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ファストフード業界 5つの変革

「食」を取り巻く環境が変化し、世相を映し出すファストフード業界が時代に迫られる転換期を迎えている。米国のファストフードチェーン店がどのような変革を図っているのか、最新動向に迫ってみる。

ファストフードの消費量が最も高い年齢層

**国立保険統計センター(National Center for Health Statistics)の調査で、2013 年から 2016 年の間で、全体の約 37 %が頻繁にファストフードを食べていることがわかった。

この中でも 20 代から30 代の 45 %、次に 40 代から 50 代が 38 %と、ミレニアルズを含めた年齢層が最も消費量が高いという結果だった。これらの層は購買力や収入が最も高く、生活も忙しい毎日を送る人たちだ。また、収入レベルでは、 32 %が低所得者、 36 %が中所得者、そして最も消費量が高かったのが、高所得者の 42 %だった。

ジャンクフードからの脱却へ

米国では低所得者層の肥満率が高い≒ファストフードの消費率が高いという定説が浸透しているが、この結果からも分かるように、高所得者のファストフード消費量が高いという結果が出ている。また 30 代、 40 代、 50 代は、最も労働時間が長く毎日が忙しい年齢層だ。経済の中心的存在のミレニアルズは、特に食べる時間を削ってでも働く。2週間に一度は外食をしているデータもある。それと同時に、「食」に関する興味や意識も高く、味はもちろん質や産地にこだわる。つまり、「早い」「安い」よりも「早い」「良い」、つまり1ドルでも値段が高くても、限られた時間にいかに効率良く美味しくて栄養価の高い食事が取れるかというところに食選びの重点を置いていることが分かる。

これまでのファストフードは、カロリーが高く、低栄養価、塩分過多により肥満や成人病を引き起こす要因など、『ジャンクフード』と異名を持つほどのマイナスイメージが高かった。そして近年、スクールランチでのファストフード禁止、ソーダ税の導入、炭酸飲料水の容量制限、カロリー表示の義務化といった政府による対策が強化。米国全体にヘルシーブームが一気に浸透し、この傾向は業界にダメージを与え、各チェーン店の売上も減少傾向に陥った。時代のニーズとのギャップが生じてしまったファストフードは今、「早さ」という武器を生かしつつ、従来のイメージからの脱却を図るため、企業全体のコンセプトやメニューの変革に迫られている。

変革①

多様化

ファストフード業界誌 QSR Magazine が発表した最も成功したファストフードチェーンランキング(2016)を見ると、 1 位のマクドナルドから 10 位のドミノまでは世界規模のメガチェーン店である。ランクインしたジャンルは、ピザ、ハンバーガーが多いが、コーヒー・カフェ、その他、メキシカンフード、サンドウィッチ、フライドチキンといった幅広いジャンルの多種多様な顔ぶれだ。 11 位の Panera Bread は、全米の 250 店舗近くあったベーカリーチェーンの Au Bon Pain のオーナーだった Ron Shaich が 1993 年に St. Louis Bread Co を買収し、名前と形態を変えて新しく生まれ変わらせたファストフードチェーンだ。米国とカナダのみの店舗展開を行っているにもかかわらず、 2000 店舗数まで増加、年間 50 億ドルの売上を達成しており、ここ近年は飛躍的な成長を遂げている。同店はハンバーガーもフレンチフライもない。主なメニューはパン、サンドウィッチ、サラダ、スープ、などのヘルシーなパワーフードのメニューにこだわる。他にもスープの Hale and Hearty、サラダの Chopt や Simply Salad、 Just Salad、Sweetgreen、カスタマイズできるサラダボウルで人気を得た Fresh & Co とヘルシーメニューにこだわったファストフードのチェーンは、ここ数年で急成長した。さらに、チャイニーズの Panda Express やメキシカンの Chipotle、地中海の The Humms & Pita Co.、Mamoun’s Falafel と、国際色豊かなチェーン展開の波が押し寄せており、ますます多様化が加速している。

変革②

ヘルシー化

近年はより外食文化のヘルシー化は加速しており、オーガニック、ナチュラル、ローカルフード、パワーフードといったワードがファストフード業界内でも日常的に飛び交っている。客層の核となるミレニアルズはこうした品質にこだわりを持ったフードに惹かれ、特に健康志向の高い都市部などにその傾向は強まる。 100 %ベジー素材を使った by CHLOE. は、ニューヨークのマンハッタンに9店、ボストンに3店、ロサンゼルス、ロードアイランドに各1店舗ずつ店を構える新鋭のベジーバーガー専門店だ。今後もさらなる店舗拡大を狙っている。同じく、ベジーバーガーをシグネチャーメニューに持つチェーン店の Veggie Grill は現在、本拠地のカリフォルニア、ワシントン、オレゴンに 28 店舗を構えており、 2020 年までに店舗の倍増を目指している。ボストンを拠点とする b.good は、「farm to table」のコンセプトを掲げ、自家栽培、また地元の農家とのパートナーシップを結んだ自産自消の素材を使ったサラダやサンドウィッチ、スムージーなどのメニューを提供。米国内に 60 店舗展開しており、カナダやドイツなど国外にも進出している。これらのヘルシーのコンセプトを前面に押し出したチェーン店の成長は今後も期待が高まる。

