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企業・雇用主のためのCOVID-19 対応に関する法的留意点(4)
〜加州ワーク・シェアリング・プログラム〜

第50回【リーガル塾:3分で学ぶ米国ビジネス法】
企業・雇用主のためのCOVID-19 対応に関する法的留意点(4)
〜加州ワーク・シェアリング・プログラム〜

 前回は、企業がCOVID19の感染拡大で受けた打撃を乗り越え、ビジネスを前進させるために知っておくべき「労働力の変更に伴う基礎知識」に関する法律の概要を列挙したが、今回はその際に触れた、カリフォルニア州ワーク・シェアリング・プログラムについてもう少し詳しく説明しよう。

概要

 短期所得補償制度とも呼ばれるワーク・シェアリング・プログラム(Work Sharing Program:WSP)は、1978年にカリフォルニア州で最初に導入された制度で、米国では2020年6月現在26州が導入している。WSPとは一人当たりの労働時間を減らして、ノンエグゼンプト従業員の間で業務を分かち合い完全解雇を回避するための制度である。この制度により、労働時間を削減された従業員はその割合に応じた給付を受けることができる。給付期間は各州によって異なるが、通常は26週から52週となっている。

 昨今はCOVID19の影響下、WSPの申請件数が米国では100万件以上となり、この数は2007年から2010年の米金融危機直後の3.5倍で、今後もさらに増え続ける見通しであると報じられている。WSPは雇用主にとってとても有益なシステムだが、その申請には、数々の適用要件を満たすことが必要である。

WSPの適用条件

 WSPは連邦労働省(US Department of Labor:DOL)の監督下、各州の失業保険によって運営されているので、細かい受給要件は各州によって異なるが、カリフォルニア州では、短期所得補償制度をワーク・シェアリング・失業保険プログラムと規定している。以下にて、雇用主がWSPを申請し従業員に失業保険が支給されるための条件を、カリフォルニア州を例にとってあげてみよう。

・カリフォルニア州内で法的に事業登録されており、有効なカリフォルニア州雇用者番号を有すること。

・労働時間及び給与削減の対象となる従業員が、全社あるいはその部署における全労働力の少なくとも10%、かつ、2名以上いること。

・労働時間及び給与の削減が、10%以上60%未満であること。

・該当する従業員は、退職給付プランの適用を継続して受けられること。

・健康保険及び退職年金等のベネフィットについて、WSPの対象とならない従業員にも一貫して変更しない限り、労働時間及び給与の削減の対象になった従業員には、WSPの適用前と同一のベネフィットを提供すること。

・対象となる従業員が所属する労働組合(該当すれば)がWSPに参加することに同意し、署名していること。

・雇用主は、事前にWSPの適用を受けることを従業員に知らせること。

・雇用主は、WSPによって何人のレイオフを回避できたかを通知すること。

 また、WSPには以下の制限がある。

・断続的、シーズナル、臨時雇いの従業員、またはリースされた従業員はこの制度の対象とならない。

・執行役員、該当する企業に投資している主要株主はこの制度を利用することができない。

・WSPは解雇への移行手段であってはならない。

申請の方法

 WSPへの申請方法は州によって多少異なるが、カリフォルニア州では、雇用主が、申請書「Work Sharing (WS) Unemployment Sharing Plan Application, Form DE 8686」に必要事項を記入して、カリフォルニア州労務働局(CA Employment Development Department:EDD)へ提出する。なお、雇用主は、WSPに関して、経過報告及び管理義務の遵守が求められることに留意されたい。

考察

 WSPの活用により、雇用主は育成してきた従業員を維持しつつ現状の雇用経費を削減できる上に、新規採用とそれに伴う時間と人材の育成にかかる負担を減らすことができる。また、従業員の完全解雇を防ぐことができるので、解雇に伴うリスクの分析、決定理由と判断基準の文書化などの弁護士費用を削減することも可能だ。その一方、手続きの複雑さや従業員の能力向上が難しくなるなどの懸念も指摘されている。企業が試練の時を乗りこえる一つの手段として、この情報を役立てていただければ幸いである。労働力の変更や他の経費削減方法を実施するにあたっての特別のアドバイスは、専門家に相談することをお勧めする。

 

  *ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。 Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group   萬 タシャ 弁護士 Yorozu Law Group 235 Montgomery Street, Suite 300 San Francisco, CA 94104 Tel: 415.707.5000 info@yorozulaw.com www.yorozulaw.com  

略歴 萬(よろず)タシャ Yorozu Law Group 代表弁護士 オレゴン生まれ関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日米の商慣習や法制度等の違いを踏まえた法務・税対策両面からの戦略的アドバイスを提供する。日系企業の外部顧問を多数務めるほか、北加日本商工会議所と米日カウンシルの常任理事等を務める。家族とトライアスロンに参加するのが趣味。

《企業概況ニュース》2020年 8月号掲載