Home > Featured > 経営者視点で考える
コロナウイルスとの付き合い方(後編)《峰 宗太郎さん》

経営者視点で考える
コロナウイルスとの付き合い方(後編)《峰 宗太郎さん》

経営者視点で考えるコロナウイルスとの付き合い方

※この記事は、2021年12月15日に行われた取材をまとめたものです。

 「デルタ」の猛威も収まらぬうちに、新たな脅威として感染者数を増やし続ける新型コロナウイルスの変異ウイルス「オミクロン」。ワクチン接種により小さな光が見えたものの、日常生活やビジネスなど今後の先行きを不安視する声は大きい。こうした状況下で、私たちが今すべきことは、そして考えるべきことは何なの──米国国立研究機関でウイルス・免疫学の研究者として活躍する峰宗太郎さんにお話を伺った。

▶︎前編から読む

 

テレワークをマキシマムに

 今後、ワクチン接種率の高い地域に住む人たちであっても、自分で自分の身を守ることが必須となってくるでしょう。今回のパンデミックは簡単には収まりません。流行状況を読むならば、ワクチン接種の進まない地域に工場や拠点を置いている企業は、ワクチン接種率の高い地域への移転や撤退も見据えていった方が良いかもしれません。すでにこれだけコロナウイルスが蔓延していますし、ワクチン接種率の低い地域はいつまでたってもリスクが高いまま。将来的には、蔓延地域からの渡航には制限がかけられ、行動の自由が奪われる可能性もあります。もちろん州知事や州政府の姿勢次第では、今後の経済的な交流の在り方も変わってくるでしょう。アメリカ各州では考え方も状況もかなり違いますので、今後の動き方を見極めるタイミングだと言えます。

 働き方について言えば、まだしばらくはテレワークをマキシマムな状態にしておくことです。注目すべきは〝流行状況〟です。オミクロンに限らずコロナの感染が広がれば、当然規制を強化しなければいけません。そうなれば、エッセンシャル人材以外の従業員に関しては、ステイホームの原則を変えない方針を取っていくべきだと私は思います。これに関しては、ワクチン接種率が何パーセントといった数字だけでは、全く意味のない指標なのです。

 職場に設置されたアクリル板ですが、これにはあまり感染予防の効果はないと思います。ただ、アクリル板があることで他の人と話す機会が減りますので、飛沫が飛び交う機会を減らすという意味では感染予防の一助となっているのかもしれません。万一、オフィスや工場で感染者が出た場合には、速やかに保健当局に報告するようにしてください。感染者と濃厚接触者全員をしっかりと隔離し、さらなる感染拡大を防ぐよう徹底することが大切です。環境消毒などは二の次です。濃厚接触者に認定された方はその段階で検査を受けるべきですが、偽陰性のケースもかなり多いですので、その後も数回は検査を受けられた方が良いと思われます。症状が出た時には、もちろん再検査をお勧めします。一概に、これが正解というものはないのですが、〝感染を広げない姿勢を徹底すること〟───これが何よりも大切なのです。

3密回避とバランスの取れた生活

 もし、今すべき最大の予防はと聞かれれば、やはり〝接触回避〟となります。不特定多数の人とは合わない、イベントには行かない。そして職場でも人と密になる状況には身を置かない。私自身は、これらを主軸にした生活を送っています。その他は、普通に手洗いをして、ずっとマスクをしていること以外、何も特別なことはしていません。これを我慢と感じるのではなく、その生活サイクルに入り、定着させていくことが大事なのだと思います。

 我慢することだけでなく、バランスを取った生活をしてください。バランスを取るということは、どのリスクを自分が選択するかということです。コロナの感染リスクは多少上がってしまうけれども、それをやるメリットがあるのであれば、そのリスクを自ら取ったのだと認識して行動すれば良いのです。リスクが取れるのであれば、人と会って食事をしても、映画館や美術館に訪れてリラックスしてもいいと思います。ただし、そこには常にリスクがあるという意識を持つことは、絶対に必要なことなのです。

 とにかく、今一番の脅威はコロナですので、罹らないように注意して頂きたいとは思うのですが、コロナのことばかりに目がいってしまってはいけません。他の病気があっても病院に行くことを躊躇してしまうなどの医学・医療的な問題だけでなく、ご家族のメンタル面や精神的な問題もバランスよく見ていくことが、こうした時代には非常に大事なのです。

