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《クリエイト・レストランツ・グループ》

米国レストラン業界に見るM&A
《クリエイト・レストランツ・グループ》

 日本国内で「磯丸水産」や「しゃぶ菜」「つけめんTETSU」をはじめ、244ブランド、1037店舗の運営を手掛けるクリエイト・レストランツ・グループ。同社では企業成長戦略の一つとし掲げるM&Aにおいて、米国では「更科堀井」をはじめとする4つのレストランを経営する他、2019年9月末には西海岸を中心に20店舗を展開する高級イタリアレストラン「Il Fornaio(イル・フォルネイオ)」を買収、米国でのビジネス展開を加速させている。同グループ米国市場M&Aを担当する真木俊輔さんは、プライベート・エクイティ・ファンドやファイナンシャル・アドバイザリー・ファーム、事業会社の経営企画業務など数々のM&A案件をまとめ、前職クールジャパン機構でも日本政府の海外投資をサポートした経歴を持つ。常にM&Aの最前線に身を置き米国レストラン事情にも詳しい真木さんに、米国レストラン業界におけるM&Aの流れやその注意点について話を聞いた。

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米国M&Aの流れ

 米国市場におけるM&Aのプロセスは、そのサイズや業界、進め方によって変わるが、基本的に大きく4つのステージに分けられる。まず、最初に出会う選択は「できる限り自社で行うのか、もしくはFA(ファイナンシャル・アドバイザー)と手を組み進めていくか。もちろん、大手企業であれば専属チームが社内に組織され、各専門家と相談しながらプロセスを進められるが、この選択肢はどのステージでも直面するので、ある程度のコンセプトは固めておく必要がある。

①サーチ(対象企業を探す)

②入札・交渉

③査定と契約交渉(デューデリジェンス)


④ 買収後の管理(PMI:ポスト・マージャー・インテグレーション)

 

① サーチ(対象企業を探す)

 まず、買収対象となる企業を探すにあたり、その方法は2つある。自分から魅力的な会社に能動的にアプローチするか、もしくはFAを通じて事業売却を検討する企業情報を提供してもらうというもの。10ミリオン以下の小さな企業買収案件であれば、企業売買を斡旋するウェブサイト活用も一つのツールとして使えるかもしれないが、ある程度の規模感のあるビジネスであれば、やはりアドバイザリー・サービスのネットワーク活用を検討するのが良い。複数の信頼できそうなFAに打診し、これら情報の中から自分たちのスペックに合う企業のリストアップを始める。FAとの関わり方も様々となる。ターゲット企業の選定プロセスだけを依頼することもあればリストアップ段階から参画し、最終的に交渉代理人として取引まで関わってもらうこともある。

 サーチ期間については、真木さんのように一つの案件だけを探すのではない場合は、常にサーチは続けながら良い条件がみつかり次第デューデリジェンスへと移行させる。条件に合った企業を1、2件だけ買収したいという場合は3ヶ月ほどをサーチ期間に充てM&Aが完了し次第すぐに経営に本腰を入れる。市場環境をみながら、少しでも買収可能性のある候補企業を〝ロングリスト〟とし、そこからコンタクトを続けて実際に買収条件に合致する〝ショートリスト〟へと絞り込む。その中の数社と交渉する前提で考えると、入札・交渉前のデューデリジェンスにかける時間は、3ヶ月から6ヶ月ぐらいが妥当となる。

◉ 真木さんのPOINT OF VIEW

 サーチ段階における見極めポイントも様々だが、クリエイト・レストランツの北米事業展開におけるテーマは、「チェーン展開をしている、ある程度規模感のある安定レストラン。また、そこを起点に広げりが描ける核となれる企業」だ。言い換えれば、新しいコンセプトを全面に押し出し、将来的に有望だが全てがダメになる可能性のあるレストラン、問題を抱えているが修正すれば良くなるかもしれないレストランといったギャンブル要素は避け、すでに確立された安定企業のみを対象とした。

