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第2回 バイ・アメリカン

【クロスロード : 世界と日本】
第2回 バイ・アメリカン

 1月20日、バイデン氏が大統領に就任した。就任初日に、気候変動に関するパリ協定への復帰、世界保健機関(WHO)からの脱退の撤回など7つの大統領令に署名、トランプ政権との政策の違いを印象付けた。翌日以降も新型コロナのワクチン供給加速などの大統領令に署名。大統領首席補佐官のロン・クレイン氏は1月16日に「政権発足後10日間」というメモを幹部予定者に配布、ここまでは基本的にそれに沿った行動だ。同メモによれば、今後2月1日までさらに大統領令等が出される予定であり、そのうち一つは「バイ・アメリカン」に関するものを予定している。

 「バイ・アメリカン」の歴史は古い。大恐慌による需要減に対応するために、1933年にフーバー大統領が政府の直接購入を対象とするバイ・アメリカン法に署名。1982年には陸上交通補助法(1982)が成立、高速道路や鉄道等の陸上交通事業に、政府購入に加えて政府資金を使った民間事業にも米国品の購入を義務付けた。

 バイデン大統領は、選挙期間中から「納税者のお金を使う場合は、米国製品を購入し米国の雇用を支援すべき」と主張。90年前にバイ・アメリカン法を可決したが、大企業や利益団体の圧力で抜け穴が数多く作られた、バイ・アメリカンの強化が必要と訴えた。

 バイデン政権が実際にどこまでバイ・アメリカン政策の強化を目指すのかは注視が必要だが、これは日本を含めた各国にも影響する。戦後、米国以外でも政府調達で国産品を優遇することは一般的であったため、GATT発足時も、政府調達は内国民待遇の例外とした。しかし、取引額も大きく国際貿易への影響も大きいため、先進国間で政府調達協定を締結、その後、同協定の強化が図られ、(未だに各国の例外項目はあるものの)国際社会は政府調達の自国品優遇を限定する方向で歩んできた。

 世界金融危機後の2009年2月に成立した米国復興再投資法にはバイ・アメリカン条項があり、同法に基づく公共事業で使われる鉄鋼その他製品は米国製であることが求められた。当初の議会案は、政府調達協定に反するものであり、カナダが激怒、EUも厳しく批判、オバマ大統領は貿易戦争を回避する必要があるとし、政府調達協定を優先しそれと整合的な範囲でバイ・アメリカン条項が使われる形に修正された。

 米国の隣国で貿易額も多いカナダは今回もバイデン政権のバイ・アメリカン政策を警戒、働きかけを行っている。1月22日のバイデン大統領とトルドー首相の電話会談では本件が話し合われた模様だ。

 トランプ大統領の単独主義に対して、バイデン大統領は国際協調主義と言われる。しかし、両者は保護主義的性格が強い点は共通だ。政治的には、コロナで高い失業率が続く中、米国のバイ・アメリカン強化は驚きではない。しかし、バイ・アメリカンは、米国の政府調達を割高にし、日本や欧州も同様の措置を取れば米国企業のビジネス機会も縮小する。米国商工会議所もそうした懸念を表明している。米国のバイ・アメリカン強化は、菅総理が昨年9月の国連演説でも強調した「多国間主義」や「自由貿易」にも反する動きだ。今後、注視と働きかけが必要であろう。(1月24日、記)

大矢 伸 
一般財団法人 アジア・パシフィック・イニシアティブ
上席研究員

《企業概況ニュース》2021年 02月号掲載