Home > Featured > Trader Joe’sとWhole Foods Market  徹底比較調査2

トレーダージョーズ、ホールフーズも「働きたい会社ランキング」には必ず登場するほど、ここ数年、両社のイメージと顧客満足度が高くなってきてい
る。店舗で働く従業員の立ち振る舞いも機敏で、〝やる気〟を感じさせる空気や雰囲気が、通常のスーパーマーケットと比べ歴然と違っている。両社が掲げる企業理念や人材教育から人気の秘密を探ってみた。

 

買い物はエンターテイメント
トレーダージョーズの理念

トレーダージョーズ店のディスプレイや壁紙のイメージはまさに「南国」。店内にはアロハシャツを着た店員がいて、気さくに挨拶をしてくる。この人たちは「クルー」と呼ばれるフルタイマーの店員。このクルーの上にいるのは「メイト」と呼ばれるマネージャー。また「キャプテン」と呼ばれるストアマネージャーがいる。働くスタッフたちはトレーダージョーズという貿易船の乗組員というスタンスで働いているため、こうした独自の呼び方をしている。

価格表示のポップはすべてスタッフによる手書き。さらに、可愛いイラストが書かれた商品のパッケージ、お店に入った目の前には大量の山積みバナナ、キャッシャーのヘルプが必要な時に鳴らすベル、お客さんが会計することを「GRAND FINALE=(楽しい体験の終わり)」と呼ぶ。こうした遊び感覚を備えたエンターテイメント性は、買い物客の気持ちまで明るくさせる。

「楽しい買い物体験を提供」、「商品主導型」、「官僚制の禁止」「親しみある全米チェーンのグロッサリーストア」「KAIZEN!」「お
店自体が自社ブランド」が同社の【バリュー】と言われる企業理念。この企業理念を昇華させる過程で、スタッフ達は働くことの楽しさとやりがいを実感するという。
理念のひとつである「KAIZEN!」の起源は日本語。この言葉は別の言葉で言うとIMPROVEMENTだが、米国企業では、
各業務、それぞれの向上推進の目的に使われている。トレーダージョーズではスタッフは、個々の目標を達成するために、良いアイデアを従業員から取り入れる、カスタマーとの良好な関係性の保持、そして、それを実行していくといった意味で「KAIZEN!」を掲げている。

 

スタッフの「幸せ」を第一に
考えた好待遇のベネフィット

ホールフーズやトレーダージョーズのカスタマーへの対応は敬意が感じられ、とても清々しい印象を受ける。従業員へのモチベーションに直接つながるような労働条件や経営理念によるものだという見方があり、正社員のみならずパートタイマーまでにも、「働く満足度」を与えることに力を入れている。

ホールフーズは働く従業員は「チームメンバー」と呼ばれている。このチームメンバーの2013年度の平均時給は18・39ドル( 全米平均:$10・27)で年間平均は3万9289ドル。また多くの人に十分なベネフィットが用意されている。従業員全員にホールフーズの商品に対して20%のディスカウントがもらえる制度があり、血圧、コレステロール、禁煙、肥満度指数の基準をクリアしている人には、30%のディスカウントが与えられる。もちろん、全従業員に医療保険がフルカバーされる。
ボーナスはゲイン・シェアリング( 成果分配)の制度やストックオプション・プランなどもある。その他、社員特典も従業員のリクエストに対応して、マッサージ、ヨガ、語学教室にまで幅広い。こういったベネフィット・パッケージの内容は3年ごとに行われる従業員たちの投票によって決まる。

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ホールフーズの離職率は2013年度で4年連続10%以下をマークした(グロッサリーストア業界の平均47・4%*)。同社では従業員の定着率を高める戦略として、従業員の採用基準が厳しく行われている。すべての従業員は90日間の試用期間を経て、チームの一員としての働きが評価される。評価期間が終了すると、スタッフメンバーによる投票・評価によって本採用が決まるシステムになっている。

ホールフーズが採用しているこの人材保持戦略は低賃金、長時間という離職率の傾向が高い食品小売業界の労働環境に大きなインパクトを与えた。離職率の低下、人材の流出に伴う経費削減にも大いに役立つ戦略としてあらゆる業界から注目されている。
従業員の要望にはできるだけ耳を傾け、ひとりひとりの「幸せ」をまず第一にかんげるという企業理念は、すべてのパフォーマンスにも大きく影響し、働く場の雰囲気までも良い方向に変えるという信念を貫いてきたのも優良企業と言われてきた所以である。

