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映画「朝がくるとむなしくなる」

 新進気鋭の映像作家、石橋夕帆さんの長編2作目となる映画「朝がくるとむなしくなる」。国の助成金、AFF(Art for the future)を受けて映画制作が決まってから、撮影まで約2ヶ月という短期間で完成させた作品だ。主役のぞみを演じる唐田えりかさんに当て書きし、企画内容を3日で考え、さらに数日後には脚本の第一稿を書き上げた。最終的に撮影に掛けた時間は、わずか7日であったと石橋監督は辿ったプロセスを振り返る。

@ippo

何気ない言動がどれだけ人を傷つけているかを、私たちはもっと想像すべき

 物語は、自分の悩みを外に出せずに悶々とする20代女性の日常を、コンビニという舞台で描く。アイデアは、唐田えりかさん自身が受けた過去の芸能ゴシップ報道後の経験から得た。世間から容赦なく浴びせられる心ない声に、石橋監督が抱いたのは大きな違和感だったと言う。当事者ではない人間が無責任に、一方的に他者を糾弾することについて、〝その何気ない言動一つひとつが、どれだけ人を傷つけているか〟── 私たちはもっと想像すべきだと。接客時間の短いコンビニを舞台に選んだのは、そこにパーソナルさが伝わりにくく、一方的に感情をぶつけられてしまう場面があると石橋監督が感じ、これを一つのメタファーとして取り入れたいと考えたのだという。

〝あなたは大丈夫〟と包み込んでくれる存在

毎朝、目が覚めた時の憂鬱さを、石橋監督は、冬の朝のほわっとした映像に包み表現する。どんなに辛い出来事が起きても、次の朝は必ずやってきて世界は続いていく。その中で、いま目の前にある生活を投げ出さずに、少しずつでも前に進もうともがく自分を褒めてもいいのではないかと石橋監督は言う。「のぞみにとっての友人かなこのように、側に寄り添って〝あなたは大丈夫〟と包み込んでくれる存在が、意外と近くにいるかもしれない。かなこ役の芋生悠(いもう・はるか)さんは、昔から唐田さんとプライベートでも仲が良く、この二人の強い信頼関係をベースに物語を構築していきました」。

© Daphne Youree

ドラマティックなことは何も起こらない、ただ淡々と過ぎていくささやかな日常を描く作品。映画の後半、主人公が心情を吐露する場面があるが、このシーンをより印象的にするために、他のどのような地味で小さな出来事も、一つずつ丁寧に撮影するよう心掛け、何よりも、のぞみを通して唐田さんという存在を肯定したかったのだという。

映画が〝人間〟を描くものであって欲しい

〝テーマをダイレクトに描かない〟ことを信条とする石橋監督。それは映画が〝人間〟を描くものであって欲しいと考えているためだ。「最近、自分が作品を通して描きたいことについて改めて考えたのは、〝平気じゃないのに、平気な顔をして生きていくことの辛さ〟です。他人にとってはささやかかな問題でも、当人にとっては切実です。その環境にいて、自分がだめになってしまうくらいなら、無理せず逃げてしまったっていいんだ──そんな想いも今回の作品に込めました。外に一歩踏み出すことで、救い上げてくれる何かが待っているかもしれない。“きっと少しでもいい明日がくる”という期待。映画を観た後に、そんなことを少しだけ感じてもらえると嬉しく思います」。

2023年12月1日(金)より、渋谷シネクイントほか、日本全国の劇場で「朝がくるとむなしくなる」の上映が始まる。長引く不況の中、生きづらさを感じている若者たちの心の声が、感じられる作品だ。

 

© Ippo

朝がくるとむなしくなる(2022年制作、上映時間76分)
監督 石橋夕帆 さん

主演 唐田えりか さん
https://www.asamuna.com/
www.yuhoishibashi.com

 

 

 

 

 

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