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日米政治経済/アジア情勢《PART2》

□トランプ大統領の再選は50/50
□世界の二極化がますます加速
□これからの米中関係が重要なカギとなる

2020年1月22日(水)、ニューヨーク商工会議所主催による「2020年 大統領選と日米政治経済/アジア情勢」というテーマで新春討論会が開催された。時事通信社ニューヨーク総局長の岸田芳樹さんがモデレーターを務め、北米事情に詳しい6人の識者が意見を戦わせた。

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パネル・ディスカッションは6人のパネリストが考える2020年のキーワード紹介から始まった。各パネリストが選んだキーワードは下記の通り。

武隈喜一さん(テレビ朝日アメリカ社長)
『データ戦争』
最先端技術などが整うアメリカだからこそ生まれる問題。正しい票数の割り出し方や、国外からのサイバーアタックリスクも含め、データの扱い方という概念が非常に重要なキーワードになる。何が正しい結果か見えなくなる可能性がある大統領選。選挙を正当にどう行うべきか、アメリカの力が問われる選挙となる。

西岡純子さん(三井住友銀行チーフエコノミスト)
『米国発のノイズ』
好調なアメリカ経済を背景に、大統領選選挙の結果やその有効性に対する議論が繰り返される。また、中国や中東との軋轢など様々な形で米国発のノイズが世界金融市場を震撼させる年となる。楽観は禁物、締めていく必要がある。

山崎一民さん(ワシントン・ウォッチ誌ジャーナリスト)
『トランプ』
アメリカのみならず世界でも、トランプ大統領が分断の動きを強めていく。アメリカ合衆国の大統領としてのパワーや影響力を駆使し〝トランプイズム〟を世界に浸透させていく。結果として、その歪みが様々な形で現れる。

茅野みつるさん(伊藤忠インターナショナル社長)
『DX(デジタル・トランスフォーメーション)』
2020年だけでなく、これからの10年においての重要なキーワードの一つとなる。米中間の技術覇権争いが激化し、それに対する様々な規制が生まれ始めている。ダボス会議でも5Gがホットトピックとなり、企業レベルでもデジタルオフィサーという役職を設けるのが一つの戦略となっている。国家レベルでは、技術の覇権争いがキーワード。カリフォルにはではCCPA(プライバシー法)施行、アメリカの投資規制、輸出規制などの他、中国の独禁法改正という動きもある。

ジェラルド・カーチスさん(コロンビア大学政治学教授)
『POLARIZATION(両極端、分裂)』
アメリカ社会における分断化の動きが益々強まる。特にトランプ大統領再選になれば、分断化を自身のパワーとするトランプ大統領の分断化が加速する。この現象は、トランプが大統領になったから生まれた訳でなく、アメリカ社会が分断したからトランプ大統領に繋がった。

高井裕之さん(米州住友商事ワシントン事務所長)
『二極化する世界と米国社会』

世界中で二極化が進んでいるが、特に米中のデカップリングが深刻となる。「技術・軍事・外交・人権・人材・思想・ガバナンス」といった7分野で米中分断が進む。米ソ冷戦という覇権争いは昔もあったが、今回の覇権争いは、軍事安全保障だけでなく5Gやサイバーにおよぶ最先端技術なども含まれた質が異なるものとなる。グローバル企業で世界でビジネスをする上で、この米中分断がどう影響するか、そして、日本企業としてアメリカ、中国それぞれでパートナーシップを組んでいる企業がどう影響受けるのか。

討論会2部テーマ
『今年の経済の見通しと展望』

西岡さん:数字を見ると、2019年のアメリカ経済は大体2%半ばの成長率で、何となく冴えない数字であった。2020年は1.8%ぐらいに下がるのではないかと読んでいる。しかし、減速基調にありながらなぜ株価はが上がっているのか。まず、何を持って景気がいいと言うのか。SP500指数に採用される企業のうち、莫大なキャッシュフローを生み出す時価総額上位の限られた企業がある。同時に、キャッシュフローが赤字で、収益率も下落している時価総額下位の企業もあり、SP500企業の中でも相当な格差が広がっているのが実情。歪められた株式市場に自社株買いという異常な資本主義要素も加わり株価が吊り上げられている。そこだけを見てアメリカ経済が正しく成長してると考えるのは危険。株式市場が反映するアメリカ経済は、人為的に良すぎる姿だけを写し込んだもののような気がしている。実体としては雇用統計の伸び率も上がらず、リーマンショック前には4%が当たり前だった名目賃金上昇率も、今では3%を少し超える程度。何となく勢いがない──これが、本当のアメリカ経済の捉え方ではないか。