※Workforce調べ

トレーダージョーズも給与が高いことで有名な企業のひとつ店長のキャプテンは、多くて約13万ドル(年間)、副店長は時給制になるが、年間6万ドル以上の平均給与額と一部では公表されている。採用試験は面接を重視しており、カスタマーとの Face to Faceという近い距離感を保つことができ、またベンダーとよい関係が作れるコミュニケーションスキルが高い人材というのが第一の条件として求められる。
トレーニングプログラム「Trader Joe’s University」では、マネージメント、リーダーシップ、コミュニケーションスキルを徹底的に学ぶ。また、RMTプログラムという独自の人材トレーニングプログラムも採用している。小売業でマネージャー経験がある人はこのプログラムを修了すればキャプテンへのポジションと最速の出世コースを歩める。 学士号以上の学歴、5年以上のマネージメントの経験がある人を対象とした将来のキャプテンの育成に特化したプログラムになっている。

経験がなくてもフェアなプロモーションの機会が与えられるということで大学生の新卒者にも指示されている。人材募集をかけたところ、人気店だと50ポジションに対して500人の応募があったという。パートタイマーがフルタイマーになることも日常的。週30日時間以上の労働時間を満たすパートタイムのクルーメンバーには、医療保険が適用されるといったベネフィットも良い。

 

ブランド力と商品力でマーケティング

メディア嫌いでインタビューすら受けず、社内の内部事情がベールに隠されているトレーダージョーズ、「広告」という概念もはっきり捨て去る姿勢も同社独特のポリシーである。TVコマーシャルや街頭ポスター、看板などの販促活動は行わない。そもそも、広告代理店やPR会社との契約も持たない。ブランドイメージを自らの商品で高めることに徹する。『品質の良いもの』「厳選されたもの』だけに集中して<商品力>を高める。そして、カスタマーサービスの向上にも重点を置く。ひとりひとりに向き合い、フレンドリーできめ細かやな対応。国柄、過剰なサービスはあまり見られない米国では、こうした姿勢が同社の人気をさらに高めた。カスタマーに商品がある場所を尋ねられたら、どんなに自分のしごとが忙しても必ず、商品がある場所まで連れて行って案内をする。けっして「○○通路にあります」といった対応はしない。返品の際は、理由を聞かずに返品を受諾するというスタンスもカスタマーとの信頼関係を強化するひとつの戦略とみる。

フライヤーや価格表示のポップ広告はアート専攻の大学生アルバイトや「アーティスト」と呼ばれる同社の従業員の手書きである。チョークでボードに描くだけのシンプルなものである。たまにラジオコマーシャルもやるが、これも従業員の声を使った告知だけのもの。
PR会社を使って広告に膨大なお金を使うとなると、商品のコストを上げなくてはならなくなる。借金はせず、外国への店舗展開も視野に入れていない。これは、堅実はで有名な創業者、ジョー。コロンビーの時代から同社の信念として受け継がれてきた。

また、限定セールもあまり行わない。「毎日低価格で提供しているため」という理由だ。年に4回ほど「Fearless Flyer」というチラシを発行しているが、ここにはセールの情報や値段すら小さく載っているだけで、購買欲を直接刺激するような作りにはなっていない。イラストの商品絵本カタログといった感じだ。今の時代らしからぬTwitterやFacebookなどのSNSの力も借りてない。

 

ホールフーズはファンやコミュニティサイトに訴求
SNSマーケティングを大いに利用

ホールフーズが提供する健康的で安全な食品・食材は全米の人たちのライフスタイルを大きく変えさせるほどの社会的影響を与えた。「ホールフーズで楽しくショッピングをしながらダイエットをしよう」といったテーマのダイエット本も数多く書店に並ぶ。今でオーガニック食品など耳にしていたはものの、身近な存在とは思えなかった人たちに新しい食品の概念を植え付け、体験する機会を与える。そしてもう少し広い範疇で「環境」への関心を促し、良心を呼び起こしたと言ってもよい。 同店のファンはホールフーズで買い物をする自分の生活スタイルを愛し、そして食への関心が強く、健康志向も高い特徴がみられる。ホールフーズはセールの告知やレシピの提供、カスタマーケアの場としてSNSを活用しているが、こうした熱烈なサポーターやファンがすすんで、公式ではなくTwitterやFacebookのアカウントをファンサイトとして作り、コミュニティを形成しているのも興味深い。ホールフーズだけではなく、トレーダージョーズも同様にこのような現象が見られる。商品やレシピを載せたブログやTwitterを通して全米のファンとの交流が盛んに行われており、ファンが創刊した非公式のお店のガイドブックなどもある。

こうして企業の代わりにPR活動を行ってくれるカスタマーとの緊密な関係を築き上げているのも時代に呼応した新しい小売業のあり方でもある。買い物が義務的な家事の一貫から娯楽のひとつとなり、人々のライフスタイルにまで変化を及ぼした。両社は食品小売業界の未来の展開を占ううえで、今後の動きが、その他の多業種からもさらに注視されていくことだろう。

 

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