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ブロックチェーンを探る

仮想通貨を生み出した
ブロックチェーンを探る

ブロックチェーンの発展と可能性

ビットコインによって仮想通貨は物すごい勢いで広がった。今後もこの仮想通貨はウェブ上での決算、ビジネス上での契約や金銭取引では欠かせない通貨となり、日常生活でさらに身近な存在になっていくだろう。このビットコイン取引を成り立たせているのが「ブロックチェーン」という新技術である。今後、このブロックチェーンは世界のあらゆる業界の構造に変化をもたらし、物事の価値を変えていくと言われている。この革命的なブロックチェーンの基本と、その技術について触れてみたい。

「ブロックチェーン革命」と言われているほど、ブロックチェーンの技術は、あらゆる業界で今最も注目されており、世界の経済をひっくり返すほどの大きなインパクトを与える存在となっている。インターネットの革新的な技術によって社会が一変したように、ブロックチェーンも、社会にさらなる変化をもたらすだろうと言われている。金融界にとどまらず、多岐に渡る業界に、このブロックチェーンの技術は応用されていくであろう大きな可能性を秘めている。

 

ブロックチェーン最大副産物の仮想通貨

なぜブロックチェーンが革新的か
世界規模におけるブロックチェーン市場規模推移と予測( 2014年~2024年)

世界規模におけるブロックチェーン市場規模推移と予測( 2014年~2024年)

ブロックチェーンの技術が使われている代表例として、真っ先に挙げられるのが、先日の仮想通貨の一種である「NEM(ネム)」の流出問題でさらに関心が集まっている仮想通貨取引だ。ビットコインで知られるこの仮想通貨の取引システムは、2008年に「サトシ・ナカモト」という謎の人物によって論文が発表されたことからすべてが始まった。この人物はいまだに特定されておらず、ある大きな組織が日本名を名乗って発表したという噂もある。この忽然と現れた革命的な技術は瞬く間に世界中のエンジニアやプログラマー、各方面の研究者の注目を集め、2009年に最初のビットコインが発行された。

ビットコインの根幹技術であるブロックチェーンの大きな特徴は、組織や会社が管理していた取引、契約などといったあらゆる情報が暗号技術によって分散化、自動化、自立化ができるようになる点だ。つまり、クラウドのようにひとつのサーバーで管理されているのではなく、データの分散台帳が世界中のユーザーの個々に所有するコンピューターで管理、保有されている。この仕組はP2P(ピア・ツー・ピア)という分散型ネットワークの仕組みを活用しており、ビットコインはこれに暗号化の技術が組み込まれている。大きな特徴として、ブロックチェーンというその名の通り、「データの連結」という要素が大きいため、データの改ざんを行うことができないようになっている。「ブロック」とはある一定期間の取引データが集約されたもので、このブロックが連結されているため、特定のデータを改ざんしても他のデータとの整合性が取れないために、データの違いがすぐに露見されてしまい、取引がそもそも承認されないという問題が起きる。つまり、仮想通貨取引でデータの改ざんを行おうとすると、すべての個々のデータを改ざんしなければならなくなるということだ。

従来は、銀行といった大きな組織である金融業者が中核となって通貨の発行や流通を行ってきた。ビットコインが金融業界の仕組みを大きく変えると言われている所以はこのブロックチェーンの技術によって高い信頼性が求められる金融取引をカバーできるという点も大きいが、銀行などの金融機関を介さずにユーザー同士が直接通貨の取引がとなるというメリットも注目される要因のひとつだ。時短取引、送金手数料の削減、また取引過程の透明化といった利点もある。海外取引の需要が高まる風潮にマッチしているという点が大きい。

さらにブロックチェーンは、最も凡庸性がある技術として知られている。あらゆる業界のシステムに応用することが可能になり、効率化が実現できるという。絶対的な中核組織という存在への信頼性、またグローバル化によって拡張されたネットワーク整備への懸念、そして従来のインターネットのセキュリティ面での脆弱性に不安といった翳りが、ブロックチェーンという新しい技術を生み出したといっても過言ではない。

すべての取引や情報システムをフラットに公開することによって、オープン化され透明化へと導く。これからの時代に求められる正確性や公正性、安全性を確保できるという重要な要素をブロックチェーンは持ち合わせている。

 

