ERPクラウド化が最重要課題
災害リスクは忘れた頃に突然訪れる。販売購買管理、在庫管理、会計管理といった企業の基幹業務を一元管理するERPシステムを導入している企業は多いが、今回のコロナ禍ではこうした基幹システムに、どこからでも簡単にアクセスできる体制強化が必要だと痛感した企業も多いだろう。日系企業では、自社内に設置したサーバーにVPN経由でリモートアクセスするやり方が一般的だが、全社員がリモートワークとなると、ゲートウェイサーバーに過大な負荷がかかり使用ができなくなる恐れがある。こうした事態を避けるために館岡さんが強く推奨するのが「ERPシステムのクラウド化」だ。
クラウドは、データ流出の懸念があるといった声も聞かれるが、アマゾンAWSやマイクロソフトAZUREといったクラウドサービスは、NASAなど米国政府機関も利用する国家レベルのサービスで、有能なハッカーでもこの堅牢な壁を破ることは難しいと言われている。「自宅の箪笥預金と銀行預金を考えてみてください。自分で管理するのと銀行に預けるのではどちらが安全でしょうか。アプリ側からのデータ流出や、クラウドシステム標準での運用に懸念があれば、クラウド上に自社用サーバー環境を作り、そこに自社用システムをインストールする。これが、今後のポストコロナの働き方として最適なのです」。
ERPシステム、クラウド化のメリット
リモートワークの利便性を上げるだけではない。業務が特定の人材に偏り、ブラックボックス化してしまう『属人化の排除』という役割も担う。基幹業務を「標準化」「見える化」しておくことで、担当者不在で業務が回らないという事態を防ぎ、また、承認権限のある人がその場にいない状況や、特定業務に詳しい駐在員の帰 国やスタッフの退職時にも迅速に対応できる。もう一つ忘れてならないのが『データ保全』の観点。拠点で管理していたデータは、その場所が被害を受 けた場合にはデータ消失のリスクが発生する。災害に強い地域に設けられたクラウドのデータセンターであれば、洪水や地震、家事などによる被災の心配もない。さらに別データセンターへのバックアップ設定もできるので、万一何かが起こったとしても、他で保管されているバックアップデータをもとに、簡単に復旧が可能なのだ。
導入のコツは、日本本社との連携
今回のような世界規模での災害では、既存サプライチェーンが分断され混乱が生じることも予想される。ERPシステムのクラウド化を整えておけば、平常時のコミュニケーションはもちろん、万一の時には日本本社をグローバル統括拠点として各拠点の状況を把握し、サプライチェーンの組み替え対策など迅速に対処することも可能だ。そのため、導入時には必ず日本本社との連携を考え、 ERPシステムの日本語対応など日本本社側からもアクセスしやすい仕組みを作ることが重要なポイントとなる。
「これまで、リモートワークが災害時の備えとして語られることは少なかったと思います。ロックダウン解除後にどのような働き方が求められるのか。数ヶ月前と比べリモートワーク比率も高まるかもしれません。しかし、同じ目標に向かって業務を進める社員同士が、無理なく、グローバルに、必要な情報にアクセスしコミュニケーションできる──こうした環境作りを目指していく時代に差し掛かっているのだと強く感じています」。
《企業概況ニュース》2020年 5月号掲載ビジネス・エンジニアリング・アメリカ(BENG) 社長 館岡 浩志さん www.bengmcframe.com
ミシガン州立大学卒。前職では中国拠点の立上げを担当。現職ではグローバルERP「mcframe GA」の初代プロダクトマネージャとして製品リリース、プロジェクトマネージャとして3年間で12社のグローバルプロジェクトを実施した。製造業向けIoTソリューション企画を経て、北米地域のお客様をITのチカラでご支援すべく、米国拠点設立とともに、シカゴ駐在中。
日系海外拠点管理用グローバルERP「mcframe GA」 日系製造拠点用生産・原価管理システム「mcframe CS」 https://www.mcframe.com/product/ga https://www.mcframe.com/product/cs
Business Engineering America, Inc(BENG) 1999年の設立時より主に製造業向けに基幹業務システム導入サービスを提供しており、とくに自社開発システムの「mcframe」シリーズは世界24ヶ国1,200社以上の豊富な導入実績を持っている。米国拠点は5番目の海外拠点として2017年10月に設立され、「mcframe」をはじめ、IoT(Internet of Things)を活かした製造現場カイゼンシステム、日系拠点向けコンパクトERPシステム「mcframe GA」の北米販促活動および現地サポートを行っている。北米各地にパートナーネットワークを構築しており、ニーズにあわせた日系企業の「ものづくり」支援の提供に高い評価を得ている。