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《MOMOSE, Inc.》

自家製〝MOMOドレッシング〟を 多くの人に届けたい
《MOMOSE, Inc.》

MOMOSE, Inc. (MOMO dressing)
オーナー
百瀬 由紀美 さん、百瀬 勝基 さん

https://www.momodressing.com/

 ニューヨーク州ブルックリン発の「MOMOドレッシング」が、味と健康にこだわるニューヨーカーたちの間で人気を呼んでいる。ニューヨーク特産のリンゴや野菜をたっぷり使い、水を一切加えずに素材の良さで勝負する。このドレッシングを開発・製造しているのが、Momose Inc.社長の百瀬勝基(まさき)さんと由紀美さんご夫妻だ。2013年3月の創業から今年で10年という節目を迎え、これまで辿ってきた経緯や今後の展開についてお話を聞いた。

全ては、ファーマーズマーケットから

 百瀬勝基さんが、ニューヨークで挑戦したいと感じたのは、アメリカで働く姉を旅行で訪問した時だった。高校3年生の時から8年間、小さな鉄板焼き屋で調理と経営を学び、ここでの経験を活かした民宿をやりたいと夢見ていた。そんな中、訪れたニューヨークで大きな刺激を受け、その1年後の2010年2月、ニューヨークを目指し、再び機上の人となった。

 ニューヨークで転がり込んだ姉のアパートの隣りでは、毎週日曜日にファーマーズマーケットが開催されていた。それを見て、農家であり自らもブースで野菜を販売するエジプト人のイベントオーガナイザーを見つけ出し、拙い英語でこう聞いた。「あなたのリンゴや人参を買い、それを使って家でドレッシングを作りたい。このテーブルの横で売らせてくれませんか」。すぐにOKの返事を引き出し、1日20ドルの場所代を支払い、わら半紙に〝マサキズ・ドレッシング(Masaki’s Dressing)〟と書いて、自家製ドレッシングを売り始めた。

秀逸なアイデアが繋ぐビジネス

 毎週日曜日、雨の日も雪の日も休まず、マーケットでドレッシングを売った。初日の売り上げは2パックで6ドル。これが百瀬さんの快進撃の始まりだった。自分の作ったドレッシングに興味を持つ人がいることは嬉しかったが、4週間が経ち、もっと売り上げを伸ばさなければと、あるアイデアを実行した。〝僕に英単語を1つ教えてください。もし知らない単語なら1ドル割引きします。僕が知っている英単語は20個ほどなので心配はいりません〟と書いたサインボードを店先に置いた。すると、それを見た子供たちが、百瀬さんに英単語を教え始めたという。

 最初の単語は〝ブルー(Blue)〟。そこから、いくつもの単語が寄せられ、一人でいくつもの単語を持ってくる子供もいた。〝アントレプレナー(Entrepreneur)〟という単語を知ったのもこの時。次第に、付き添いの母親たちがサンプルを試し、購入もしてくれるようになった。週に30本だったのが100本に、そして150本にと毎週のようにファンが増えていった。「そこで教えてもらった単語数は、最終的に600ワードぐらいです。その時のサインボードや英単語ノートは僕の宝物の一つで、今でも大切に保管しています」。

MOMOドレッシングの誕生

 売上も順調に伸び、少しだけ明るい兆しを感じかけていた頃、「このドレッシングを食べてお腹が痛くなった」という女性が現れた。すぐに、米系レストランでシェフをしていた由紀美さんに相談すると、衛生管理がしっかりとしていない自宅キッチンで作ったドレッシングを販売することは非常にリスキーだということを知った。由紀美さんのアドバイスに従い、2013年3月21日にMomose Inc.を立ち上げ、ファーマーズ・マーケットで正式に販売できるよう保険にも加入した。そして、シェアキッチンを借り、衛生面を意識しながらドレッシングの仕込みを再開した。由紀美さんと結婚し、名前を〝MOMOドレッシング〟に改名したのもこの頃だった。

3年という期限で掴んだチャンス

 「どこで、誰に、何を売るのか。このコンビネーションを間違えると、商売はうまくいかなくなるんですよね」と百瀬さんは笑う。同じモノを売っていても、川の向こうでは2倍で売れたりする。試行錯誤をしていくうちに、MOMOドレッシングにとってベストな販売場所がファーマーズマーケットだと気づき、そこで最大限の利益をあげる方ことに注力しようと考えた。

 商品の改良も積極的に行った。特に、最初の頃は、冬と夏で醤油の分量を変えたり、顧客からのフィードバックを商品に一つずつ反映させてきた。同社のドレッシングは、添加物を一切使わず、リフィル時の熱消毒も考えてグラスボトルを使用する。こうした改善を加えることで、自分たちが納得できるドレッシングを常に作っている。

 まず3年突走ってみて、ダメならそこで諦めよう。由紀美さんとそう決めて、二人三脚がむしゃらに働いた。そんな時に、大きなチャンスが舞い込む。いつものようにファーマーズマーケットでドレッシングを販売していると、数人の顧客がやってきて、この近くに新しくオープンするホールフーズでMOMOドレッシングを売らないかと声をかけられたのだ。当時、ホールフーズでは、〝ローカライズ〟をコンセプトに打ち出しており、その流れからMOMOドレッシングも対象に選ばれた。このブルックリン・ガワナスのホールフーズは、全米500件中NO.1の売り上げを記録することになるが、そこでMOMOドレッシングが置かれる意味は大きく、そこからトライベッカ店、チェルシー店、コロンバスサークル店と取扱店が増えていった。

 当然、納品するドレッシング量も一気に増えたので、作っては配達し、店舗で対面セールスをし、またキッチンに戻ってドレッシングを作るという生活が続くようになった。「目の回るような忙しさですが、自分たちのコンセプトが間違っていなかったと感じました」。そして、シェアキッチンを出て、自分たち専用の工場を持とうと決めた。

100年続く企業を目指し、新しい挑戦へと乗り出す

 2016年6月にブルックリンにあるアーミー・ターミナル・アネックス(Brooklyn Army Terminal)に工場を開設し、本腰を入れて大量生産へと乗り出す。2020年からは、コロナの影響でオンライン販売が伸び、ビジネスが一気に加速した。さらに設備投資も増やしていこうという矢先に、今度はウクライナ戦争で物流が停滞、原料価格の高騰が起きた。「経営者はみなさん同じだと思いますが、この数年間で、ビジネスの面白さと厳しさを一気に味わいました」と百瀬さんは振り返る。

 2022年3月には、同じビルの1階に〝MOMOテストキッチン〟というレストランもオープンした。食べることが大好きで、料理を作ることも大好き、そして本当に料理を愛する由紀美さんの夢をカタチにした。今年3月21日には創業10周年を迎え、百瀬さんは、今後100年続く企業にしていくための次の挑戦へと取り組む。それは、同社のドレッシングやポン酢などの商品を、1回使い切りの小さなパッケージとフードサービス用の大きなサイズのものを販売すること。すでに機械も導入済みで、カジュアルなレストランチェーンやフードコート、航空会社やホテル、学校などB to Bの現場で展開していく。「ここまで勢いでやってきましたが、たくさんの人たちの支えと幸運があったからこそ今があると思っています。常に感謝の気持ちを忘れず、100年続く活き活きした企業を育てていきたいです」と笑顔で語った。

《企業概況ニュース 2月号掲載》