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米国実務最前線 実践からのアドバイス
日本企業が「ぼったくられる」弁護士費用
その実情・裏事情と防衛策 (前編)

【企業不祥事と闘う】
米国実務最前線 実践からのアドバイス

日本企業が「ぼったくられる」弁護士費用
その実情・裏事情と防衛策 (前編)

哀しいかな、日本企業が米国のプロフェッショナルに「ぼったくられる」構造は、今も昔も変わらない。今回は、前編と後編に分けて、その実情や裏事情、そして対応について述べる。

見積りの5倍の請求が来た

起用した法律事務所からインボイスが届く。内容をチェックして「!」。予想の数倍の驚く大金の請求だ。慌てて法律事務所に連絡してもノラクラ言い訳をして減額はしてくれない。しっかり見積りもとってあったのに、その数倍の請求。なぜ?

よくあるシナリオである。これまで25年以上に渡りニューヨークの大手事務所の訴訟部門プラクティス・リーダーやパートナーなど経て独立し一貫してずっと企業代理をしてきたが、そのような状況を横目で頻繁に見てきた。

いなくなる客からは、とれるだけとる」

もう一つ、典型的なシナリオ。

すこし前の話だが、大手日系企業が米市場からの撤退を余儀なくされる事件があった。この対応に米法律事務所は大量の人員を投入、その人海戦術ぶりにも目を見張るものがあったが、それら人員達の怠慢さと、それと反比例するかのような高額請求ぶりは、当時のニューヨークの法律業界では語り草だった。スタッフには知人もいたので、かなり生々しく覚えている。

この「もういなくなる客からは、とれるだけとる」「一見の客には寄って集ってたかる」という姿勢は(弁護士事務所に限った話ではないかもしれないが)よく見られる。例えば、日本企業の米国ビジネス撤退の際の会社解散法務における過剰請求や水増し請求などもよくある話だ。

ビジネスの苦境において、ここぞとばかりに弁護士にぼられるのであるから、クライエントにとってはまさに「泣きっ面に蜂」とでもしか言い様がない。

助っ人なのか、二次的災害なのか

大型案件を扱う弁護士の役割は、企業にとっての一大事にあたって、助け人として(プロとしての報酬は貰うが)手を差し伸べて力になることであろう。ところが、それが実質「ぼったくり」ということとなれば、助っ人どころか、行倒れになりそうなところで襲ってくる追い剥ぎやハイエナのようなものでしかない。

つまり弁護士という名の二次的災害となってしまう。それが常態化していると言いたくなる米法律業界の体質には当然問題があるが、その恰好なカモとなる日本企業側にも問題が無いとは言い切れない。

見積りのウソ

「見積りを出してもらえばいい」というアドバイスをよく聞く。見積りは当然出してもらうべきだが、それではあまり解決にはならない。

大型案件における法律事務所の見積りは、ほぼあてにならないからだ。冒頭で見積りの数倍の請求がくる例を述べたが、日本企業に見積りの5倍の請求が来たなどというケースは、まぁザラである。

まず、そもそも本当の見積りを言うつもりはサラサラないという場合が多いからだ。

あり得ない見積り

これは近年になって顕著になったことだが、いわゆるlowballやbait and switch(ウソの安値を言って釣るセールス)を使う弁護士が非常に多い。いつ頃から始まったか、筆者にしても、ほぼ競合先はそのような手口を使っていると諦めて対応している。

例えば数年前、とある巨大案件での代理について、私の事務所と米大手の競り合いになったことがあった。私の事務所は零細で大型企業案件をやるためコスト面ではそもそも自然と優位なのだが、現実的な範囲で非常にリーズナブルな金額での見積り提示。「ちょっと安くし過ぎたかな」と悩んでいた翌日、クライエント企業から電話が入り「大手側は齋藤先生の数分の一の見積りを出してきました」とのこと。筆者も米大手で部門経営やパートナーをやっていたので懐事情はよくわかるが、どう見ても本当の見積りではない。

これは本当によくある話で、例を挙げだすとキリがない。破たん後のリーマンの代理をしていた際にも、関連案件で代理を競ってきた事務所の見積りが「?」のあり得ない金額だった。

それぞれおそらく(1)単にウソの見積り、(2)釣っておいて後で請求を膨らます作戦、(3)事務所には承認される見込みのないフリ見積り、の3パターンのどれかだった。

パートナーの首繋ぎの「フリ見積り」

上記(3)の「フリ見積り」は実はよくあること。クライエントに伝えてある見積り(低価格での提示)と事務所側への説明が違うというパターン。

米大手のパートナーと言えども、クライエントらしいクライエントのいるものは一握りで、後の大多数はクライエントがいなくて汲々としているというのが実情。(特に近年は「パートナー」と言ってもいわゆるノン・エクイティ・パートナーという立場も給与も実質はアソシエイトで肩書だけのパートナーが大多数なので、これらのパートナーはクライエントはいなくて当たり前。)

これらの弁護士のなかからは、クライエント欲しさのあまり事務所承認の見込みのない超低額の見積りを出したり「無料でやる」と言ったりする輩も出てくる。(これを避けるために、最近ではクライエントへのフィーや見積りの連絡をモニターする事務所も増えてはいるが、まだまだザルの状態。)

昨今の米事務所のマネージメントはディスカウント等に対して厳しいので、そのような無料や低額の提示は到底承認しない。したがって、どこかで正規の金額の請求をすることを強いられることになり、その段階で色々とまずいことになる。ただ、それまでは事務所内で「いいクライエントが来たのでお金も沢山もらえる筈です」などとアピールしてクビを繋げることが出来る。

なお、この「クビ繋ぎ」というのは強力なインセンティブで、クライエントにチャージしている時間が少ないパートナーは事務所に睨まれるので、その時間を増やすために水増し請求をしたり(別の弁護士の)時間を自分に付け替えたりする者も出てくる。そして、生存本能が強いというか、ずる賢いパートナーになると、このような時間調整を毎日していたりする。

請求書は年末、突然

「フリ見積り」はどこかで正規(高額)の請求をすることになると上記したが、この高額請求のタイミングは年末である。

米大手法律事務所は11月から12月の年末になって慌てて請求書をクライエントに送付する傾向があるからだ。この傾向はかなり顕著で、その時期の請求が事務所収入の大きな割合を占める。したがって、この時期になると事務所のマネージメントからパートナー達に「請求書を出せ」「すぐ支払いをさせろ」との猛烈なプレッシャーが連日かかることになる。フリ見積り案件についてもしかり。「いつになったら(高額の)支払いがあるのか」「事務所の経理部から直接取り立てる」等々。

よって、これから年末にかけて突然に予想しない高額請求を受け取る日系企業も出てくるのではないかと思われる。

次回の後編では、「日本企業特別価格」の問題、「ぼったくられる」理由、日本企業としてとるべき防衛策について解説する。

(米国訴訟弁護士 齋藤康弘)

《企業概況ニュース》2019年11月号掲載

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