需要拡大と人材獲得とのギャップが浮き彫りに
今後さらに深刻化することが予測される人材不足問題。高齢化が進む米国において、介護関連の職種の需要の高まりと肉体労働などを要する建設労働者の減少などはすでに厳しい状況だ。これからの激化していく様々な職種での人材獲得競争においての企業の課題や人材不足を切り抜けるための戦略をデータとともに見ていく。
米国労働局が発表したレポートによると、2016年から10年間で米国の雇用数は1150万増加し、2026年には1億6000万760人の雇用数に達すると予測している。好景気が本格化する米国経済で雇用環境は改善しているものの、中には人材不足の問題を抱えている職種もある。業態が多様化し、人材確保が複雑化、さらに専門性の高さが重要視される現在の雇用情勢において、いかに優秀な労働力を確保できるかが、企業の成長戦略の重要課題となる。
人材需要の高まりに伴う人材不足という問題

人材確保が難しい職業 2018
大手リクルーティングサイトの CareerCast が発表したレポートで、米国労働局のデータ、卒業・過程修了率、同サイトの求人リスティング傾向のデータを基に、近い将来に最も人材不足の問題に直面する職業は「アプリケーションソフトウェア開発」という調査結果が出た。2026年までに求人案件の4割超えを占めるまで需要が高まるという。労働局は今後8年の間に「パーソナルケアエイド」が約78万人、「建設作業員」が約15万人の人材不足に直面すると予測している。これらの職業は人材需要が今後も高まり、求人の増加傾向にあると同時に、雇用者が求めるスキルと求職者の持つスキルのミスマッチが起こる可能性が高い。さらに、求人に対する応募者の減少といった様々な要因が重なり合っていることが考えられる。
特にホームヘルスケアといった介護職、またスキルの高い看護師などは重労働で職場環境が厳しい上に、それに見合った収入が得られないという背景もある。また、雇用者側がより専門性が高く、高度なスキルを持つ人材を求める傾向があるのも特徴的だ。労働局は2026年までにホームヘルスケアは47.3 %、パーソナルケアエイドは38.6 %、医師アシスタントは37.3 %、看護師は36.1 %の雇用が増加することを見通している。高齢化が進む米国においては、これらの介護関連の職種をはじめ、看護師や医師などの雇用需要がさらに拡大することは避けられない。
CareerCast の編集者は、「肉体労働を要する建設労働者の数は減ってきており、特に若い人材確保はかなり厳しい状況にある。雇用者が条件とする求職者の持つスキルのギャップが激しいことが人材不足を引き起こす要因だ」と指摘している。トラックドライバーも求人数は増えている一方でドライバーの高齢化といった問題を抱えており、肉体労働の労働環境の厳しさをイメージする職業は、若者が敬遠しがちな傾向にある。
雇用主は複雑化、多様化する業務に対して、よりスキルが高い人材を求める傾向が高まっている。特に医療や建設業、ITなどの特殊な専門分野において「現場」でスキルを発揮できる高い専門技術を持つ人材の需要がより高まっている。その一方、そのようなスキルを持つ人はより高い収入を求めて労働条件が良い職場へと移動する。とくに高度なIT技術を擁する人材は、あらゆる業種での適用能力があるため、多種多様な業種へと流れていくといった構図ができている。
製造業の人材不足も深刻化
McKinsey Global Institute の調査によると、身体、手作業といった「フィジカル・マニュアルスキル= Physical and Manual skills」を必要とする製造業の組立作業やドライバーなどの仕事の労働人口が2016年から2030年までに10 %近く減少すると予測している。その対となるクリエイティブ職や医師などの専門スキルを必要とする「ハイヤーコグニティブスキル= Higher cognitive skills 」の職種は10 %、「テクノロジースキル」を必要とするITの職種は2030年までに60 %以上の伸び率になると予測している。
Korn Ferry’s Global Talent Crunch のリサーチでは、能力の需要と供給のギャップが最も大きい職業として、ファイナンシャル&ビジネスサービス、テクノロジー、メディア、テレコミュニケーション、製造業を挙げている。このギャップによって人材不足が生じ2030年までに8500万人の求人の空きが出ると分析している。
米国人材マネジメント協会の SHARM のリサーチでは、製造業が求めるスキルの条件を満たす人材の不足、また経験年数が不十分 といった問題が人手不足を招く大きな理由として挙げられている。製造業の労働人口は拡大しており、雇用環境も活発化している中、特に高度なスキルを持つ人材の確保が常に困難な現状で、今後ますます深刻化が進むと言われている。いずれ世界で790万人の製造業の人材が不足するという。製造業の賃金は、2018年の4月は時給 21.49ドルだったのが、5月は時給 21.39ドルに下がっている。景気堅調で求人数も増加している製造業において、新規雇用の獲得、現従業員の長期定着を促すために、企業の取り組むべき課題であるベネフィットの向上や賃金の値上げに今後は期待したい。
最も空きがある職種?