株が高すぎるのでバブルが崩壊すると言っている訳ではない。一部の時価総額上位の企業が全体を釣り上げている以上、株価はそれなりに根持ちをする。下位企業の業績が悪く破綻したとしても、金融危機に繋がる可能性は極めて低い。現時点でのアメリカには、リスクというほどの火種はないが、ノイズはたくさんある。それは、政治であったり、景気の振幅であったり、雇用が伸びにくい、格差問題が広がるなど、こうした中での資本主義への疑問符が強まっていくことが、『アメリカ発のノイズ』となる。

トランプ大統領が自身の求心力を強めるために数字が利用される展開なのかもしれない。去年ほどではないとしても、アメリカ経済のプラス成長は続き、減税効果もまだ続く。減税の話ももう一回出てくるのではないか。立法化するのは議会だが、景気対策という視点では、トランプ政権はまだ色々なことを考えているはず。何にせよ、慎重に捉えるべき1年となる。

茅野さん:2019年は商社にとって米中貿易摩擦の影響を受けた年。特に食糧分野、アメリカの穀物をアジア、特に中国に輸出するビジネスでの影響は大きかった。第一弾合意がなされたことはありがたいが、その合意内容が本当にに進んでいくのかは、まだ疑問視している。貿易戦争が始まって以来、アメリカから中国へ大豆が届かない代わりに、南米のアルゼンチンやブラジルから大豆が流れる道筋ができた。また、中国で豚の病気が発生し、その飼料となる大豆飼料の必要性が減った。結果、アメリカから大豆を仕入れなくても賄える状況で、第一弾が無事に終わったように見える貿易戦争も、今後の状況を細かく見ていく必要がある。

一方で、対中規制も強化され、対米外国投資委員会のCFIUS(シフィウス)や外国投資リスク審査現代化法FIRRMA(ファーマ)、米国輸出管理改革法のECRA(エクラ)といった規制網が広げられている。こうした制度が増えることで、日本企業が受ける影響についても真剣に考えていかなければならない。

──東京オリンピック後の日本の経済について

西岡さん:極端に大きなスイングはないとみている。消費増税の影響の方が大きい。イメージとしては、ロンドン五輪の前にスイングがあると言われていたが、コンパクトシティ構造で施設を再利用しながら運営しため、底上げ効果もなければその後の反動もなかった。日本もこの例に合うのではないか。首都高全部を改修すれば莫大なお金が動き、GDPの押上効果なども積み上がるが、今回の東京オリンピックはそうではないと見ている。

──中東情勢について

高井さん:年明け早々IRGC(イラン革命防衛隊)の国民的英雄ソレイマーニー司令官がアメリカによるドローン攻撃で殺害された。なぜ、このタイミングで殺害指示が出されたのか。以前からターゲットとされた人物ではあるが、歴代大統領は避けてきた。大晦日にイラクの民兵部隊の支持者がバクダットにあるアメリカ大使館を襲撃する小さな事件があり、トランプはこの映像を見て、2012年のリビアのベンガジの公使館襲撃事件を連想したのではないか。これを放っておけば、大統領選挙の年に弱い大統領というイメージを植え付けられる。トランプは中東から兵を減らすことを公約に掲げているように、もともと戦争嫌いの人物。それにも関わらず突然行動に移すことがある。影響を与えているとすれば、今年が大統領選挙の年ということ。自分がタフな大統領、指導者であることを有権者に、共和党内タカ派に見せていく必要がある。

イランもこれでは終わらない。大統領選挙に向けてトランプに対する反撃をGCC(湾岸協力理事会)同盟諸国も含めて仕掛けてくるだろう。次の要警戒日は2月11日。イスラム教では死後40日目が非常に重要で、しかも11日はイランの革命記念日に当たる。これからもイランとアメリカの関係は悪くなる方向で動いていく。イランが仕掛け、トランプが反応する。金融市場も原油マーケットもその度に反応することになるが、最終的に全面戦争はお互い意図する状態ではない。ただ、偶発的な事故は起きるので、中東リスクは意識して見ておく必要がある。

