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成長すると予測されるメタバース
銀行に期待される役割とは?《アビームコンサルティングUSA》

日本のGDPに匹敵する規模に
成長すると予測されるメタバース
銀行に期待される役割とは?《アビームコンサルティングUSA》

アビームコンサルティングUSAは、金融機関向けにメタバースと銀行の関わりを考察するホワイトペーパーを近日発行予定。本稿は予告版として概要をご案内する。

2030年には5兆ドルもの経済価値を創出

 昨今ますます注目を集めるメタバース。この3次元の仮想空間がもたらす経済圏には大きな期待が寄せられ、2030年には日本のGDPに匹敵する5兆ドルの経済的価値を創出するという予測もある※1。主にゲームやエンターテイメント、小売、旅行業界の参入が先行しているが、製造業のプロダクトデザインへの活用や、シンガポールのように自国のデジタルツインを構築し都市計画をシミュレーションする等、国家レベルでの活用例もある。メタバースへの投資規模は増加の一途をたどり、2022年前半だけでも前年の約2倍の1200億ドルに到達したとの調査もある※2

 日本もメタバースを意欲的に捉えており、岸田内閣による「新しい資本主義」の実現に向けた提言「デジタル・ニッポン2022」では「バーチャル空間(メタバース)」がキーワードの一つとして挙げられている。日本は規制整備も着実に進めており、邦銀各行も参入に動き出している。米国においては、規制整備は一部遅れを取るものの、大手米銀をはじめ投資や参入の動きが加速している。今後成長が見込まれるメタバースにおいて、銀行にはどのような機会があり、どのような役割が期待されるのかを本稿では考察する。
※1、※2ともマッキンゼー社

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「メタバース」とは何か

 「メタ(Meta)」とは、ギリシャ語で「超越した」という意味を持つ。「メタバース」が使われるようになったのは、30年前のSF小説が始まりと言われるが、2021年にメタ社が現社名に変更し、メタバースへの巨額投資を発表してから、広く一般に認知されるようになった。メタバースとは一般的に3次元の仮想空間のことを指し、中でも現実世界をバーチャルに再現したものをデジタルツインと呼ぶ。

 メタバースは、暗号通貨・NFT(非代替性トークン)やDAO(分散型自律組織)といったWeb3の技術・概念と一緒に語られることが多く、親和性が高いが、メタバースとWeb3は同義ではない。現在の主なメタバースの世界には、DAOにより運営されているもの(Decentraland、The Sandbox等)もあれば、企業が運営するWeb2.0的なメタバース(Second Life、Roblox等)もある。

 メタバースを構成する要素を簡単に分解すると、主にコンテンツ・体験やサービス、プラットフォーム、インフラ・ハードウェア、そしてメタバース活動を下支えするイネーブラー(セキュリティ、データガバナンス、決済手段等)が挙げられる。メタバース内の経済活動を支えるイネーブラーとしての役割は、銀行に大いに期待される役割の一つである。

 

銀行にとってどのような機会があるか

 メタバースは銀行にどのような機会をもたらすのか、本稿では2つの領域について紹介する。

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マーケティングへの活用

 世界各国の銀行は相次いでメタバースをマーケティング手段として活用している。JP Morganによるバーチャル店舗「Onyx Lounge」の開設を皮切りに、HSBCによるEスポーツファンとの交流目的での「土地」の購入、DBS銀行によるサステナブル社会をテーマとした「DBS BetterWorld」等、各行は新しい顧客体験やコミュニティ構築を模索している。邦銀の多くもバーチャル店舗等を通して顧客との交流を図っている。

 マーケティングへの活用は銀行に限られるものではないが、昨今の銀行サービスのデジタル化の加速を踏まえると、メタバースユーザーの多くを占める若い世代へ訴求していく手段としての有効性は大いにあると考えられる。また、メタバースを取り巻く法規制の整備が途上であり、銀行による活用例も限られる中、このように比較的リスクの低い形でメタバース内でのプレゼンスを高めておくことは、参入の第一歩として適しているという見方もできる。

金融サービスの提供

 銀行ならではという視点では、先述の通りメタバースの経済活動を支えるイネーブラーとしての役割に大きな期待が寄せられる。現在メタバース内での取引は、主に暗号通貨、NFT、トークンといった暗号資産によって行われているが、これらの保管・取引サービスを提供する事業者の多くは新興のフィンテック企業である。2022年11月のFTX経営破綻事件にも見られるように、コンプライアンス観点でのリスクが非常に高く、各国の規制整備も途上である。個人だけではなく機関投資家や企業による暗号資産保有が増える中、信頼性の高いサービスが望まれており、銀行の参入余地は大きいと考えられる。例として、次のようなサービスの提供が考えられる。

