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米国実務最前線 実践からのアドバイス
日本企業が「ぼったくられる」弁護士費用
その実情・裏事情と防衛策(後編)

【企業不祥事と闘う】
米国実務最前線 実践からのアドバイス

日本企業が「ぼったくられる」弁護士費用
その実情・裏事情と防衛策(後編)

なぜ見積りの数倍の巨額の請求が来たりするのか。

折しも最近、大手事務所パートナーが水増し請求を行っていたことが報じられた。やはり本人の報酬の向上と保身が理由だったようで、そのために水増しを行い、自分の時間のアソシエイトの時間として付け替えて請求したりしていた、とのこと。まさに前回解説した典型のパターンである。

また、予期せぬ金額の請求書は年末に突然送られてきがちなことも述べたが、業界調査によると今年は例年よりも大量の未払い未請求の請求書が積み上がっているとのこと。これから対応を強いられる企業もあるだろう。

弁護士費用の高騰事務所の高コスト体質

そもそも米国の弁護士費用は高い。これは水増しや過剰請求が無くてもそうである。近年は特に顕著で、90年代後半から現在にかけて、企業が外部弁護士を雇う費用は一人当たりについて2倍以上に高騰しているとのデータもある。

大手事務所の経営体質も高コストなまま経緯している。新人弁護士のサラリーは90年代前半は8万ドル程度だったが、今では19万ドル程度と2倍以上に高騰。オフィスも一等地のビルの個室で作業するのが今だ普通であり、かなり前にパートナーの個人オフィスを廃止した大手監査法人などとは対照的である。

売り上げノルマシワ寄せ

事務所の高コスト体質をサポートするには、当然それに見合った売り上げが必要となるし、請求もアグレッシブというか高額にならざるを得ない。個々のパートナーの売り上げのノルマも厳しい。

一方、米国の大手クライエント(いわゆる得意客)によるディスカウントや予算制限の要求が年々厳しくなっている。例えば米系大手金融機関などのプレステージも高く多くの案件を頼める立場のクライエントの場合、その要求が採算ラインぎりぎりかそれ以下ということもある。その結果、他のクライエントで利益を上げる必要も出て来るため、このシワ寄せを日系企業が受けている側面もあるだろう。日系企業の場合、かなりの大企業であっても米系大手のように得意客という立場にはなり難いので「一見の客」という扱いになることが殆どであり、あまりディスカウントは受けられず、逆にここぞとばかりに高額チャージとなることが多い。

厳しくなるビジネス環境

上場企業などと違い法律事務所の収益に関するデータはあまり当てにならないが、折々話す大手や中堅事務所のマネージングパートナー等の話や各種報道を総合すると、この一年半ほどの経営環境は特に厳しくなっている。トランプ政権になってからのホワイトカラー刑事事件数の減少、数年前まで流行っていた特許訴訟プラクティスの壊滅的な落ち込み、そしてコーポレート側でも(海外M&Aに湧いている日本とは違い)バブル的な活況を見せている一部の金融やテックを除いてあまり振るう分野がないことに加えて、クライエント側のバジェット削減のプレッシャーが更に厳しくなっているからだ。

日系企業特別価格

そうとでも呼びたくなるほど、日本企業に対する請求が高くなるケースは多い。払ったフィーを聞いて「えっ?」「1・2桁多い」(数千万円の筈が数億から数十億円)と驚くことまでもある。なぜそうなるのか。

まず「カモ」としての評判。日本企業が特に羽振りが良かった時代はもうひと昔前のことだが、いまだに「金がある」「騙しやすい」というイメージが定着したまま。日本企業と聞くと色めき立つ弁護士達には今もよく出会う。

日本企業の案件となると「みんなで日本出張をしよう」と安易に提案する弁護士なども多い。案件によってはやむを得ないが、移動時間もチャージする弁護士チームが来日するとなると、移動分チャージと交通宿泊費だけで数千万円というようなことになる。

米国の法律実務に関する知識や経験の不足が、根本にある理由だろう。そして、英語の障壁によるコミュニケーションの不足。結果としてクライエントと弁護士間の信頼関係を築くことが難しいという問題がある。

弁護士コスト管理が困難な理由

弁護士はいわゆる専門家である。専門家の仕事というのはその性質上、どうしても顧客から見て作業の内容やクオリティの評価がし難い。これは医者などでも同様だが、やっていることがブラックボックスになりがちである。(だからプロフェッショナル倫理が必要となったりするわけだが。)したがって、クライエント側としては、自らが専門家でない限り、ある程度は信頼して任せざるを得ないという側面がある。