米国労働局が統計を取った2016年から2026年の間に最も人材募集件数が増える職業は、第1位がフード業の調理師など(ファーストフードを含む)、2位が小売店の販売員、3位がキャッシャー、4位がウェイター、ウェイトレス、5位がパーソナルケアエイドだった。
このような職業は、対人サービスという共通点がある。また、離職率、ならびに配置転換頻繁度が高い。こうした流動性がみられるサービス業は常に人材募集の空きが見られる。
これらの職業は、高度なIT技術やロボットの実用化も進みつつあるが、求職者の増加、定着率を高めるための賃金の値上げなどの早急な対策も求められている。

最も空きのある職業 2016-2026年の間に最も空きのある職業
人材不足を切り抜けるための戦略とは?
雇用者はスキルマッチングをどう効率的に行っていくかが、人手不足の困難を切り抜けるキーポイントとなってくる。CareerBuilder による雇用主を対象にしたリサーチで、2018年の優秀な人材確保を目的とした求人活動のポイントとして、①新卒者を狙ったリクルーティング、②外国人雇用、③元従業員の再雇用、④トレーニングの充実化、⑤高額給料の5つを挙げている。
①は、2018年、米国の雇用主の64 %が新卒者の雇用を予定しているという背景もあり、ローカルの大学に通う優秀な生徒を早い段階で確保するという戦略は、雇用率をアップするカギとなる。実務で手厚いトレーニングを行い、社会人の育成を視野に入れた懐の深い教育を行うことを前提とする。②の外国人の採用を中心に考えている雇用主も多く、グローバルに求人活動の土壌を広げることも必要になってくる。グローバル基準を満たすスキルを持つ人、またグローバルマインドでモノを考えられる人材は企業にとっても大きな財産となる。④のトレーニングについては、求める能力の基準に満たない、未経験の人材をまず確保することから始まり、それから実務トレーニングでスキルを伸ばしていくといった先を見据えた雇用戦略である。⑤の高額給料は、能力が高い人材確保への近道と言える。賃金の値上げやベネフィットの向上に力を入れることで離職率の低減化をはかることができ、長期雇用によってトレーニングにかかるコストの削減が実現できる。また、優秀な人材を自ら生み出すことが企業の利益へと繋がる。同リサーチで、30 %の雇用主が初任給の給料の額を現状より5%上げることを考えており、36 %の雇用主は既存の社員の給料の値上げを予定していると回答している。Global Talent Crunch の調査で米国では人材不足によって、2030年までに8兆5000億ドルの損益を生み出すと予測している。優秀な人材の獲得競争はますます激化し、人材不足はどの企業においても直面する問題だ。優秀な人材の新規雇用の獲得の拡大、優秀な現従業員の維持が重要課題となってくる。企業文化の創造やブランド価値の向上、ベネフィットや給料体制の見直しなどといった職場環境の整備や改善、そして、いかに労働者との価値観のギャップを埋めていくことができるか、経営者側の高度なマネージメントスキルが必要になってくる。