Home > US Living > Food > 【茶の湯入門 さあさ一服】抹茶の製法

【茶の湯入門 さあさ一服】抹茶の製法

 季節は春となりました。日本では四月から新茶の収穫が始まります。茶摘み歌にある「夏も近づく八十八夜」とは立春から数えて八十八夜(五月二日前後)のことで、この頃が京都近県における茶の収穫の最盛期に当たります。

 そこで今回は茶の湯の主役である抹茶がどのように作られるのかをご紹介したいと思います。

 日本で栽培される茶葉のほとんどは緑茶として加工され、中でも抹茶と玉露は日本茶を代表する高級茶として知られています。抹茶、玉露と他の緑茶との最も大きな違いは茶葉に含まれる「うま味」の量です。日本の緑茶はこのうま味を楽しむ嗜好品であり、その含有量が多いほど高級茶として扱われます。

 茶の木にはアミノ酸の一種であるテアニンという成分が含まれており、これが茶のうま味の元となっています。テアニンは、茶木の根で生成され、その後葉に移動していきますが、その際、太陽光を浴びると分解され、苦味成分のカテキンに変化してしまいます。このテアニンを守るため、抹茶、玉露の茶畑では覆い下栽培と呼ばれる方法を用います。これは茶葉収穫前の約20日間程度茶畑全体に屋根を造り、太陽光を遮断して育てる栽培方法です。テアニンが保護されるとともに、葉に含まれる葉緑体の量が増えるため、深い緑の茶葉が出来上がります。

 こうして栽培された茶葉は、四月から五月にかけ収穫が行われ、枝先に芽吹く若葉のみ摘み取られます。茶葉は摘み取った側から発酵が始まるため、摘み取り後速やかに蒸し加工を行い発酵を止めます。ちなみに熱を加えず発酵を進めていくと、ウーロン茶、さらに発酵を進めると紅茶が出来上がります。緑茶も発酵茶も同じ茶の葉から作ることが出来るのです。

 その後茶葉は乾燥され、「荒茶」が完成します。各農家から出荷されるこの荒茶は、その後合組に回されます。合組とはブレンドのことで、最低でも10種類以上の荒茶をを用います。この合組作業により、荒茶それぞれの特性を組み合わせ、香り、水色、味を調整していきます。ワインなどは年代により同じブランドの銘柄でも味に差が出ますが、日本のお茶は合組により、毎年同じ品質の抹茶を市場に送ることが可能となっています。

 合組終了後、茶葉は数ミリ四方のサイズに細かく裁断され「碾茶」に仕上げられます。この碾茶の状態でここから約半年間、秋まで冷暗所にて保管されるのです。この熟成期間を設けることで、草のような青臭さが抜け、まろやかな味わいの茶葉となります。

 最後に、碾茶を石臼で挽いて抹茶の完成となります。現代でも茶会用の高級な抹茶は古来と同様に石臼で挽かれます。ミキサーなどを使用して粉末化する方法もありますが、石臼が最も摩擦熱が発生しづらく、また素早く粉末化できるため、茶葉の品質を損なわない最良の方法として現在でも用いられています。

 こうして完成した抹茶は秋になると壺切茶などの名称で販売が開始されるようになります。

 この秋は是非みなさんも今年の抹茶の味をお試しください。

 

長野佳嗣
茶道家・現代美術家
武道茶道上田宗箇流正教授者
info@y-nagao.jp
https://www.y-nagano.jp

《企業概況ニュース》2020年 4月号掲載