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【JETRO REPORT】原油の鉄道輸送が急増、5年で40倍超に

March, 2015 Issue 「Kigyo Gaikyo News」
米国ではシェール革命により原油の生産量が増加しているが、輸送を担うパイプラインが不足している。その代わりとして、注目を集めるのが鉄道での原油輸送だ。パイプラインと比べた輸送先選択の柔軟性や建設の早期実現性などでも評価され、輸送量は2008年から42.9倍に急増した。一方、安全面での懸念が課題としてあり、規制が強化される方向だ。

<原油の増産に追い付かないパイプライン>

米国の原油生産は、1970年の平均960万バレル(日産、以下同)をピークに下降を続けていたが、シェール革命により2009年に増加に転換。2013年は744万バレルを記録し、2008年から1.5倍に急増した。最近の原油価格の下落から、今後の生産量は不透明になりつつあるが、それでもエネルギー省エネルギー情報局(EIA)は、2014年は860万バレル(前年比15.5%増)、2015年は932万バレル(同8.4%増)と、増産が続くと予想する(図1参照)。

ジェトロリポート 2015年3月 図1

原油増産の一方で、輸送を担うパイプラインは不足している。加えて、新規建設も環境団体からの反発などで難航している。そこで、パイプラインの不足分を補うかたちで急増しているのが、鉄道での原油輸送だ。米鉄道協会(AAR)のレポートによると、米国の一級鉄道から輸送された原油量(車両数ベース)は2008年から2013年にかけて42.9倍に増えた(図2参照)。同レポートは、2014年上期に生産された原油の約11%が鉄道輸送されたと計算する。

ジェトロリポート 2015年3月 図2

シェール革命により産油量が飛躍的に延びているノースダコタ州を中心としたバッケン・シェール層の原油は、鉄道輸送への依存度が特に高い。ノースダコタ・パイプライン協会によると同州ウィリンストンからの原油輸送は鉄道が6割を占める。比較的新興の産油地のため、パイプラインだけでなく製油所も足りない。製油所の多くはテキサス州やオクラホマ州などの伝統的な産油地か、タンカー輸送用の沿岸部(カリフォルニア州、ワシントン州、ニューイングランド地域、メキシコ湾岸)に所在している。

<輸送先の柔軟性や建設の早期実現性が利点>

当初はパイプラインが建設されるまでの代替手段と考えられていた鉄道だが、最近では恒久的なエネルギー・インフラと捉える向きがあり、産油地や製油所の集積地では鉄道建設が進んでいる。鉄道の利点が評価されているためで、例えば輸送先が決まっているパイプラインと比べて、鉄道は全米に張り巡らされた路線の中から行先を選べる。地域によって原油価格に差が出る中、最も高く売れる行先をその時々に応じて柔軟に選べることは鉄道の利点となっている。また、原油の純度に関する顧客の要望も、パイプラインでは難しいとされるが鉄道なら対応できる。

さらに、鉄道は新規に建設するにもパイプラインや製油所と比べて時間や費用が圧倒的に少なくすむ利点がある。「鉄道の原油積荷ターミナルは1年で建設でき、5年で費用回収できる」(米石油・天然ガス輸送大手キンダー・モルガンCEO)、「我々は(1日に6万バレルを積荷できるターミナルの建設を)8ヵ月で達成した」(ヒューストンを拠点とする石油・天然ガス生産大手EOGリソーシーズ前会長)と、鉄道建設の早期実現性に注目が集まっている(「ウォール・ストリート・ジャーナル紙」(9月21日))。同紙によると、大規模な鉄道の原油積荷ターミナルは建設に5,000万ドルかかるが、これは計画が難航しているキーストーンXLパイプラインの1マイルの建設コストと同じだという。パイプラインの建設者は投資額が大きくなるため、建設に先立って掘削業者や精油業者に長期運送契約を要求することになるが、鉄道にはこうした制限もないという。

鉄道輸送の利点に注目が集まる中、鉄道会社やタンク車メーカーなど関連産業の売上は増加していて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(9月21日)によると、主要な鉄道会社の原油輸送の売上は2008年の2,580万ドルから2013年には21億5,000万ドルに伸びた。同紙によると、北米の鉄道業者の中で原油輸送取扱高が最大なのは米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が保有するバーリントン・ノーザン・サンタフェ(BNSF)で、同社は2013年には鉄道での原油輸送プロジェクトに2億ドルを投資したという。2014年には原油輸送に関し、ノースダコタ州、ワシントン州、モンタナ州、イリノイ州、ミネソタ州を通る北回廊線に10億ドルを投資する計画だ。

<安全面から規制強化の動き>

原油の鉄道輸送で懸念されるのが安全面だ。事故が起きれば甚大な被害が出る危険性があり、2013年7月に起きたカナダのケベック州ラック・メガンティックでの原油輸送列車の脱線爆発事故では47人が死亡した。原油を積んだ列車が、高速旅客列車と同じ路線や人口密集地を走ることを不安視する意見は多い。

運輸省は2014年5月、有事の際の対応を強化するため、鉄道会社に対してバッケン産原油を運ぶ列車が通過する地域を各州の緊急対策委員会(SERC)に報告するよう義務付けた。バッケン産原油は、他の原油と比べて引火性が高いことが指摘されている。

7月には、原油を含む可燃性物質の鉄道輸送に関する新しい規制案を発表した。タンク車の基準を強化し、「DOT‐111」と呼ばれる古いタンク車が新基準に適合できない場合に2年以内に廃止することや、積載物の検査、安全な路線の査定、速度制限、ブレーキ強化などが提案された。これに対し石油や鉄道などの関係業界からは、新基準に適合したタンク車の生産や改良は2年では間に合わない、更なる速度制限の強化は輸送システム全体の混乱を引き起こす、などの意見が出ている。新規制は2015年初めに制定される予定だ。

ジェトロ・ニューヨーク事務所
太田尚子

 

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