Home > Featured > 成長産業へのリソースシフトを加速
《ミスミUSA》

〝時間価値〟と〝低価格化〟の
矛盾領域の同時実現

Misumi USA
代表取締締役社長 蘆田 暢之 さん(写真左)
https://us.misumi-ec.com/

 

 自動車、弱電、精密、EV、医療、自動倉庫業界関連の顧客を中心にFA部品、金型標準部品、エレクトロニクス部品、光学精密位置決め製品の販売を行うメーカー事業と、ミスミブランド以外の他社商品を含めた生産設備関連部品、製造副資材やMRO(消耗品)などを扱うVONA(Variation & One-stop by New Alliance)流通事業を併せ持つユニークな業態を展開しているミスミUSA。北米には自社生産工場6拠点、北米物流拠点4拠点(CA、IL、OH、メキシコ)、さらに世界各国に18箇所の在庫拠点を持ち、QCT(Quality, Cost, Time)イノベーションのコンセプトに基づいた各国毎の生産供給体制の確立により「高品質」「低価格」「短納期」の実現を推進している。2012年以来同社を率いる蘆田社長に、今後の展開と日本企業のグローバルでの戦い方についてお話を聞いた。

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ミスミUSAが見据える四大成長市場

 ミスミUSAは、かなり早い段階から〝EV(電気自動車)シフト〟を推進し、テスラの行く先がまだ見えない時期から強くサポートし続けてきた。ギガファクトリー1(リノ工場)の立ち上げにも初期段階から深く関わり、7年前からEV事業の体制を整え始めている。その後テスラも順調に業績を伸ばし、ネバダ州、テキサス州、ベルリン(ドイツ)のギガファクトリーにも駐在員を派遣、今では同社を支える大きな柱に成長しつつある。ミスミでは、この「EV」の他「半導体」「自動倉庫」「医療」を含めた4領域を四大成長市場と位置付け、こうした成長産業へリソースシフトをしていこうと商品開発、サービス開発、それを支えるIT技術、生産、物流投資を進めている。

失敗を許容し、バネに変える力

 現時点では、まだ売り上げの数%に過ぎないが、航空・宇宙産業にも大きなチャンスを感じている。スペースXとの取引もあるが、まだこの領域は未開拓で「顧客の困りごと」も含めて顧客ニーズを見極めていく段階。先の四大成長市場も含め、この航空・宇宙産業にも、これからのグローバル展開を考える上で学ぶべきことが多いと蘆田さんは考える。

 以前、スペースXがスペースシップの打ち上げに失敗した際、ミスミからも関連パーツを緊急配送していた関係上、荷物の受取確認の連絡を入れた。すると〝昨日の俺たちの打ち上げ成功を見たか!〟と興奮気味の返事が届いたという。打ち上げには失敗したが、良いデータを収集でき、結果としては成功だという。日本のロケット打ち上げ失敗時の悲壮感と比べると、こうした失敗をバネに変える力強さも、アメリカの強さの一つなのだろうと感じた。「イーロン・マスクにすれば、何百億というお金が飛んでしまったので経営者として相当な痛手であるはずですが、〝それでも前に進んでいるのだという気概〟─これは、我々日本人との発想の違いを痛感しました」。

ウォーターフォール vs アジャイル
破壊的イノベーションモデルの台頭

 「アメリカのITを駆使したモノ作りの現場を前職を含めて20年以上見て思うのは、今のアプローチでは日本企業がグローバルな土壌で勝ち続けるのは厳しいという現実。日本のモノ作りの品質が世界トップクラスということに間違いはないが、特にAIやロケット、航空宇宙といった最新分野では現状は厳しい」と蘆田さんは言う。「日本企業のモノ作りは、ガントチャートに従って設計し、SOP(標準作業手順書)に対して様々なプロジェクトが順番に流れ、品質チェックを経て最終的に合わせていく〝ウォーターフォール型〟が一般的です。このやり方は品質面では本当に素晴らしいものが仕上がるのですが、IT、AIを使った今の時代は全く〝違う時間軸〟でモノ作りも動いています。

 例えば、EV産業やスペースXに代表される航空・宇宙産業では近年スピードが最重要視され、試作段階から設計・製造・納品・アフターサービスまでIT、AIを駆使したスピードが重視されつつあります。ケース・バイ・ケースですが、ウォーターフォール型の約半分から4分の1の時間で物事が進むので、とにかく早く開発し、使えるかどうか未知数のものを社内で試し、改良を加えながら良くしつつ市場に出す─IT業界の〝アジャイル型〟のアプローチが必須なのです。この〝時間価値〟の追求と〝低価格化〟という一見矛盾した領域を同時に解決する「破壊的イノベーションモデル」の実現がグローバル企業として持続的成長には必要だと感じています」。

グローバル展開における日本人

 一般的に、日本人は数字に強く、真面目に仕事をこなす勤勉さを評価される。こうした能力は必要だが、ダイナミックにグローバルな戦略を立案し、事業を組み立て、それを突き進めていく真のグローバルリーダーは枯渇していると考える。数字に強い国民としてインド人が挙げられるが、彼らにはその資質やマインドセットが備わっている。インド駐在員オフィス立ち上げ時に、その貧富の差には辟易としたが、それでも多くの国民は英語を話し、過酷な環境で身に付けた交渉力も持つ。国全体が数学教育を奨励し、なんとしてでも生き残るという気迫と、ハングリー精神がインドには感じられたと蘆田さんは言う。

 「100年以上前の日英同盟の時代に、私の大叔父がイギリスへと派遣されました。日本海軍に空軍を新設することが任務で、イギリスで航空技術をイチから学んだそうです。当時の飛行機の性能は未成熟で何十回と墜落を経験したそうですが、命を守る墜落の仕方もあるそうで、当時は飛行機の作り方、整備の仕方も属人的で今でいうアジャイルなアプローチで日本も航空技術を身に着けたそうです。今の日本のモノづくりでは全く想像もできませんが飛行機のネジ一つの止め方なども全く標準化されておらず、100年ほど前の日本のもの作りは未熟だったそうですが、飛ばしては落ち、落ちては技術を駆使して改善し、飛行性能を一時期ではありますが世界トップクラスまで向上させたそうです。墜落の度に原因を究明し、機体を改良し、操縦士の腕を磨く。こうして一時期は世界でも最長の航続距離の飛行機をつくった─そんな昔話に思いを馳せていると、日本人の几帳面さやモノづくりへの熱い想いを感じると共に、ハングリー精神や挑戦という言葉が、日本から少し減ったのかもしれないと感じます。こんな所にも、グローバルでの戦い方のヒントがあるかもしれませんね」と話を結んだ。

《企業概況ニュース7月15日号 vol.296掲載》

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