変革③

テクノロジー化

Panera Bread が急成長した背景には、積極的なテクノロジーの導入、利便性と迅速化、効率化に力を入れている点である。他のチェーン店よりもいち早く取り入れた「Panera2.0」と呼ばれるテクノロジーを駆使したサービスの主体となるのが、マクドナルドなどが現在導入に急いでいるモバイルオーダーである。モバイルアプリから注文して、店内に設けられている店内の棚でピックアップする。また、デジタルキオスクと呼ばれるオーダーパネルを店内に設置。店内で選んで頼むというプロセスを省くことで、待ち時間なくスムーズに購入できるように設計されている。同店のデジタルセールスは現在、全体で 18 億ドルを超え、同チェーン店の売上全体の 30 %を占める。マクドナルドもモバイルオーダーやセルフオーダーが可能のデジタルキオスクといったIT整備の急務に追われており、タッチパネルのセルフレジを4半期ごとに 1000 店導入。2年~3年の間に2万店近い設置を計画している。一時期、マクドナルドの売上は低迷だったが、こうしたIT化の導入により、2018 年の売上高は、7~9月(第3四半期)の前年同期比で 2.4 %上がった。

スターバックスも同じくモバイルオーダーを導入し始め利用率が上がっている。ウェンディーズは 2017 年にデジタルキオスクの導入予定を発表。ハンバーガーの Shake Shack はニューヨーク市に初の完全キャッシュレス店を実験的にオープンしたが、今後もシアトルやサンフランシスコなどにオープンを予定している。完全オートメーションのお店を 2015 年にサンフランシスコにオープンした Eatsa は、スタートアップのファストフードチェーン店だ。モバイルオーダー、デジタルキオスクでオーダーし、フードはセルフサービスで壁にはめ込んである棚(Cubbies)から取り出してピックアップする。同社は、このプラットフォームを自社で開発しており、他店のファストフード店への導入サービスも行っている。

向こう数年の間にファストフードからレジが消えるだろうと言われているほど、どこのファストフードチェーンもモバイルオーダー、デジタルキオスクの導入を急ぐ。また、 Little Caesars はモバイルによる完全自動化のサービスを試験サービス「HOT-N-READYを開始することを発表した。アプリでピザをオーダーした客が店舗に行き、注文時に発行されたピンナンバーもしくはQRコードをデジタル端末で認識させると、ピザが用意されていたピザポータルと呼ばれる保温器の扉が開いてピックアップができる。完全に人間によるサービスを介さない完全ロボット化のシステムの導入を計画している。

ITによる自動化はキャッシャーだけではなく、経営マネジメントや製造にも普及が及ぶ。「Flippy」というロボティックアームをハンバーガーチェーンの CaliBurgerが 2019 年までに 50 店舗に導入すると発表している。このロボットは1時間に 150 ~ 300 個のパティを焼くことができるという。KFCは、音声認識デバイスやQRコード、SNSなどの機能を使った人材トレーニングを開始した。トレーニング期間の短縮化や人件費の削減のみならず、若い人材のニーズやデマンドに歩み寄る第一歩となり、同時に高度なスキルを持つ人材集めにも一役買っている。

ファストフードチェーンランキング(2016)

変革④

デリバリー

車を持たない人が多く占める都市部では、ファストフード店によるデリバリーは特に欠かせない付加価値サービスだ。多くのチェーン店はデリバリーサービスを専門に行う宅配会社との提携をここ数年の間に行っている。マクドナルドは「McDelivery」という名称で 90 年代から限定地域でスタートしており、UberEats と提携している。 Starbucks も同じく UberEats と提携し、2019 年には全米中の約 8000 にも及ぶ店舗でデリバリーサービスを開始すると発表した。Chipotle は DoorDash と提携しており、デリバリーサービスの売上が 667 %急増したという。KFC、Taco Bell、Jack in the Box なども次々とここ1年の間に導入を予定している。Panera Bread は朝食のデリバリーサービスの拡大も始めた。同社の売上げ全体のうち 20 %を占める朝食の時間帯をデリバリーでカバーすることでさらなる集客を狙う。同社は宅配会社との提携は行っておらず、自社で宅配スタッフを1万 3000 人抱える。

