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町内サッカーと日本の政治

【企業の論理、力の論理 グローバリゼーションのルール】
町内サッカーと日本の政治

先週、タイムススクエアあたりがかなり厳重にガードされ、何百人もの警官や重装備の部隊があっちこっちと走り回っていた。銃撃事件を匂わせる様相で背筋が寒くなったのだが、何かと思いきや、ニューヨーク市警の暴力行為や差別に反対するデモに対する警備だった。非常に多くのマイノリティーの若者がデモ行進していた。その規模の大きさに、特別警戒をしたようだ。

タイムススクエア辺りでは、デモや集会はしょっちゅう行われている。なんといっても近年で大きかったのは、トランプ氏が大統領に当選した翌日の、反トランプデモだ。が、小さいものではアルメニア人の反トルコ集会、チベット人の反中共デモ、黒人の人権擁護デモ、等々、しょっちゅう出くわす。

もちろん、デモ行進はニューヨークの特許などではないどころか、世界ではここ数ヶ月、何十万、何百万を動員するデモが繰り広げられている。南スーダン、レバノン、チリ、イラク、イラン、そして身近なところでは香港と韓国だ。これらの多くは政策への反対や、政権の交代を求めるもので、中には大きな暴力沙汰に発展しているところもある。

これらの地域の多くは非民主国で、横暴もしくは腐敗した政権に対して人々が立ち上がったデモである。が、韓国や米国は民主国だがデモや集会が非常に多い。そして両国に共通するのは、分裂した社会であることだ。

米国では、トランプ派と反トランプ派が分裂。貧富の差の激しい社会を改善するのにどうすべきか、あらゆることに関して米国人―もしくは白人―の利益を考えること―その配分の仕方は支持者優遇―を目指すか、より平等で公正な米国社会を目指すか、で分かれているように見える。その結果、トランプ氏は前政権が決めたことのことごとくを反故にしている。もちろんそれは、社会が真っ二つに割れているからだ。

韓国は、保守と革新の亀裂が深い。保守派である朴前大統領は、革新派の強力な反対運動で弾劾されて政権を去ったし、今はその保守派が、文寅仁政権の政策の多くに反対し、数万人を集めるデモを行っている。日本との関係においても、日本政府と保守派大統領が決めたことを、革新派大統領が次々と反故にしている。

『韓国の外交は、原則と大きな方向についての議論がないため、町内サッカーのように事案に応じて集団で動き、守勢的にボールを守り移動するのに没頭することになる』

ある韓国の元外交官が述べた言葉として韓国の新聞、中央日報に載っていた。

彼は比較して、大国である米中日はそんなことはない、と言っているが、米国も韓国とかなり似ている。とりわけ現政権の外交は、国務省ではなくホワイトハウスが決めているので、以前とはほぼ一貫性のない外交が執り行われている。大統領の意向に沿って、周りがあたふた決めていて、戦略を欠いた町内サッカーのようだ。

それに比べて日本では、安倍政権が史上最長を記録し、安定政権として一貫した外交政策を取り国際的にも指導力を期待されている。安定政権は経済成長には欠かせないし、外交面でもより信頼される。だが、その背景を見ると、それほど喜んでもいられない。

日本では、大規模なデモ行進は1960年代以降ほぼない。デモの欠如自体は悪いことではない。それだけ緊要な事案がないということでもある。でももしそれが、政治への無関心、無気力感から来ているならば、そして安倍政権の長期化がそれらの裏返しならば、安定政権であることは、必ずしもいいことでもない。既得権益(自民党とその支持層)が、ほぼ半分の有権者しか投票しない中で、一層の権力集中を招いているとも言えるからだ。

日本は平和だ。民主主義で、社会的分裂も米国や韓国と比べたらほぼないと言ってもいい。でも同時に、米国や韓国で見られるような、社会を変えようとする熱い情熱や気力もないように思う。町内サッカーでも、観客でいるよりは、参加した方が、体にいいのではないだろうか?

 

佐々木文子
Distance Education for Africa www.deafrica.org
ProActiveNY www.proactiveny.org

《企業概況ニュース》2020年 3月号掲載
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