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第3回 アンカレジでの米中激論

 3月18日、19日と米国アラスカ州アンカレジで米中の外交責任者が初の会談を行った。米国からはブリンケン国務長官、サリバン安全保障担当大統領補佐官が参加、中国からは楊潔共産党政治局員、王毅国務委員兼外相が参加した。ブリンケン国務長官は直前に日本と韓国を訪問、中国側はその後の北京訪問を期待したが米側が断り、北京とワシントンからほぼ等距離のアンカレジで開催されたと言われている。

 米側は、本会談に万全の準備の上で臨んだ。バイデン政権は3月3日に、国家安全保障戦略暫定指針を公表。同時にブリンケン国務長官が外交演説を行い、価値観を共有する民主主義国と連携し、強い立場から中国に対応するとの方針を示した。実際、3月12日に初のQUAD(日米豪印)首脳会談をバーチャルで実施、その後、日本、韓国と外務防衛閣僚会合(2+2)を実施した上での米中会談となった。

◇ ◇ ◇ ◇

 米中会談の冒頭部分は公開され激しいやり取りとなった。米側が新疆ウィグル、香港、台湾、サイバー攻撃、経済的恫喝などへの懸念を表明すると中国は反発。一人2分の約束を越え、楊潔共産党政治局員が16分(通訳も含めると30分)の大演説をぶった。もっとも公開部分の激しいやり取りが全てではない。公開部分の終了後に、中国はビジネスライクな態度に戻り、イラン、北朝鮮、アフガニスタン、気候変動などの分野では建設的な議論が行われたようだ。しかし、公開部分の中国の攻撃的な発言は今後の米中関係の厳しさを物語る。中国は一人当たりの国民所得が米国の六分の一だが、高齢化が既に始まり経済的には「未富先老」が課題として指摘される。しかし、今回の会談は、西側諸国にとっては、民主主義的傾向を示す前に強国となった中国の「未民先強」とでもいうべき現実を改めて示した。

 楊潔は米国を激しく非難する中で、米国式民主主義と異なる中国式民主主義があると主張、中国人は中国共産党を支持しているが米国人は米国の民主主義を信じていない、人権も中国は進歩しているが米国はBlack Lives Matterなど問題を抱えると非難した。他国の内政干渉を非難する中国が、米国の内政を批判しているのは興味深いが、中国が経済力の向上だけではなく、自らの政治システムの優位性を正面から主張する姿は人々に強い印象を与えた。

 中国の政治システムの優位性の主張は、「自信」と「不安」の双方の反映だろう。コロナの制圧とその後の経済回復は中国に大きな自信を与えた。同時に、自由な選挙による正統性付与のメカニズムを欠く共産党支配の体制には常に不安の陰があり、それは時として国内的・国際的な抑圧を生む。中国は共産主義の海外への輸出を目論んでいないが、共産党支配を維持するための権威主義的振る舞いは、国外にも影響が及び、西側諸国の目には「ルールに基づく国際秩序」への挑戦と映る。米国は中国の体制転換は目指さないが、アンカレジ会談は、米中対立が、軍事、技術、経済に加えイデオロギー対立の側面も持つことを如実に示した。大演説を行った楊潔は中国国内で英雄となっていると言う。しかし、大演説により中国が国際社会で失ったものも大きいだろう。

大矢 伸 
一般財団法人 アジア・パシフィック・イニシアティブ
上席研究員

《企業概況ニュース》2021年 4月号掲載

 

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