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バイデン復活はありうるか
《米州住友商事ワシントン事務所 渡辺亮司》

中間選挙で苦戦予想の民主党
バイデン復活はありうるか
《米州住友商事ワシントン事務所 渡辺亮司》

(※この記事は、2022年7月6日時点での寄稿分となります)

 バイデン政権発足から間もなく1年半が経過する。ギャラップ社の世論調査によると、バイデン大統領の6月時点での支持率はトランプ前大統領の同じ時期の支持率をも下回り、70年前のアイゼンハワー大統領以降の歴代大統領では最下位となる。

 バイデン大統領はアフガニスタン(Afghanistan)撤退の失態を皮切りに、移民が大量に押し寄せた国境問題(Border)、終わりが見えないコロナ(Coronavirus)、こう着状態の議会(Deadlock in Congress)、そしてインフレ問題を中心とする経済問題(Economy)といった「ABCDE問題」によって昨年半ば以降、支持率低迷に苦悩している。1つの事象ではなく、様々な問題の積み重ねでバイデン大統領は信頼を失った可能性も指摘されている。

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国民の最大の懸念はインフレ問題

 バイデン大統領は政権発足当初、経済危機、パンデミック、人種問題、気候変動の4大危機に重点を置いていた。しかし、各州で予備選が始まった今年3月頃より、バイデン政権の全ての政策は中間選挙への影響を意識したものと化した。したがって、政権は国民が身近な問題として最も懸念しているインフレ対策に注力するようになっている。

 回復に時間を要したリーマンショック後と異なり、パンデミックからの立ち直りは早かった。既に米国経済はパンデミック前のGDP規模に回復し、労働市場も堅調に推移している。しかし、景気回復の実態とは裏腹に、現在、国民の75%が経済は「とても悪い」または「ある程度悪い」と見ている(CBSニュース・ユーガブ(YouGov)調査、6月22〜24日実施)。経済の実態と国民感情の食い違いの最大の理由は、約40年ぶりに高い数値で推移しているインフレだ。特に食料品価格やガソリン価格など日々の生活で米国民が目にする品目の物価上昇が景況感を悪化させている。

 インフレはパンデミックに伴うサプライチェーンの逼迫、堅調な内需、ウクライナ危機など様々な要因がある。しかし、インフレの責任の所在について国民の多数はバイデン政権にあると見ている。選挙に向けてバイデン政権として何かしら対策を打ち出していることを示さなければならない。したがって戦略石油備蓄(SPR)の放出やガソリン税(連邦税部分)の3ヵ月停止をはじめ、ほとんど物価引下げ効果を期待できない対策も打ち出し、国民にアピールしている。インフレは高止まりしている状況下、バイデン政権はプーチン大統領によるウクライナ侵攻、エネルギー会社による価格のつり上げなどに責任転嫁を試みているが、そのようなキャンペーンも効果は見られない。

 

(図)大統領の一期目中間選挙時の支持率と下院の議席数増減(出所)ギャラップ世論調査を基に米州住友商事作成

 

民主党苦戦予想の中間選挙

 連邦議会選挙については、上院の約3分の1の議席(34議席)と補欠選挙1議席の合計35議席、下院の全435議席が改選となる。まだ中間選挙までに情勢が変わる可能性はあるが、現状では民主党は下院を維持するのは難しく、このままでは上院まで落とす公算が大きい。歴史を振り返ると、ほぼ毎回、大統領の率いる政党にとって、中間選挙は厳しい結果となっている。過去90年で、フランクリン・デラノ・ルーズベルト(FDR)大統領とジョージ・W・ブッシュ大統領のみが、就任1期目の初の中間選挙にて下院で議席数を増やした。前者は大恐慌といった危機の最中、後者は米国同時多発テロ事件といった危機直後の選挙であった。しかし、中間選挙は、通常、成果を褒めたたえる「ご褒美」ではなく、2年前の大統領選で負けた方の政党の「報復」となることが多い。6月末、最高裁判所が人工妊娠中絶の権利の合憲性を覆す判決を下した後、民主党支持者の中間選挙の投票への関心は高まったものの、今後、インフレ問題に再び焦点があたることで関心度合いは下がる公算が大きい。

