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人事備忘録 第一回 Ban the Box(法)

 これまで当コラムでは、政府が計画する施策や動きを加味しつつ「米国人事労務管理 最前線」と銘打ち、来る将来の人事政策などを展望して来ました。今後は少し方向性を変え、実際に人事を担われる皆様に向けて、人事管理に主旨を置き、分かりやすく説明して参りたいと思います。

Ban the Box(法)とは

 コラム一回目は、Ban the Box(法)を取り上げたいと思います。同法は、2001年の米国同時多発テロ以降、採用前の身元調査を行う雇用主が増えてきたところにリーマンショック後の高い失業率が重なり、とりわけ薬物に絡む犯罪歴がある大勢の者が、そこで露見する前科(Criminal record)のせいで仕事を見つけるのが困難な事態を打開するために生まれました。Ban the Box(法)はそれぞれの単語が示す通り、Box(質問欄)をBan(禁止)するとの意味であり、これは企業側が用意する雇用申請用紙に、以前ならば存在した犯罪(有罪)歴を問う欄を設けることを禁じる法律です。

 FBI連邦捜査局の推定によれば、過去20年間で25億回以上の逮捕が行われており、FBIマスター犯罪データベースには実に7770万人の犯罪歴を有する者——米国内成人の実に3人に1人弱——が登録されています。これはゼロトレランス政策(行為の大小に関わらず厳罰を申し渡す条例)によるところも大きいのですが、対するEEOC(雇用機会均等委員会)側が出すガイドラインでは、逮捕の事実のみが、違法行為の証拠あるいは採用対象から除外する根拠には必ずしも値しないと明言。さらに求職者に有罪歴がある場合、雇用主はその行為の深刻度や罪を犯してからどれだけの時間が経っているか、求人中の職務内容との関連性(ならびに職務に与える影響度)を検証しなければならないとしています。但し、目的は仕事を見つけるのが困難な事態を打開することに尽きますが、Ban the Box(法)は各州および各自治体によって施行しているところもあればそうでないところもあります。今年1月時点では36の州と150を超える地方自治体が同法を施行したと報告されていますが、法律の呼称は同じでも、規制や条件がそれぞれ異なります。つまり、前述のように「雇用申請用紙上に犯罪(有罪)歴を問う質問欄を設けることを禁じる」とするところ、「ジョブオファーする前に犯罪歴チェックをしてはいけない」とするところ、「第一面接時に過去に有罪判決を受けたことがあるか? と問うことを禁止する」としているところ、など細かく紐解けばそれこそ千差万別といった感があります。但しニューヨーク市を筆頭に「条件付採用内定通知書(conditional job offer)を渡す前に犯罪歴を調査してはいけない」とするところが、やはり多いように思います。

オンライン採用面接の落とし穴

 問題は、企業も以前だったら各州各自治体で同法が法制化されているかどうかを慎重に確認したのですが、最近はオンライン会議システムを用いて手軽に面接を行うことが日常となったため、見落とされるケースがあるようです。例えば、同法が施行されていない州内にある企業が、同法が施行されている州内の求職者の面接をします。そこでオファーを出し、同法が施行されていない州に呼び寄せるならまだしも、最近は、テレワーキングで職務遂行する条件で職をオファーする企業も多くなっており、即ち、同法が施行されている州に留まったまま自宅勤務を行う条件を提示するにもかかわらず犯罪歴を問うてしまったならば、不法行為になることもあるので、重々注意を払う必要があります。

 このような致命的ともいえるミスを防ぐためにも、何をさしおいても雇用申請書から犯罪歴を問う項目・ボックスを削除しておくこと、求職者が雇用申請書や履歴書の提出時および面接時に——何次面接の段階であろうとも——犯罪歴やそれに類する質問をしないこと、を徹底しましょう。これは勿論、人事担当者のみならず、各部署にも徹底周知しておく必要があるのは言うまでもありません。尚、前述したように、Ban the Box(法)適用州であろうとも、職のオファーを出す時点で身上調査を行うことは可能ですので、企業は予め、募集から雇用に至るまでの採用手順を確立し、コロナ禍終息後の来る人手不足に備えておきましょう

《執筆》
HRM PARTNERS, INC. 上田 宗朗
mueda@hrm-partners.com

企業概況ニュースにて「人事備忘録」を連載中

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