調査やマーケティングに力を注いできた。
三井ハイテック米国支店シカゴの吉岡哲ジェネラルマネージャーは、「環境対応分野では、最先端技術は日本発が多いが、ヨーロッパメーカーはディーゼル技術から一足飛びに電気自動車へと軸足を移そうとしている。そうした状況のもと、米国の環境規制もますます厳しくなってきている」と指摘、環境対応分野のモーターは、単純に駆動用のモーターだけでなく、様々な部分を電動化することで、燃費効率を良くする方向に動いている。空調、ステアリング、サスペンションなども電動化すれば、その分、モーター数が増えることになると強調する。
「これから先、ますます環境規制が厳しくなる。『より良い性能、より良い環境対応の車へ』が、追い風になっている」。環境規制が製品開発の原動力になっていると、挑戦の息吹に燃え
ていた。

選択と集中からサービスを充実

大手建設会社の竹中コーポレーション(USA)新藤陽一社長は、「次のステップの土台づくりに力を入れたい!」―――と、イリノイ、オハイオ、インディアナ、ケンタッキーの中西部4州に照準を定めた事業促進の目標を掲げ、その施策を漸進的に進めている。この4州だけで日本の1・2倍の面積。全米に展開する日系関連の工場だけでも4分の1、ミシガン州を加えると3割が集中し、その市場規模は想像以上に大きいと見ている。

「こちらでは、プロジェクトマネージャーのやる仕事の範囲が広い。営業、設計、見積もりして、工事を見て、アフターサービス、と多岐にわたる業務をカバーしなければならない。一人ゼネコンに近い状態。そうしないと入札には勝てない。私の場合、入社6年でこちらにきましたから、仕事をこちらで、一から覚えたようなもの。日本は完全分業ですが、こちらでは、『なんでも俺のだ』と積極的にやらないと物事が進んで行かない。落下傘部隊のようなことをやってきたので、かなり鍛えられました(笑)」。
選択と集中の重要性を指摘するとともに、「我々の売りは、日本語で日本人が対応できるフットワークの軽さ。
こちらに事務所がない場合の便宜を図ったり、日本での対応、さらに、中国工場と同じものをアメリカでという場合も、我々のネットワークを使えばスムーズにできる」と、打てば響く対応力が強みであることを強調した。

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鹿島ビルディング&デザイングループ(KBDG)浦野信也社長

一方、アトランタに拠点を構える鹿島ビルディング&デザイン・グループ(KBDG)浦野信也社長は、上流からのプロジェクト・メイキングがポイントだと指摘する。現在、KBDGではインダストリアル・エンジニアやプロセス・エンジニアといった人材を補強しつつ、上流からのプロジェクト・メイキングを進めている。非常に競争が厳しい業界のため、いかに上流で仕事に関わっていけるかが利益率確保のポイントとなっている。

「工場は生産施設をカバーするための単なる器。その生産設備をいかに最適な状態で動かせるか。生産知識を持った人間が相談に乗りながら、建物をコーディネートしていくことが理想であり、これから我々が力を入れなければならない分野」だとし、同社のプロセス・メカニカル・ディビジョンが、長年蓄積してきた知識や経験を武器に、この動きを加速させていくと、決意を語る。

企業の発展は継続的な人材育成から

F1や新幹線のブレーキシステムにも採用され、その高い技術力に定評のある独立系総合ブレーキメーカー「曙ブレーキ工業」。世界12カ国で事業を展開し、2011年にはベトナム、12年メキシコ、14年スロバキアと現地法人を次々に設立、グローバル化を加速させている。同グループ全体売上の49%を担うのが北米市場。 巨大市場を管轄しているアケボノ・ブレーキ・コーポレーションの「アケボノ・プロダクション・システム(APS)」担当の大野ディレクターは、日本のモノづくりを継承する人材育成がグローバル化に必要となってきていることを指摘、次世代を育てるシステムの大切さを強調する。

モノづくりにおける、背景や原理原則を学ぶ場「DOJO(道場)」 (アケボノ・ブレーキ・コーポレーション)

