Home > コラム > 企業不祥事と闘う > 【企業不祥事と闘う】
米国実務最前線 実践からのアドバイス
第32回 激動に入った世界における舵取りの要点
過去の大型破綻から学ぶこと

【企業不祥事と闘う】
米国実務最前線 実践からのアドバイス
第32回 激動に入った世界における舵取りの要点
過去の大型破綻から学ぶこと

 世界が激動に入った。コロナ禍に背中を押され転げ落ちるような形だ。激動期におけるリスク対策については、本コラムでも幾度か解説してきた。(例えば、過去のコラム・タイトルを見ると「激動の時代の不祥事リスク予測と対応」「まだ間に合う;リスク洗い出しと対応」「景気変動期に顕在化するリスク」「景気転換期での企業破綻への大きな落とし穴;当局の甘い言葉」などがある。)

 これまでは総じて激動への準備の話が多かった。今回は、いざ激動に入り、まずはこれからの時代のリスクの性質や対応について要点を記す。加えて、筆者が対応した過去の景気変動期の主要案件(リーマン、アーサーアンダーセン、山一証券)についても少し印象を述べよう。

激動期の特徴: 変化のスピード

 激動前のバブル期(そして特に近年のようなバブルの引き延ばし期においては)、物事が惰性で滑るように、それまでの延長戦上に進んでいく傾向が強い。よって、ビジネス環境や政治の変化は緩やかに予想通りの方向に進むことが多い。これは激動の兆しが見えてきた段階においても同じだった。

 それとは対照的に、激動期となると変化は高速になる。バブル期に蓄積され埋没していた歪みや問題が、一気に噴き出し露呈するとともに、それらが更にドミノ連鎖を起こしていることに大きな原因がある。

激動期の特徴: 動向のランダムさ

 変化の方向性もランダムになる傾向がある。予期せぬ色々な方向から次々と様々なリスクが訪れやすい。大型リスクは、水面下に隠れているものが多い、ということに原因がある。

 「脚をとられる危険なリスクは、知らないということさえにも気づいてもいないリスクだ(unknown unknowns)」というのはラムスフェルド元国務長官の名言だが、破局の引き金になるような大きなリスクは、早期局面では死角に隠れ、その存在にさえ気づかれていない場合が多い。

 リーマン危機の際にも、ファニーメイなどを巻き込んだ不動産モーゲージ問題については米当局も早いうちから認識していたが、AIGのロンドンから行われていたCDSのリスク等は、当時露呈した中では最大級のリスクであったにも関わらず、それが認識されたのはリーマンが転げ落ちてからの最後だった。

 いずれにせよ、予期せぬ事象や連鎖が重なり、激動期の動向はリスクにおいてもチャンスにおいてもランダムになりやすい。つまり、急変につぐ急変が重なり、まさに「激動」が続くことになる。

長期プランは困難: まずは致命傷を避けること: スピードは大事?

 このように、企業の存在自体を脅かされる事象が起きえる、先が見えにくい濁流のような時代となると、長期的な戦略やプランの有効性には限界がある。まずは致命傷を避けて、組織としてのサバイバルを優先ということになるだろう。なお、よく「激動の時代にはスピードが必要」というようなことが言われるが、先行きの方向性がわからない状況では、そもそも「どちらの方向へ走り出せばよいのか」という問題があり、いたずらに走りだすようでは、間違った方向へ走って破局、ということになりかねない

 但し、組織のサバイバルのための対応においては、迷わずスピードのある行動をとることが必要であろう。キャッシュの確保しかり、固定費の削減しかりだ。

 

迷走の典型

 激動期の迷走にはいくつかの典型的パターンがある。

(1)深追い、追い銭、対応の手遅れ(傷を深める対応、無対応)

(2)組織やアライアンスの足並みの崩れ(インセンティブの変化;逃げる者、裏切る者)

(3)単なる迷走(あらぬ方向へ右往左往)

 

致命的ミスの典型的な理由

 激動期の舵取りを決定的に間違える理由にも、典型的なパターンがあるだろう。

(1)バブル期から抜けきらぬ勘違い・惰性のアドバイス

(2)氾濫する「浅知恵」と「焼き直し」

(3)パニック・現実逃避

(4)変化する組織や個人のインセンティブの読み違い

 

対応の基本・心構え

 激動期に生き残り躍進の機をうかがうには、どのような心得が必要か。

(1)長期戦略や展望の限界(不可能)を理解

(2)サバイバルを優先する(固定費削減;大型リスク洗い直しと対応、等)

(3)不変なもの・頼れるものは何か(基本に立ち返る;まず奇策はない)

(4)構造の変化を理解(終わったものも見えてくる)

(5)必ずしも多数派が正しくはない(バブル期には迎合していればよかった)

(6)雑音を排除(雑音は量もボリュームも増える)

(7)自然体で受ける(武道の構えのごとく;重心を外さず柔軟に)

 

リーマンの代理をして学んだこと・印象

 リーマン危機の際に、米国のリーマン本体の管財人側で対応した。

(1)数千億円単位の巨額な取引もほぼ無価値になりえる(そして対応の手間もかけられなくなる)

(2)状況急転の中での対応には限界あり(複雑な状況への対応には、どれほど人員をつぎこんでも出来ないことあり)

(3)それまでチヤホヤされたものが反転して損失へ落ちるという世の常

(4)ソフィスティケートしていると崇拝されていたものの中身や実態はそうでもなかったりする

(5)わかった筈であろうリスクについても、露呈するまでは専門家やマスコミも盲目であることが多い

 

アーサーアンダーセンの代理をして学んだこと・印象

 アーサーアンダーセンは、破綻の前後、会計粉飾事件において代理をした。

(1)トップエリートであるからこその甘え・奢り(「会計界のティファニー」だった;格下に負けるわけはない;格下はどうせ悪いことをしているのだろう、との甘え)

(2)パニックが破局を呼ぶ(エンロン事件の関係書類を破棄してしまったことが引き金になって破綻)

(3)破綻すると立場が変わる(一気に弱くなるし、ターゲットでもなくなる)

 

山一証券やカネボウの破綻事件の対応をして学んだこと・印象

 山一やカネボウなどの日本のバブル崩壊後の一連の破綻案件においては、主要なターゲットとなった監査法人側で訴訟や当局対応の統括をした。

(1)国策企業としての甘えが終焉を呼ぶ(「天下の山一でしょう」「ひと山来たら大丈夫ですよ」;当局担当者に大丈夫と言われて対応が遅れたりする)

(2)終焉はゆっくりとそして突然やってくる(良く見せようとするのが企業というもの;企業は死ぬまでは生きている;実質的に破綻してから露呈までのタイムラグ)

(3)運命共同体のスキャンダル(日本の不祥事の典型;顧客損失の引き取り;取引先を巻き込んだ粉飾;特命チームによる隠ぺい;しかし今はM&Aや株価経営により不祥事の性質も変化;これからの激動でどう変わるか)

(4)わからなかった筈のリスクについても、露呈してからは世論は一気に「わかっていた筈」悪かったという話になる

 

(米国訴訟弁護士 齋藤康弘)

《企業概況ニュース》2020年 06月号掲載