デリバリーロボットも次々と開発され、ファストフード業界への参入も進んでおり、すでにドミノはドイツとオランダでデリバリーロボットの実験採用を行っている。今後もこうしたロボットやドローンなどの普及によってさらに新しいカタチの効率化と、人員に頼る必要のないデリバリーサービスが次々と登場することが予想される。これらのファストフード業界におけるIT化の加速は、米国の多くの州において、最低賃金の値上げが行われていることにも要因がある。賃金の値上げ、また人手不足といった問題は根深く、この深刻な問題を解決する方策として、人手を最低限に抑えることが可能となるITによるオートメーション化はさらに加速されることが予想される。

変革⑤

大手老舗チェーン店の迫りくる変革

米国最大のサンドウィッチチェーン Subway は、朝食メニューの廃止を発表した。大きな理由は人手不足である。早朝の時間帯の人員の確保が難しい状況と考え、苦肉の策をとった。人手不足のダメージによる業績不振という新たな問題に直面した同社は、2016 年の売上高も 1.7 %減少し、 2017 年に 900 店舗以上、2018 年にはさらに約 500 店舗の閉鎖に追い込まれた。この業績悪化という苦難を乗り越えようと、店舗デザインとロゴを一新。これまでのイメージからの脱却によってあらたな顧客の確保を狙う。グリーンを基調とした壁にガラス張りの冷蔵庫にはピカピカでフレッシュな野菜がディスプレイされ、ブレッドも客から見て選べるように透明のコンテイナーに種類ごとに、それぞれカロリーが表示される。グルテンフリーのパンも加わった。さらに、イートインの客の増加を狙い、無料 Wi-Fi とUSB充電ポートも完備。さらにモバイルアプリでの注文も可能になった。老朽化も経営不振の要因だった Subway は、フレッシュでヘルシーでクリーンなイメージに生まれ変わりつつある。

1950 年に創業した古き良き米国の代表格といえるファストフードチェーンのダンキンドーナツは、昨年の9月、公式店名から「ドーナツ」を外し、「Dunkin’」に改変すること発表した。今まで通りドーナツなどのスイーツ系のメニューは提供するが、ドーナツ屋という枠を超え、次世代に向けた新しいカタチのファストフード店としてのブランドイメージの向上を目的としている。ピザチェーンの Papa John’s は、ロゴを一新し、創業者が起こした人種差別問題による企業全体のイメージの悪化を取り戻すべく、あらたなブランディング戦略を打ち出した。

2018 年9月、マクドナルドは人工原材料、保存料をハンバーガーから排除することを発表。さらに 25 年までにプラスティック製ストローを段階的に廃止することを宣言し、スターバックスも同様に意向を明らかにしている。環境問題に配慮した対応は、企業全体のイメージアップに繋がる。

こうした大型老舗チェーン店の打ち出す戦略は社会的にも大きな影響を及ぼす。この今の激動の時代の流れにいかに迅速に鋭敏に対応できるかが、生き残りへの明暗を分ける鍵となる。

《UJP編集部》

ファストフード界の新星スター 「ボウル:bowl」の誕生

b.goodで最も人気の高いメニューが「Kale & Grain Bowls」だ。ケールとゆで葉野菜をベースにアボカド、トマト、ビーンズ、コーンサルサ、トマト、シラントロのトッピングにフレッシュチーズ、唐辛子のソースを混ぜたメキシカン風味。キヌアもオプションで付けて 534 キロカロリーの「Spicy Avocado & Lime Bowl」(9.99ドル)は最も人気が高いメニューのひとつ。米国のファストフード店は、単なるサラダボウルを超えたこのようなスーパーフードボウルのメニューを次々と投入している。 FONA International の調査では、2000 年から 2016年 の間にボウルメニューが 31 %増加したという。それぞれのチェーン店が展開するボウルはメキシカン、アジアン、インディアン、メディテレーニアン(地中海)とスタイルも多様化で、さらに自分好みにカスタマイズできるという点も人気の要因のひとつでもある。さらに、ひとつのボウルで豊富な野菜、穀物、フルーツ、ナッツといった他種類のトッピングを重ねることで見た目もボリューミーで栄養価も高く低カロリーでヘルシー。これぞ効率化を好むミレニアルズのニーズを満たしてくれる、最強のファストフードメニューといえる。このボウルスタイルは、 Panera Bread、Fresh Co.ではメインメニューとして定着しており、メキシカンのChipotleでも、チキンにブラックビーンズ、ライス、レタスにサルサコーン、トマト、チーズなどのトッピングにサルサソースやワカモレ、サワークリームと自由自在に好きなトッピングができるブリトーボウルが、ブリトーやタコスといったトラディショナルなメニューを凌ぐほどの人気メニューとなっている。Taco Bellでも野菜中心としたメニューのひとつにベジーパワーボウルが追加され、KFCは、ヘルシーとは言えないが、マッシュポテトやチーズ、クリスピーチキンなどいいとこ取りばかりを乗せた3ドルのボウルメニューを発売したばかりだ。数年前からハワイアンの poke ボウル専門のチェーン店も次々とオープンしている。

《企業概況ニュース 2019 2月号掲載》

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