 他にも、売り上げに対する賃料比率、フード&レイバー(FL)比率なども判断基準に加え、堅実に経営され買収後にテコ入れすることで確実に伸びていく案件だけをピックアップする。もう一つ真木さんが注目するのが〝ブランド価値の出し方〟。それは、全米に20件を散らして展開するブランドよりも、数は少なくても1つのエリアに10〜15店舗集中して出店しているブランドを優先するというもの。そのエリアであれば、誰もが認知するブランドに価値を見出し、それこそが事業継続のしやすさに繋がると考える。

 しかし、実際は、米国レストラン・チェーンには地域を変えて広範囲出店する戦略を取るブランドが多い。レストラン経営サイドとしては、同じコンセプトのレストランを一つのエリアで数店舗経営し成功させることが第一段階、そして離れた違うエリアでも成功させていく〝ポータブル・ブランド(地域横断ブランド)の確立〟が第二段階目となる。これにより、たまたま特定地域で成功した訳ではなく、リージョナルやナショナル・ブランドになる可能性を秘めたコンセプトということが証明され、企業ブランド価値はぐっと上がり売却時により高値を付けられるようになる。

② 入札・交渉

 入札・交渉は、日米の違いをいくつか感じるステージとなる。一番の大きな違いは、企業オーナーのM&Aに対する感覚だ。米国では、M&Aの話であっても肯定的に買収話に耳を傾けてくれることが多いが、日本では、こうしたM&Aや買収話は非常にセンシティブで、一歩間違えればオーナーの気分を害して交渉話のテーブルにも着くことができない。そのため、日本では相手との間合いや関係性を徐々に詰め少しずつ提案をしていくプロセスが必要だが、米国では〝あなたの会社の買収に興味があるのでお話をさせてください〟と打診すると、〝幾らぐらいが妥当だと思う?〟といった会話に繋がることが多い。もちろんNOという返答もあるが、買収話を持ちかけられたと気分を害する人も少なく、買収話をビジネスとして受け入れる土壌があることも米国M&Aの大きな特徴だ。

 もう一つの特徴として挙げられるのが、入札プロセスとなる。企業を売却したいオーナーは、通常FAを雇って入札イベントを開催する。これは日米双方同様のやり方だが、日本ではFAが間に入りプロセスが始まると、大抵の場合は最後の売却プロセスまで一気に進むことが多い。しかし米国においては、結構な確率で入札自体が無くなったり、案件成約まで辿り着かないケースもあるという。米国では、日和見主義的に入札が行われることが多く、想定していた希望条件に到達しないのなら取引を止めるという決断も一般的。最初の頃は、真木さんも〝この機会を逃したらもう買えないかもしれないという日本的感覚で入札に臨んでいたが、今では〝半年後には同じ会社がより現実的な価格目線で戻ってくるかも〟と気楽に考えながら入札できるようになった。

 交渉力の強さもポイントとなる。社内の決定事項として、何がなんでも売買を成立させなければというメンタリティがこちらではないため、正しい条件での買収であれば喜んで応じ、そうでなければ売らないという極めてシンプルなやり取りとなる。当然、日本のような義理人情での交渉もなく、お互いの条件に対してどこに着地点を見出すかといった話が主となる。そういった意味では、米国での交渉の方がタフなのかもしれない。

③ 査定と契約交渉(デューデリジェンス)

 デューデリジェンス段階になると、どんな案件でもほぼ必ず会計士や弁護士といった外部専門家が関わってくる。①②のプロセスは自前で行えても、この段階ではかなり専門的な知識が必要となってくるので、FAを通じて交渉依頼するケースも多くなるが、そのチェック項目などについては、案件規模や企業の方針で変わってくる。例えば、コマーシャル・デューデリジェンスと呼ばれるものはビジネス自体の中身を見るもので、一般的には、戦略コンサルタントに依頼し、今後の成長可能性やコスト削減の可能性などを細かに分析していく。他に、現経営陣の能力分析のためにHRコンサルタントを雇ったり、IT企業のIT技術能力確認のための専門家を雇うなど、その業態に合った専門家に関わってもらう機会が増えてくる。この部分に関しても事業内容や規模によるところが大きく、最もベーシックなところとしては、数字的なところは会計士、法律的なところを弁護士に依頼し、約1ヶ月半にわたって見ていく。