業界を率いるリーダーとなり得るIBM

先端をいく米国企業による取り組み

現在、ブロックチェーン事業分野におけるキープレイヤーで言うと、マイクロソフト、IBM、Digital Asset Holdings、Deloitte、Ripple、Chain Inc、Abra Inc、BitFury、Blockchain Tech Ltd(カナダ)などが挙げられる。

IBMは、以前からブロックチェーン技術への将来性を高く評価しており、積極的に参入している企業のひとつだ。ブロックチェーン領域において最先端の取り組みを積極的に行っている。つい先日もデンマークの海運大手 A・P・モラー・マースクとブロックチェーン技術を貿易情報に活用したソリューションを提供する合併会社の設立を発表した。グローバル貿易はネットワークの拡大に伴い、ますます複雑化が進み、輸送量の増加が止まらない。これらをカバーする管理コストが膨大に膨れ上がっているという背景がある。このような問題への解消策としてブロックチェーンの技術を投入する。このIBMの合併会社は、新企業の設立を目的とし、国際貿易をデジタル化するプラットフォームを共同で開発、提供を行う。ブロックチェーンの技術によって輸送システムデータを貿易パートナー間で単一化、また共有、透明化が実現され、トラッキング、輸送コストの最適化にもつながる。コンテナ輸送のグローバルリーダーであるマースク社と、ブロックチェーンのリーディング・プロバイダーとして確立しつつあるIBMの合併は、運送業全体に新風を吹き込む大きな取り組みといえる。

ブロックチェーン 期待される導入分野と例

ブロックチェーン 期待される導入分野と例

さらに、IBMが特に注力しているのは、サプライチェーンだ。ウォールマートやユニリーバや Kroger、ネッスルといった食品や日常品などを主に扱う小売業との提携により、食品関連の小売業の輸送システムをブロックチェーンと連携させることで、あらたな市場を切り拓いている。同社はその他、金融サービス、政府、デジタル著作権管理、医療など幅広い業界との連携も図っている。世界有数のIT企業の勢いに押され気味だった老舗のIBMだが、2016年以降、企業向けのブロックチェーンによるソリューションを構築に乗り出したことによって、今最も先鋭的なブロックチェーンのリーダーとなって世界を牽引する大きな存在となりつつある。

 

金融業には必要不可欠な技術

投資会社 Anthemis グループは、ブロックチェーンの導入によって、2022年までに銀行のインフラにかかるコストが150~200億ドル削減できるという予測データを出した。金融事業をブロックチェーンの技術に置き換えることによって、あらゆる金融取引にかかるコストの削減、時間の短縮、信用確認、不正取引等のリスクの低減が効率的に行えるようになる。さらに、新通貨取引サービスといった新事業の展開も期待ができる。このあらたなプラットフォームの構築は金融界を大きく揺るがすことが予測される。

すでにウォール街でもブロックチェーンを利用した新開発に大規模な投資が行われている。ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェース、SBIホールディングスなど世界の大手金融機関100社以上が米国のブロックチェーンを開発するベンチャー企業であるR3への出資を行っており、コンソーシアムを組んでいる。R3が提供するネットワーク上でお互いの金融機関による取引データを承認する仕組みを構築し、すでにテスト運用が成功しているという。シティグループは、早い段階で数年前からブロックチェーンに目を向けており、昨年、ナスダックと提携を図った。独自の技術を使った金融取引への協会体制を目的とし、自社の法人決算サービス「シティコネクト」を開発。すでに実験を行い、早くも実現化へと進めている。

日本では筆頭株主となるSBIホールディングスの他、三菱UFJと住友三井、みずほグループといったメガバンクと野村ホールディングスがR3コンソーシアムの参加企業に名を連ねている。SBIグループはブロックチェーンのプラットフォーム確立に向けたプロジェクトを世界規模で進めている。2016年に同社はブロックチェーン推進室を設置。ブロックチェーンを応用した「Corda」の商品化の準備を進めており、日本における Corda の普及に積極的な姿勢だ。また、国内大手の保険会社を有する損保グループも、ブロックチェーン業界有数のシェアを誇る Bitfury グループとの提携を昨年末に発表したことが記憶に新しい。

証券や海外送金事業への強化を実現させるには、もはや日本の金融業もグローバルスタンダード化しつつあるブロックチェーンなしでは成立しないという状況にきていることが伺える。

