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ワクチン接種における強制・非強制の攻防
《HRM PARTNERS, INC.》

人事・備忘録 第五回
ワクチン接種における強制・非強制の攻防
《HRM PARTNERS, INC.》

 今号では、新型コロナウイルスのワクチン接種に絡んで、昨年9月にバイデン大統領が打ち出した大統領命令およびその後を取り上げます。

 昨年9月、バイデン大統領は、米国内の100名以上の企業に対してワクチン接種の原則義務化を求める声明を出しました。それに伴い、労働省傘下の労働衛生安全局(OSHA)が企業に向けて従業員就労時のコロナウイルス拡散予防措置としての非常時臨時基準であるETS(Emergency Temporary Standard)を10月18日の週中に発表する予定としたものの、実際にはかなり遅れて11月5日付となりました。

 ETS発表当日から数えて60日後までにその大統領命令を遂行する必要から、60日後の本年1月4日の施行開始期限以降は、対象雇用主の違反に対して最大1万4,000ドルの罰金が科され、猶且つ、連邦政府と取引を行う業者であればたとえ100名以下の民間企業であってもワクチン接種を義務付ける必要条件が含まれるというものでした。

 しかし同時期に、この大統領声明を受けてバイデン政権を提訴すると明言していた検事総長がいたことから、その大統領命令の実現が危ぶまれる中、ETS発表翌日の11月6日には早くもルイジアナ州連邦巡回裁判所が、その明言に倣い、企業向けのワクチン接種義務化措置を差し止める暫定命令を出しました。また、他に共和党優勢の州の間でも次々に同様の訴えが起こされました。訴えの理由は「民間企業へのワクチン接種強制措置は憲法上で重大な問題がある」というものです。

 そしてそれに対する連邦政府からの反論や行く末は、年を跨いでからも注目されていましたが、結果は皆さんもご存知の通りで、1月14日、最高裁により差し止めの判断が下されました。「OSHAは職業上の危険な作業を監視・規制する立場にあってその権限を与えられているも、職場域を超えた公衆衛生に対する権限・承認は持ちえない」とし、要は「連邦政府機関としての権限を逸脱している」とするものでした。

 この差し止めの判断が下ったことで困ったのが多くの一般の企業。何故なら、大統領命令従ってワクチン接種の義務化を実施することは、その是非はともかくとして、少なくともCovid-19に係る企業の人事管理を容易たらしめるしからです。それが差し止めという宙ぶらりんの状態となれば100名以上の従業員を抱える大手企業はおろか、その大手企業にワクチン接種方針の範を求めようとしていた小中規模の企業までもが右往左往せざるを得なくなったからです。事実、スターバックス社の如く従業員への接種義務化をすぐさま撤回する企業が現れたり、反対に、このままより強硬に進む企業があったりと、手本にしようとしていた企業が二極化した状態に進んでいます。

 しかしながら、最高裁の差し止め判断はあくまでもOSHAの裁量範囲に疑義を唱えるものであり、民間企業をしてワクチン接種の義務化を止めるものではないことから、現在、州自体が同州内企業によるワクチン接種義務化方針自体を禁じている2州(1月中旬の時点でミネソタ州・テネシー州のみ)を除き、それ以外の地にある企業であれば、身体的な医療上の、もしくは宗教上の理由から接種できない事を認める免除条件を付した上で、従業員へのワクチン接種を義務付けることはできます。

 管理の容易さからも従業員にワクチンを接種させたいとの想いがある企業側からすれば、公に不接種が認められる原因以外の理由から拒否する従業員たちは、企業側の要請を聞き入れない頑な姿勢に映るため、彼等に対して接種しない理由を質したい衝動に駆られる筈です。事実、弊社には全米中の企業から「接種しない従業員に対して理由を質して良いか?」との問い合わせが多く寄せられるのですが、この「なぜ接種しないのか?」との一見シンプルで誰もが答え易そうな質問自体が、実はかなりのリスクを生む事になりますので注意が必要です。

 

上田 宗朗
HRM PARTNERS, INC.
mueda@hrm-partners.com
※企業概況ニュースにて「人事・備忘録」を連載中

《企業概況ニュース》2022年 2月号掲載

 

人事・備忘録:第一回 Ban the Box(法)
人事・備忘録:第二回 Salary History Bans : 給与履歴照会制限法にまつわる話
人事・備忘録 第三回 労使間の守秘義務契約にまつわる話 ①
人事・備忘録 第四回 労使間の守秘義務契約にまつわる話 ②

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