──ロシア情勢について

武隈さん:ロシアのGDPは中国の10分の1程度。米露貿易も経済制裁の影響で低く、冷静以降、最悪の米露関係と言われている。しかし、ロシアがアメリカの政治にとって大きなファクターであることは間違いない。なぜか。プーチン政権の国家戦略は「アメリカの価値を貶める」という一点であるため。前回の選挙では、オバマ政権時代にロシア制裁を最先端で進めてきたヒラリークリントン国務長官を落選させ、アメリカの混乱を引き起こすことが最大の国家目的であった。ロシアにとって、トランプ大統領の誕生は願ってもないことだった。しかし、中東情勢も含めて考えれば今後も1番のお気に入りであり続けるとは限らない。2016年の選挙では、アメリカ側の脇の甘さがロシアの様々なハッカーに暗躍させる土壌を作った。サイバー攻撃やヘイトニュース拡散など、様々な不正が行われてきたことが証明されている。この4年で、大統領選挙のサイバー攻撃対策は強化されたと思うが、この最悪な米露関係の中、トランプがプーチンを批判したことは一度もない。2020年の選挙で、どこまで防ぎきることができるのか。そして。もしトランプが落選した時にその選挙結果がどう扱われるのか。

日露関係に目を向けると、米露間で結ばれていたINF(中距離核戦力全廃条約)が昨年8月に消滅した。両国間で正規に結ばれる正規の核抑止力はシンスタート(新戦略兵器削減条約)のみ。アメリカもロシアも、中国を含めた核兵器の管理条約を作っていきたいが、中国は基本的にはこうした核の削減条約には加わらない。世界で核についての規制がない時代。中距離核、中距離ミサイル、戦略兵器の管理をどうしていくか。中国を交えた参加国で話し合いが進められるのかどうか。世界の軍縮・軍拡に大きな影響を及ぼしていく。米中、米露、中露、日露の関係なども動いている。

──日米関係の現状と課題

カーチスさん:日米関係は非常に安定している。ただし、貿易問題。日本の防衛費負担など、全く課題がない訳ではない。日米関係が崩れるようなことはないが、もしトランプ再選した場合、日本に対しての防衛努力を、日本国民が許せないほどのものを求めてくる可能性がある。次の選挙の心配を心配することもなく批判を受けても関係ない。
そして最大の問題は北朝鮮や中国。日米関係を維持しながら、対中政策、対北朝鮮政策を考えることが日米関係での最大のテーマとなる。北朝鮮の核兵器ミサイルの脅威と安全保障という状況、そして中国との経済関係を維持しながら、アメリカとの貿易・政治関係も維持していく。どちらとも良い関係を保つには。アメリカよりも中国を理解している日本が、より米中政策に関わっていくべきなのではないか。

──米中デカップリング

高井さん:デカップリングは始まったばかり。これから10年続いていくと思って準備をしておくべき。中国包囲網はんどんと進目られ、トランプではなく超党派で全体が全てアンチチャイナに動いている。日本企業も相当注意していかないと、どこかで地雷を踏んでしまう可能性は否めない。

茅野さん:グローバル展開する日本企業で、アメリカだけに投資をしてる日本企業は少ない。当然中国にもなんらかの形で投資をしており、日本企業による中国投資、アメリカ投資の時にどう影響を受けてくるのか。グローバル企業として、どう競争力を高めていくのかが一つの大きなポイントだと思っている。

山崎さん:なぜアメリカが、ここに来て中国に対して厳しくなったのか。背景としては、クリントン大統領が中国のWTOに加盟させて以来、アメリカの対中戦略の基本は、中国を西側寄りの経済に取り込み、民主主義と自由貿易、自由経済の体制にしていくこと。過去30年近く続けてきたが、この路線が間違っていたという認識が専門識者の間で広がってきた。

