「日本では化学品の研究開発現場に13年間居ました。その間に培った経験や勘が、今の業務に非常に役立っています。アメリカでのビジネスはチャレンジの連続で、しんどいですが、その分やりがいもあって、大変楽しんでいます。」と、3年前から米国赴任をしている北國氏。この3年間で売り上げも人材も増えた。
昭和電工アメリカでは、合成ゴム関連樹脂や半導体ガスなどの化学品、アルミナを代表とする無機材料、さらにリチウムイオン電池関係の材料を取り扱っている。特に最近、自動車や住宅関係が好調な米国では、売り上げも上向きだ。一方で手強い競争相手が多いことや、日本から製品を輸入しているため輸送費負担や為替の影響が大きいことなど、この国での商売の難しさも感じている。
「合成ゴム関連での弊社のマーケットシェアは非常に小さいですが、グレードを細かくして、よりお客様のニーズに近づける努力をしています。得意のニッチなサービスを駆使して、自分たちにしかないオリジナルを作ることに今のところ成功しており、競合大手との衝突もうまく回避できています。また我々しか持っていないオンリーワン製品に関しては、焦らずじっくりと伸ばしていき、いろんな分野や用途で使うチャンスを狙っています」。
3Dプリンター技術のスピードに 追いついていくことが大事―――
そして今一番注目している次世代マーケットとして、「3Dプリンター」に熱い視線を注ぐ。すでに実用化に向け動きが活発化しており、昭和電工アメリカのもつ独自素材が活かされる市場だ。
「3Dプリンターの分野は、日本よりアメリカの方が発想や行動がより柔軟で、実用化に向けて一歩リードしているように感じています。これまで製造が難しかった複雑な形状をもつ製品を、この技術を使って大量生産して、それがすぐに市場に普及する、とにかくやるスピードが早いですよね。そのスピードに追いついていくことがこの国で商売するうえで大事だと思っています」。
米国で生まれる新しい発想やアイデアがヒントとなり、新技術に繋がることもある。これらをうまく日本にフィードバックして、今よりもっと早いサイクルで製品の開発が進むことを期待する。そして、日本での昭和電工に勝るプレゼンスを米国で築いていくことが目標だ。そのひとつに、今急速に伸び始めているパワー半導体では、先頭集団から一歩でも早く抜け出すために、より多くの顧客から信頼を獲得する戦略を展開している。
「わたしは初めに研究者としてスタートし、世の中の役に立つと思ったものを創って、実際にお客様にご評価いただき、その有用性を確かめ、製品として送り出し、自分でそれを売って、新しいマーケットも作り上げてきました。一貫した流れを経験できたことは本当に貴重な体験でした。この会社に入って本当に良かったと心から喜んでいます。」
新しい発想と役に立つものを作りたいという情熱こそが、無限の可能性を秘めた化学のチカラを最大限に引き出すことだろう。