あらゆる業界によるブロックチェーンの取り組みも加速している。大手通信業のベライゾンはブロックチェーンのベンチャー企業である Filament に15ミリオンを投資した。ジェットブルー航空も同社への投資を行っている。ジェットブルーのテクノロジー投資家であるボニー・シミ氏は「Filamentの技術は、航空会社のよりスマートで効率的な運営の可能性を持つ新しい世界への鍵を開けてくれる」とコメントしている。

モバイルや航空会社といったグローバルなネットワークを持つ業界にはブロックチェーンの技術の採用によって大きな飛躍が期待されると言われている。モバイル業においては、端末の接続点を計測やデータ盗用やハッキングなどの安全性の確保、モバイル機器同士の取引の透明化、利用状況のモニタリング、これらがブロックチェーンの技術によって可能となり、コストの削減やネットワークの拡大、そして使用料金の安価にも繋がる。

また、自動車業においては、走行履歴などのデータの共有や各種センサー情報、所有者や安全情報の収集が行える。トヨタの自動運転やAIの研究や開発を行う米国のトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)は、ブロックチェーンの分散型アプリケーションを構築するプラットフォーム、Ethereum の企業コンソーシアムに参加したことを発表した。Ethereum は仮想通貨である「Ether (イーサ)」を発行しており、ビットコインに次ぐ時価総額規模を持つ。R3コンソーシアムは金融業が主体となっていたが、Ethereum は、マイクロソフト、シスコ、アクセンチュア、デロイト、インテルなどあらゆる業界が参加しているという若干の相違が見られる。

 

「スマートコントラクト」

ブロックチェーンを語る重要なキーワード 
ビットコイン・ブロックチェーン週間統計

ビットコイン・ブロックチェーン週間統計

ブロックチェーンのシステムの重要な要素として「スマートコントラクト」が実行できるという点だ。スマートコントラクトとは、複雑化した売買取引の処理を実行する際に有効活用できるという技術で、買う側は必要な金額を支払う、売る側はその対価を受け取るといった書面上という枠を超えた全般的な契約、取引行動を指す。

スマートコントラクトを使えば、参加者が合意したプログラムコードに基づいて共有データを処理でき、複雑な取引や手続きを要する証券決済、不動産取引などで、対価の支払いや使用権の移転といった契約(コントラクト)行為を自動的に実行できる。特に自動車やレンタカー、不動産、証券など所有者が頻繁に移動するようなサービスには最適だと言われている。

 

今後の課題と将来性

スマートコントラクトが応用されている代表例が Ethereum が発行している仮想通貨Etherだ。ブロックチェーン上に所有者権情報を保管しておき、支払いが完了すると同時に自動的にコントラクトの条件が書き換わる。さらに Ethereum はこのスマートコントラクトを利用した音楽配信サービスの提供も行っている。楽曲を仮想通貨で購入し、それが直接、契約上の著作権の保有者に支払われるという仕組みだ。聴きたい人が楽曲を作った人に支払うという対価取引が時間をかけずにその場で行える。従来の音楽のあり方までも変えるという画期的なサービスとして話題となっている。まさにこのスマートコントラクトは、急成長している「シェアリングエコノミー」にも最適な技術であるため、今後もさらに定着していく可能性が高い。

先日のコインチェックによる流出問題で仮想通貨の安全性に疑問を抱いた人も多いだろう。

しかし、この事件の背景については、ブロックチェーンにおいての仮想通貨の取引システムに問題があったわけではなく、ネムという仮想通貨の性質による取引所のセキュリティ面における監視体制の不備、つまり警備に要する人手不足が要因だったというのが専門家の見方だ。しかし、こうした仮想通貨の流出事件は多発している。法的整備もまだ完全に追いついていない、また専門的な分野としては未熟なため、熟成したエンジニアの確保や育成にも力を入れていかなければならないといった多くの課題も残されている。こうした、新しい技術を投入した新市場における動向を注視しながら、知識のアップデートとリテラシーを高め続けていくことは欠かせないだろう。

今後、ブロックチェーンは、多種多様な分野への活用は飛躍的に進む。世界の先鋭企業による勢力争いの激化も必至だ。アマゾンも仮想通貨市場への参入を目論んでいるという話もある。アップルもブロックチェーンのシステムを使ったタイムスタンプ認証というプログラムを開発中との報道もされた。膨大なデータを持つグーグルやフェイスブックも、どのようにブロックチェーンを応用させていくかが、新たなステージへと進む鍵となるだろう。