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企業が抱えるIT案件に新風を吹き込む

並列プログラムで『高速化』を実現
企業が抱えるIT案件に新風を吹き込む

フィクスターズ・ソリューションズ・インク
Chairperson of the board  浅原 明広氏
http://www.fixstars.com

転機となったのは、世に登場する前のプレーステーション3用プロセッサー『セル』との出会いだった。ゲーム業界では神として崇められる久夛良木健さん設計の8コア思想は、当時とても大きな可能性を秘めていたと浅原さんは振り返る。2004年は並列処理がまだ一般的ではなく、難解な8コアプログラミングに積極的に取り組める、若く吸収力のあるエンジニアが求められていた。創業2年目のフィクスターズにも声がかかり、そこから『並列プログラミング』に特化したソフトウェア会社としての道を切り拓いていくことになる。

 フィクスターズが得意とするのは『高速化』。多数のサーバーを並べて処理するクラスタサーバーやマルチコア、ビッグデータ処理など、並列処理の豊富なノウハウを持つ同社が、様々な技術を組み合わせながら全体的な最適化を提案する。具体的には、MRIなどの医療機器を製造する大手メーカーに高速画像処理ボードを提供し、それまでの170倍の高速化を実現させたり、クラウドを使ったヒトゲノム分析サービスを高速化して4倍のスピード、コスト削減9割を実現するなど、ビジネスモデルにも斬新なアイデアを提案する。

 従業員全体の9割がエンジニアが占め、さらにその半分以上が、修士号もしくは博士号を有するITの専門集団フィクスターズ。浅原さんがチームに加わったのは、同社のアメリカ進出のタイミング。自らも優秀な現役エンジニアである浅原さんにとってもカリフォルニアのベイエリアは憧れの地であり、いつかはそこで勝負してみたいと考えていた。M&Aによって動き出した北米展開はリーマンショックの荒波に呑まれ、開設から数年で休業へと追い込まれる。苦い経験もたくさん味わったが、2012年度に再挑戦の機会を得て、「ここ数年でやっとソフトウェア会社としての体制が整った所です」と浅原さんは苦笑いする。

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 子供の頃は、スティーブン・ホーキンス博士に憧れる天文少年だった。星が大好きでプラネタリウムに通っては物理天文学者を夢見てきた。「すばる望遠鏡をご存知ですか?ハワイのマウンテン・マウナケア4200メートルの頂上には、13個の望遠鏡が設置されており、各国がそこで天文観測を行っているのです。すばるは、その一つ、国立天文台が管轄する日本を代表する望遠鏡となります。望遠鏡は観たい天体ごとにディテクターという検出器を交換するのですが、当時7つあったディテクターのうちの一つが、僕の所属する京都大学の研究所が担当していました。国立天文台の大きなプロジェクトである5つに比べて、他の2つは大学の研究所が受け持つ小規模でチャレンジングなプロジェクトでした。僕らのディテクターの名は『チェス』───クラブパルサー(かに星雲)観測専門のディテクターです。毎年冬にハワイの観測所に篭り観測を続け、その時に収集したデータをもとに博士論文をまとめていました」。

 小規模予算のプロジェクトであったためにやれることも限られ、今後のキャリア考えた時に、このままではいけないと感じた。自分の能力を活かせる道はと就職活動を開始し、日本IBMで開発として働いた。その後フィクスターズに移ってからは、『スケールするビジネスを生むこと』に焦点を合わせ日々邁進している。「ファールチップが多少あったかもしれませんが、ほとんどが空振り三振。いつかはホームランを打てると、毎日打席に立つようにしています」と笑顔を見せる。ヒットを打ち続け、ホームランが生まれたら───その時は大学での研究にも戻ってみたいと浅原さんは言う。しかし、そこで学びたいのは天文物理ではない。最先端を行く自分たちの領域ITを、もっともっと突き詰めていきたいのだと言う。

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 かつて天文物理学者を夢見た少年の目には今、『ITを駆使して世の中を豊かにする、星が大好きな起業家』の姿が映っている。

《企業概況ニュース》2020年 2月号掲載

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