米企業の法務部の対応

米国の大手企業の場合、法務責任者(ジェネラルカウンセル)は元大手事務所パートナー、法務部員(インハウスカウンセル)は大手事務所で少なくとも数年の経験は積んだ弁護士達で主に固めて、ちょっとした法律事務所程度の人数の法務部で対応していることが多い。

つまり米系の場合は法務部全体がそれなりの経験を積んだプロ集団であることが多い。これを相手に対応するのは弁護士側としてもそれなりに大変ではあるが、同じ土俵でコミュニケーションをとることが出来るため意思疎通はし易いし、またそれなりの経験やステータスのある弁護士にとっては、一々アピールや説明をしなくともクライエント側がその辺りを認識してくれるので、相互をリスペクトした関係も築きやすい。

日系企業がすべき対応

しかしながら、そのような対応は日系の大手企業では中々難しい。それではどのように対応すべきか。

  • とにかく予算を厳しくすればよい」は間違い。

 無理なバジェットを要求してくる企業があるが、コストばかりを言うのは逆効果。弁護士側としてはヤル気がなくなり対応のクオリティに悪影響するばかりか、隙あらば多くチャージしてやろうという心理が働きやすい。

  • 色々と厳しく指示・チェックをすればよい」も危険。

 日本企業に典型的な問題として、非常に細かい指示やチェックが多いということがある。弁護士側としては「それほど色々言うのなら相当なチャージは覚悟しているのだろう」と高額な請求をすることになる。

  • 前提についての質問連発に注意。

 日米の法制度の違いや経験不足もあり「そもそもどうしてこの手続きが必要なのか」「通常と違うやり方は出来ないのか」「全体としてどうなるのかフローチャート的に教えて欲しい」等と、米系のクライエントからは出ないタイプの質問も多く出がちだが、そのような質問については自分で調べるか返答を口頭やメールで極力簡単に済ませてもらうことにしないと、質問一つごとに数百万円の費用が掛かることになりかねない。

  • 予算に関する理解は書面で確認。

 基本中の基本だが、バジェットやフィーについての理解はメールでも良いので書面で行うべき。なお、エンゲージメント・レター等の契約において記載するやりかたでもよいが、相手は弁護士なのでその文言で完全に抑え込むのは難しい。

  • 請求書は必ず毎月送付させ

 これも基本だが、実際には行われないことが多い。巨額の予算オーバーなどの問題を避けるためには、実際のインボイスをその都度チェックすることが必要かつ効果的である。そしてインボイスのエントリーについて疑問点や懸念があれば、率直に質問やコメントをするべき。

  • 予算オーバーは早めに連絡させる。

 予算をオーバーする場合には、請求書を送るまで待つのではなく、出来るだけ早い段階に「どのような理由でどれほどの金額の予算オーバーになるのか」連絡してもらうようにする。先日、製薬会社の米国法務責任者を長年務めていたベテラン(旦弁護士)と話したが、やはり「オーバーしてからではなくてオーバーしそうになったらすぐに連絡するように頼むべき」と言っていた。全くその通りである。

  • 率直なコミュニケーション。

 これは全般として言えることだが、特にフィーやバジェットに関しては、率直なコミュニケーションを心がけるべき。「いくらでやって欲しい」というだけでなく「なぜその程度のバジェットなのか」を出来るだけ説明すべき。弁護士側はそれなりのプロで相場も承知している筈なので「いくらでやれ」言うだけでは「価値がわからない素人が無理な要求をしている」としか感じなかったりする。「いま法務予算が厳しい」のであれば素直にそう伝えるべきだし、クライエントが理解している相場がその金額なのであれば、その旨を伝えるべきだ。ここで意味のある意思疎通をすることが予算オーバーの予防になる。

  • 信頼関係の構築。

 コミュニケーション等を通し、最終的にはクライエントと弁護士の間に信頼関係を築くこと目指すべき。そうでないと結局は「フィーをとれるときにとっておこう」という関係でしかなかったりするからだ。問題解決のパートナーとしての関係が出来れば、おのずから自然と多くの問題の解決に繋がる。

  • 知識・経験の底上げ。

 「カモ」にされやすい根本原因である知識や経験不足。一朝一夕で解決できることではないが、常に改善を心がけるべき。日々の鍛錬が基本であろうし、本稿を読むこともその一環であろう。

(米国訴訟弁護士 齋藤康弘)

《企業概況ニュース》2020年 1月号掲載

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