 図の通り、支持率と下院で失う議席数の相関関係は極めて高い(図参照)。ティップ・オニール元下院議長(1977〜87年)は「全ての政治は地元政治」との名言を残しているが、今やソーシャル・メディアやケーブルテレビの普及などで「全ての政治は全国政治」とも指摘されるようになった。現状のバイデン大統領の支持率に基づき試算すると、下院で民主党は45議席近く失う。ただ、民主党は2年前の下院選挙で既に13議席も失ったことや、2020年国勢調査後の各州の選挙区割りで激戦区が減ったことからも、中間選挙で更に失う数は限られ、15〜30議席程度の減少に抑えられる可能性が想定される。民主党は4議席失うだけで下院における多数派の座を失うことからも、いずれにしても同党の少数派転落回避は極めて難しい見通しだ。

  現在、民主党は劣勢にあるものの、僅かながらだが、まだ挽回できる可能性はある。その可能性の1つが予期せぬ出来事が起こって中間選挙の戦況が激変することだ。例えば、米国民に対するテロ事件や戦争勃発などで大統領の下、国民が団結することなどありうる。つまり、いわゆる有事に国としてまとまる「国旗の下に団結(Rally ‘round the flag)」効果だ。その他にはトランプ前大統領の影響だ。特に上院の激戦州において共和党予備選で本選では勝利が難しいトランプ前大統領が推薦する候補が選ばれた場合、民主党にとっては多数派を維持するチャンスが到来する。

 

中間選挙後の政策見通し

 大方の予想通り中間選挙で下院のみ、あるいは上下両院で民主党が少数派に転落した場合、バイデン政権のその後の政策へのインパクトは大きい。民主党が上下両院で多数派を握る現状でも法案可決は容易でない中、多数派を失えば更に議会運営は厳しさを増す。大型歳出法案「ビルド・バック・ベター(BBB)」の環境条項が現議会(第116議会)で可決できなかった場合、次期議会での可決は絶望的となる。産業界に加え、州政府など地方自治体が独自に動くことは想定されるが、米国の気候変動対策の公約実現は遠のき、国際的な信頼は失墜しかねない。

 中間選挙翌日から米国政治のフォーカスは2024年大統領選に切り替わる。共和党が多数派となれば、バイデン政権の疑惑を調査する委員会を立ち上げ、大統領選に向けて公聴会などでバイデン政権を連日、攻撃することになるであろう。共和党の一部ではバイデン大統領の弾劾の声を強める可能性さえあり、内政は混沌とすること必至だ。

 その結果、現政権は議会を頼らないでも実行可能な大統領令や規制強化、そして外交政策に軸足をシフトせざるをえない。直近ではウクライナ紛争が外交政策で注目されているが、中長期的には中国問題の重要性が高まる。ウクライナ危機後、欧米諸国がロシアに一斉に制裁を科すなど強固な連携の動きを見せたことからも、中国の台湾攻撃の可能性は遠ざかったとの見方が支配的だ。とはいえ、国防総省は中国脅威を深刻に受け止めている。同省は「2022年国家防衛戦略(NDS)」でロシアを短期的には大きな脅威とする「急性の脅威」と位置付けている。ただし、中国のみが軍事、政治、外交、技術、経済といった全方面で将来、米国に置き換わることが可能な脅威と捉えている。次期議会で多数派となる見込みの共和党からの圧力もあり、バイデン政権は大統領選に向けて弱腰を見せることができず対中強硬策を導入することも予想される。

 米国社会や世界情勢をも左右する中間選挙の投票先について国民が意思を固めるのは夏頃と言われ、今後数週間、極めて重要な局面に差し掛かる。しかし、中間選挙に向けレッドウェーブ(共和党のシンボルカラー赤の波)が押し寄せる中、国民から信頼を失った可能性があるバイデン大統領率いる民主党の挽回はもはや不可能かもしれない。

(※この記事は、2022年7月6日時点での寄稿分となります)

《執筆者》
米州住友商事 ワシントン事務所
調査部長 渡辺 亮司

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)、日本貿易振興機構(JETRO)、政治リスク調査会社ユーラシアグループを経て、2013年より米州住友商事会社。研究・専門分野は米国および中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。『東洋経済ONLINE』コラムニスト。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

 

《企業概況ニュース》2022年7月15日創立記念特別号掲載

 

● 米大統領選の行方(2020年9月号掲載)
● バイデン新政権、間もなく始動 〜在米日本企業への影響は〜(2021年1月号掲載)

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