 体調管理という意味では、〝睡眠〟と〝バランスの良い栄養〟が一番大事です。いわゆる皆さんが想像するような、免疫を何か特定の食物やサプリメント摂取で引き上げることはほぼ不可能ですし、免疫を上げるための特別な運動もありません。ただ、薬で免疫を抑制することはできますし、ワクチンによって特定の病原体に対する免疫用途を変化させることはできますので、必要なワクチン接種で体を整え、「免疫力アップ」といったような言葉に惑わされないようにしながら、しっかりと体調管理をしてください。

感染の理由は、ひとつではない

 感染のしやすさ・しにくさということもしきりに議論されています。これに関しては、きっと何か理由があるのだとは思いますが、それが何かということを我々人類はまだ明確に言い切ることができません。ただそこに、日本人だから感染しにくい、アジア人だから感染率が低いなどの人種間での違いは、あまりないだろうと考えています。強いて言えば、基本的予防策をしっかり取れているかどうか───真面目に手洗いやマスクなどの基本予防策を取ったり、3密を回避したり、ワクチン接種率が高かったりといったことがポイントなのだと思います。

 重症化についても、アメリカの致死率が2%ぐらい、日本が1%ぐらいと、その差はあるんですけれども、実際にどれぐらい感染者数を正確に割り出しているかという分母の問題も考えなければなりません。治療のインテンシブ(徹底、集中)さの差や、年齢層の違いなども大切です。その他にも、年齢層や肥満度など色々なファクターがあると思うのですが、海外諸国と比べて、日本人の方が明らかに重症化率や致死率が低いと断言できる確たる証拠は、あまりないのではないかと思います。

 例えば、今、報道などではHLA-A24という分子が重症化しにくさに関係してるのではないかという説が言われていますが、日本人以外にもHLA-A24を持っている人はたくさんいますし、効果量としてはHLA-A24はあまり大きくないのではないでしょうか。人体はそんなに単純なものではありません。たまたま見つけた一つのT細胞の指標だけではなく、実際にはB細胞だって自然免疫系だってあります。マスク装着や手洗いうがいなどの基本的予防策への抵抗感、文化的な背景など、たくさんの要素があるはずですので、これこそが原因〝ファクターX〟だと安易に決めつけるのは、ちょっと違うのではないかと思います。こうした研究の発表こそ、慎重にするべきだというのが私の意見です。

************

 情報が溢れている今だからこそ、確かな情報を知る努力をしていかなければならない時代に私たちは生きています。その中で正しい意味のある情報を選別することは簡単ではありませんが、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)や国、州政府の発表する公的情報ソースを含む複数の情報源に触れ、それらを比較検討しながら〝妥当なライン〟というものを知ることが、何よりも大切だと感じています。

 私も、皆さんのヘルスリテラシーを底上げしたいという想いから、医者の立場でSNSやブログなどの情報発信を続けています。そこで、ひとつ声を大にして言いたいのは、「私を含め、決して単一の情報ソースだけを信用しないで」ということです。公共情報だから正しい、峰が言ってるから、大好きな芸能人やユーチューバーの発言だから正しいではなく、自ら得た情報を比較検討し、しっかりと噛み砕いて考えることが大切です。そのことを頭の片隅に置いておいて下さい。

▶︎前編を読む

 

米国立研究機関博士研究員
医師(病理専門医)、薬剤師、医学博士
峰 宗太郎 さん
https://linktr.ee/minesot

米国国立研究機関にて「EBV(エプスタイン・バー・ウイルス)」という、ヒトに感染するyヘルペスウイルスの研究に取り組んでいるウイルス・免疫学の研究員。日本で病理医をしていた頃に、このEBVが引き起こす血液のがんを数多く診断した経験を持ち、血液の病理専門だったこともあり、実際にこのEBVがどのようにがんを引き起こすかに興味を持った。研究を続けるうちにEBVをコントロールできない疾患が多くあることに気づき、さらなる探究のために渡米し、EBVと免疫の関わりついて研究して今年で4年目となる。


《峰さん執筆の最新書籍》
「新型コロナとワクチンわたしたちは正しかったのか」(2021年12月2日発売 / 日経BP社)

You may also like
人事・備忘録 第六回
ワクチン接種しない理由を問うことのリスク
《HRM PARTNERS, INC.》
人事・備忘録 第五回
ワクチン接種における強制・非強制の攻防
《HRM PARTNERS, INC.》
経営者視点で考える
コロナウイルスとの付き合い方(前編)《峰 宗太郎さん》
空調業界の2大トレンド《DAIKIN US CORPORATION》