◉ 真木さんのPOINT OF VIEW

 各専門家に依頼して上がってきたレポートを見るのも大事なポイントとなる。それぞれのキーポイントとなる点を定義し、会計士や弁護士などの専門家がチェックする体制を整えなければならない。会計でいえば、売主から出された財務諸表による売り上げや経費に特殊事情や調整が入っているかもしれない。こうした調整項目についての詳細レポートを依頼する際は、会計士に任せっぱなしにすることなく、キーポイントにフォーカスを当てた調査がなされているかを自らチェックしていくことが、後々のトラブル回避に繋がる。レストラン業界であれば訴訟状況の有無、製造業であればIP(インテレクチュアル・プロパティ)の保有状況や汚染問題といった環境リスクも抑えておきたい。

④ 買収後の管理(PMI:ポスト・マージャー・インテグレーション)

 買収が完了しいよいよ経営となってからも、考えるべきことはたくさんある。その一つが、買収後の管理(PMI)となる。既存の経営陣を一掃して、日本の本社から送り込んだ駐在員で運営していく方法もあるが、買収したてのアメリカ企業をハンドリングできる社長候補人材を、自社内から探すことは難しい。すでにグローバル経営を経験している重鎮社員や若手ホープを社長に据えることもできるかもしれないが、既存の経営陣に改善点を伝えながら経営を任せていくのが、今の日本企業のM&Aでは一般的となっている。

 米国企業が国内の企業を買収するケースと、日系企業が米国企業を買収して運営するのでは、見るべきポイントは全く違ってくる。日系企業が直面しがちなのは、買収した企業経営者層に対するコミュニケーションの取り方。例えば、日本では〝あ・うんの呼吸〟で物事が進められがちで、決裁権限においても様々な規定が曖昧なままとなっていることが多い。書面上でしっかりと規定されていたとしても、実際の現場では全く違うルールが採用されていることもある。米国企業ではこうした点については比較的真面目に守られがちで、書面上において〝あなたの決裁権限はここまでです〟はっきり記していくことがトラブル回避の秘訣となる。ここを曖昧にし日本の経営方法で取り組むと、誰が、どこで、何を決めているのか、自分はどこまで権限を与えられているのかということが不明瞭となり、彼らの高まったフラストレーションが溜まり、社長やCFOなどの経営幹部が辞職するという結果に繋がっていく。給与に関しても同様で、米国の経営者クラスであれば、エンプロイメント・アグリーメントの中にボーナス条件などまでを細かく規定していく必要がある。

 もう一つ、日本との距離も買収後の経営に支障をきたすことがある。実際には、買収前の候補探しから始まっているのだが、例えば、担当者がテネシー州で良いM&A案件を見つけたとしても、日本にいる経営陣はそれをイメージすることができず、そもそもテネシーがどこにあり、そこにはどんな文化を持つ人たちが住んでいるのかを理解することは難しい。これは、日本を離れて事業を行っている駐在員であれば、少なからず皆に心当たりがあるのではないだろうか。本社と現場の情報共有の仕方、何をどのように伝えていくのか。そして本社側が受けた情報に対して、どこまで責任を持って判断するのかまで、しっかりと情報共有する必要がある。例えば、米国では一般的な訴訟問題ひとつとっても、日本本社レベルで考えれば大問題として捉えかねない。そこで力を入れるべきポイントはどこなのか。これを取り違えると収集のつかない泥沼になってしまう。こうした温度差からひき起こされる問題をコントロールしていくことも、地に足の着いた経営を作っていく。

M&Aを成功させるために

 米国において、M&Aのハードルはそれほど高いものではない。少なくとも米国のM&Aマーケットはとてつもなく大きく、案件数も日本と比較して比にならならない。また、M&Aに対する意識も高く、交渉に応じる柔軟な体制があるので、それほど肩肘張らずに色々な方法でアプローチしてみることが重要だ。もちろんFAの数も多く、レストラン業界専門FAなど、それぞれの分野における専門家が存在するので、こうしたサービスも賢く活用しながら、まずはM&Aに触れ、ビジネスチャンスを広げていくことが大切なのかもしれない。

 

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《取材協力》
クリエイト・レストランツ・グループ
北米事業投資推進部

部長 真木 俊輔さん
http://www.createrestaurants.com

 

 

 

《企業概況ニュース 3月号掲載》

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