対米情報戦略に対する一つの警戒心。世界の主要大学に一つの組織を作り、そこに学生や客員教授の中国人を送り込み、その国の情報撹乱を行うと同時に、中国の良いイメージを当該国に植えつけていく。こうした組織が、主要国にいくつかできつつある。FBIでは、すでに孔子学院を中心とした中国の対米情報戦略に対する特別チームを作って捜索、摘発を進めてる。オーストラリアでこうした動きが強く、米豪間での強い警戒心をもとに、情報戦略に対する対策、情報交換を始めている。

もう一つが、中国が単に主要国だけでなく、中近東やアフリカ、中南米で自らの権益拡大に動いていること。ツールになってるのがODA。巨額の金を貸し付けて、学校作や橋を作り、道路を整備する。うまくいかない場合は、全部買い占めて資産とし、その関係性をもとに軍事基地のベースを作ったりする。これらはアフリカや中南米で具体化しつつある。この点についてもアメリカの情報部門は強い警戒心を持って調査を拡充している。アメリカの対中政策強化の裏側には、こうした大きな理由がある。

カーチスさん:トランプが再選すれば、必ず分断は激しくなる。トランプは、相手を敵とみることが自分の支持率を高める手段になると分かっている。アメリカの社会問題は根が深い。オートメーションとグローバリゼーションが一緒になり、今まで成長分野であった製造業で働いてきた中西部の人たちが、オートメーション化で仕事を奪われる。こうした人たちに向けた救済の仕組み作りが遅れていることも、アメリカの大きな闇の一つ。大統領が変わったとしても、この社会問題を解決するのは容易くない。

チャイナ脅威の背景にあるのは、中国に自分の期待が裏切られたという思いがある。中国が経済的に強くなれば中産階級が増え、より自由を求める国になるはずと、90年代の鄧小平時代からアメリカは一生懸命に中国の成長を支えてきた。しかし、習近平の独裁色が強くなっており、予想に反してアメリカと同等の力を持つほどの「フィア・コンペティター」になった。アメリカの奢り。中国が強くなることを止めようとすれば、当然、米中冷戦へと発展する。それを避けるには、日本の動きが重要になる。日本に求められる役割とは、南シナ海問題、知的財産東洋問題、尖閣問題など諸問題に対して、同盟国として共に中国へ圧力をかけていくこと。一方で、中国が強くなることを認め、米中を取り持つ日本という立場を、外交面でしっかりと考えて議論していく必要がある。

──デカップリングが経済に与える影響は

西岡さん:デカップリングが存在する限り、経済成長の機会を失うのは事実。現段階での米中訴訟貿易では、少なくとも2,000億ドルの輸出入に関する合意が結ばれ、実際に物の動きが発生しており、また、これからはデジタル化、情報化を駆使し生産性をいかにあげていくかが成長戦略のカギとなる。情報に対する積極性、取り決めは、圧倒的に中国の方が進んでいる。これまで中国の成長を野放しにし過ぎてきた感はある。もう一つ理解しておくべきは、中国の成長モデルが、西側諸国が経験してきたステップを踏んで成長するものではなく、一足飛びで誰にも止められないスピード感を持って成長しているということ。法律でその動きを阻止しようとするアメリカ、そして戦略的に一帯一路構想のもと、デジタル人民元という金融インフラを作りながら、どんどんと突き進む中国、この図式を理解する必要があります。

──中露関係について

武隈さん:貿易面では、ロシアは中国に全面的に肩入れしていくのは間違いない。問題は、ロシアと中国間の軍事協力があり得るかということ。今の段階では協力体制を組んでいないが、アメリカの極東戦略次第では、ロシアと中国が協力する方向に向かう可能性はゼロではない。現実的には、東アジアについては双方の共同利益をみている。日本を含め、東アジアにアメリカがどういった戦略で臨んでいくのか。それ次第では中露軍事協力に進む可能性はある。

プーチンは2024年で大統領の任期が終わるが、権力を手放すつもりはない。死ぬまで権力を担い続けられる権力構造を構築することを考えているはず。第一次政権では民主主義を目指している節もあったが、2013年以降はリベラリズム、デモクラシーに完全に背を向けている。

※各パネリストのコメントは、2020年1月22日時点でのものとなります。

討論会1部テーマ『2020年大統領選』はこちら

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