モノづくりにおける、背景や原理原則を学ぶ場「DOJO(道場)」 (アケボノ・ブレーキ・コーポレーション)

 

 

 

 

 

「2011年から埼玉県羽生本社に『モノづくりセンター』を設置、手づくりの教材を用い、社員に『モノづくりの原理・原則』を身に付けさせている。この場を通し、『現場を強くできる人材』を養成し、グローバル拠点に同時に浸透させていく。今年3月末には『北米モノづくりセンター』が開設され、『DOJO(道場)』と命名したスペースに北米生産現場のマネージャーやオペレーターを集め、日本のモノづくりの技術や考え方を伝承する活動を開始。安全、品質、生産性、生産改善、そして、その前段階である整理整頓などの基礎技能を、文化的背景を説明しながら指導する。『より効率的なモノづくりとは』というテーマに基づいて、参加者全員が、自分たちで考えるプログラムが組まれている。ここで学んだリーダー達が、次の世代を育てる。北米市場のみならず、曙グループの今後の発展にとっても非常に重要な場となることは間違いない」 モノづくりは、その背景と原理原則を学ぶことからスタートし、最終的には自発能動力のある人材群が必要になるとの意気込みを語ってくれた。

日米を繫げる人材は貴重な存在

日本国内は成熟市場。アメリカはその点、マーケットシェア拡大のチャンスが大きい。シェールガス絡みの石化事業も復権。一本調子のビジネスではなく、ビジネスバリューを広げながら事業拡大の地歩を固めたいとするカネカ・アメリカス・ホールディング・インクの水澤伸治社長。カネカ・ファーマ・アメリカの社長も兼務する。

カネカ・アメリカス・ホールディング・インク 水澤伸治社長

カネカ・アメリカス・ホールディング・インク 水澤伸治社長

「ここ数年で、景況感は確実に好転している。我々も、工場の一部増設や新しいラインの建設などを行っている。今後は、医薬中間体、バイオロジクス、医療機器など、ライフサイエンスという大きな括りで事業を拡大したい。そのため、事業インフラを整備しなければならない」――焦点を絞った展開へと舵を取っている。が、「日本に、こちらの臨場感をいかに伝えるかが大事だ。理屈では動かない。前線の熱気を日米で共有してこそ、はじめてプロジェクトが動き出す。その点、アメリカはリスポンスが早い。見習う点も多い」。日米のビジネスプロセスを比較したその上で、日米のギャップを埋め、繋げていく有為な人材の育成が、今後、さらに重要になっていくことを強調した。

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2013年後半から求人マーケット全体が上向きに転じている。ポジションによっては、人材不足の状態が続いてきた。ここ数年の動きとして、日本語を必要としないアメリカ人の採用、特に営業職へのオファーが急増している。日系企業の現地化促進が進み、JETプログラム経験者のような、日本文化や言語に慣れ親しんだ英語ネイティブの人材に注目度が高まっている。

クイックUSAインクの山田幸生社長は、日本やアジアなど異文化を肌で感じ、理解できる「柔軟な人材」を確保することが、採用後の離職率を減らすことにつながると指摘、日本本社や駐在員の考え方に馴染めず、力を出せないまま退職していくアメリカ人も少なくないことを憂慮する。
「責任や権限の委譲を進め、現場でものを考え、判断できるような体制を整えることが大事。スピードアップはもちろん、何よりも従業員の成長が会社の成長と密接につながる。社内の人間が成長せずして良いサービスなどあり得ない。企業は、グローバルな人材を求めている。我々も、日本本社や上海、ホーチミンにある拠点と連携しつつ、もう一歩踏み込んだ人材サービスが提供できないかと考えている。キーワードは『グローカル』。海外拠点の基盤は既に整っているので、あとはどう道筋を作るかですね」
企業の人材要請は待ったなし。しかも、グローバル化している。そうしたニーズに素早く応えるには、グループ全体の人材育成と団結力にあることを強調した。

(UJP編集部)

 

 

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