①暗号資産のカストディサービス
複数通貨を管理できるシームレスなウォレットサービス
③メタバース間やメタバースと現実世界を行き来する金融サービス

① 暗号資産のカストディサービスについては、日本では金融庁が信託銀行による暗号資産の資産管理業務を2022年秋に解禁している。米国では、BNYメロンが、株や債券等の伝統的な金融資産と合わせて暗号資産をも管理するカストディサービスを、米国当局との1年半越しの調整を経て2022年10月に開始するなど、大手銀行によるサービス提供の動きが始まっている。

② ウォレットサービスの領域にも銀行の参入余地があると考えられる。暗号通貨・NFTといった暗号資産は、取引時の認証に必要な公開鍵・秘密鍵を格納するクリプトウォレットによって管理されており、現在多くのクリプトウォレットが存在している。メタバース世界のアカウント作成・認証に必要とされることも多く、クリプトウォレットはメタバース内の活動において重要な位置にあると考えられる。サービス提供事業者に関するリスクは先述の通りであるが、クリプトウォレットには技術面でもさまざまな種類や特徴があり、通貨種類や利用場面によって異なるウォレットが必要になる等、利便性が高いとはまだ言えない。

 さらに、今後は暗号通貨に加えて法定通貨や他のデジタル通貨による決済をも一元管理する需要が生まれてくることが予想される。暗号通貨は、そのボラティリティの高さや、各国規制が発展途上であること等から、「通貨」としての役割を確立できるかどうかに疑問が呈されており、暗号通貨のリスクを低減・解消するステーブルコイン(米ドル・金などの資産と連動するように設計された暗号通貨)やCDBC(中央銀行デジタル通貨)が着目されている。CDBCにおいては、中国によるデジタル人民元が先行するが、米国も、米連邦準備銀行が大手銀行を交えた実証実験を2022年に開始しており、日銀も2023年よりデジタル円の実証実験に入ることを発表している。近い将来には、暗号通貨、デジタル通貨、法定通貨が併存していくことになるのは間違いない。メタバース経済圏の拡大に伴い、こうした複数の決済手段をシームレスに管理できるウォレットサービスに対する需要が高まっていくと推察される。

③ メタバース間やメタバースと現実世界を行き来する金融サービスへの期待も高まる。メタバースで取得・取引された暗号資産は、メタバース内外を行き来する取引が可能な場合もあり、例えばDecentralandで取得した仮想の土地やアイテムなどのNFTはDecentraland内外のマーケットプレイスで取引可能である。昨今、銀行もNFT関連事業への出資や協業に動き出している。また、メタバース上の土地購入のためのNFTを担保とするローンや、暗号通貨・NFTを担保とした法定通貨のローンといったサービスもすでに実現されている。法規制上の検討事項も多いが、メタバース間やメタバースと現実世界を行き来するような金融サービスも今後発展していくと考えられる。

 

メタバースにおける金融サービス例(イメージ)

 

銀行は新しいテノロジー・経済圏の
成長を後押しする重要な存在

 メタバースの経済圏は、既存の国や地域といった境界線を超えて成長し、その取引も従来の枠組みや定義を超えて多様化していくことが予想される。その成長を阻まずにリスクを低減するような規制・枠組みの構築が早急に望まれるとともに、信頼性の高い銀行が参入していくことは、メタバースという新しいテクノロジー・経済圏を発展させていく上で非常に重要であると考える。

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 アビームコンサルティングは、「Vision 2030」において、社会の大きな変革を加速させる“社会変革アクセラレータ”となることを掲げています。今後、一つひとつの会社における変革にとどまらず、数多くのステークホルダーが協業しながら価値を共創していくような、大きな社会変革のニーズも高まっていくと考えています。黎明期にあるメタバースはこのような変革の一つであり、クライアント企業様や、協業企業の皆さまと共にエコシステムを構築・発展させていくことを目指しています。

 

《執筆》
ABeam Consulting (USA) Ltd,
金融ビジネスユニットマネージャー
沼倉 千菜 China Numakura
アビームコンサルティングは、日本発、アジア発のグローバルコンサルティングファームです。業界・業務領域に専門性をもつ日本のコンサルタントと、各国事情に精通した現地のコンサルタントが参画する“ハイブリット体制”でクライアントに伴走することで、各地域に密着した、実現性の高い支援を実施しています。
https://www.abeam.com/am/en

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