Home > エリア > CALIFORNIA > 〝チンドン屋〟という文化を世界に発信
《べんてんや》

 華やかな衣装を纏った楽隊が、太鼓、サックス、クラリネットなどを賑やかに鳴らし場を盛り上げる。メロディを崩した独特な奏法「どん吹き」で街を練り歩き、地域に根差す店や商品の街頭宣伝を行う。時代の移り変わりと共に見かける機会も減ったこの請負広告業「チンドン屋」という日本特有の文化を見直し、新しい時代へ、そして世界へと広げようと「べんてんや」が初の北米横断ツアーに乗り出した。

 べんてんやは、業界でも珍しい女性だけで構成されたチンドン屋さん。七福神の一人、音楽と芸能の女神である弁財天にあやかった。「弁財天のように、皆さんに幸せや笑顔を届ける存在になりたい」と話すのは、創設者でリーダを務めるスージーこと横江美穂さん。大学でサックスを始め、卒業後に組んだジャズバンドではカラフルなカツラを付け、ステージを降りて歩きながら演奏するなど、次第に「チンドン屋みたい」と言われだし、興味を惹かれた。

 しかし、名古屋にチンドン屋は見当たらず興味も薄れてきた頃に、「チンドン屋みたいにサックスを吹いて欲しい」という依頼が舞い込み、それを機に2008年3月「べんてんや」を発足した。愛知県出身の女性10人で構成され、名古屋の寄席「大須演芸場」での公演の他、地域の街頭広告宣伝、パーティのアトラクション、イベントのステージショーなどと幅広く活躍する。ジャズ、クラッシックなど様々な分野の音楽経験者が集まり、小学生から高齢者まで楽しめる音楽、民謡から唱歌、演歌にポップス、アニソンに洋楽までと、そのレパートリーは500曲を超す。

 今回はその主要メンバーのうち5人が渡米し、1ヶ月をかけて約20箇所でのツアー公演を行った。元々は、海外で演奏したいという軽い気持ちから始まった海外ツアーだが、イタリアのミラノ万博に始まりイギリス、フランスと海外公演を続ける内に、自分たちは日本の魅力ある文化を伝えられるチームなのだと確信した。「音楽に対する反応は世界共通です。楽しい曲で会場を練り歩けば、お客さんも自然に体が動き、踊りながら着いてくるんです。ウクライナでは現地の民謡を一緒に歌い、盆踊りを一緒に踊ったりしました───チンドン屋を通じて、心を一つにできるのです」。

 そして今回のアメリカで海外6カ国目となる。マーサさんがNY愛知県人会代表でイベントプロデューサーの河野洋さんと知り合いだったこと、ノーザンケンタッキー州立大学で日本文化やチンドン屋を研究する教授から招待されたことなど好機が重なり、今回のツアー開催へと繋がった。初めてのクラウドファンディングにも挑戦した。周りの温かい応援もあり、メンバー7人で額を寄せ合いながら準備を進め、最終日の締切3分前に目標額の200万円満額を達成した。

 「今回はべんてんやを紹介する種まき、チンドン屋の可能性を探るツアーだと考えてます。各地の反響も良く、ビジュアル面でのアピール度は非常に高い。次回は本来の宣伝屋として、米国でビジネス展開する企業、ブランドのスポンサー獲得にも動きたいですね」と、河野さんは今後の展開に意欲を燃やす。

 文化継承だけではない。あくまでも非公式だというが、出身である愛知県そして名古屋市の魅力も世界にアピールしていく。「世界公演では中日ドラゴンズの応援歌を演奏して、今回はオリジナルの〝名古屋べんてんちゃん音頭〟も用意してきました。私たちの活動は小さなものですが、これをきっかけに、チンドン屋という素敵な文化を日本人にも世界の人たちにも知ってもらい、ここを入り口に、日本の色々なことにさらに興味を持ってもらえればいいなと思っています」とスージーさんは笑顔を見せる。古くて新しい広告媒体チンドン屋が、アメリカの地で新しい花を咲かせ始めている。

《写真》べんてんや https://bentenya.jp
左からアコーディオンと篠笛担当のマーサさん(緑)、アルトサックス担当兼べんてんやリーダーのスージーさん(ピンク)、鐘と大小2つの太鼓からなるチンドン太鼓を担当するうっしーさん(赤)、高音担当のクラリネットのすずこさん(紫)、明治時代の陸軍楽隊がフランス式のものを導入したことでその名が付くゴロス(大太鼓)担当の駒子さん(青)

《企業概況ニュース2019年11月号掲載》

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