Home > US Living > REALTY > 【NY商業不動産ウォッチング】コロナ渦で 都市脱出の動き

 筆者は、ロックダウンが始まった3月中旬から現在まで4ヶ月間をマンハッタン の家とオフィスを離れて車で2時間ほどのアップステートにある住居から仕事をしている。

ニューヨーク生活が40年に及ぶ中でこんなに長い間マンハッタン を離れるのは初めての経験である。

 新型コロナウィルスのパンデミックによってニューヨーク市内から人口の流出が顕著に現れ始めている。

 マンハッタンの賃料住宅市場では、賃料が2010年以来最大の下落となった。7月中旬のストリートイージーの報告によると、利用可能な物件数が急増しアパートの空室率の増加が初めて3%を突破した。今年4月から6月にかけてマンハッタン の家賃の中央値は月額3,300ドルで昨年同時期より2・8%の減少がみられる。家主は需要の減少を受け、家賃の値下げや入居日の緩和などのオファーを試みているが、今後パンデミックが長引けば密集を避けて市内から郊外へと人の流出はさらに進むと予想される。

 在宅勤務の浸透で多くのオフィスワーカーは通勤便利なアパートに住む必要もなくなった。特に20代後半から30代前半のミレニアム世代は結婚や家族を持つタイミングでマンハッタン より賃料が安く広いスペースが手に入り、なおかつライフスタイルをあまり変える必要のないニューヨーク市郊外へと移っている。ミレニアム層に限らず市内を離れてロングアイランド、ウェストチェスター、ニュージャジー州北部などの郊外に家を購入する動きが大幅に増加しており6月の郊外における住宅販売を活発にした。

 この都市脱出の現象は住宅市場に限らず企業も郊外へとシフトを移している。リモートオペレーションがうまく機能していれば多額の家賃と費用をオフィススペースにかける必要もなく、密集したオフィスビルの環境下で従業員を働かせることもない。オフィス市場は、パンデミックが過ぎ去った後でも在宅勤務の快適さを知った従業員とオフィススペースの必要性が経営者によって見直された後、同じレベルには戻らないと大方のオフィス不動産アナリストが指摘している。興味深いのは、9・11の後もその兆候がみられたが今回のパンデミックでもオフィスフロアーの階数に関して高層階よりも低いフロアーが見直されている。エレベーターでの人混みを避けて、階段を使用する場合毎回60階、70階まで上り下りをするのは大変であるからだ。

米国最大の不動産市場であるニューヨーク市は、7月20日に経済活動の再開

 フェイズ4に入った。ただし、レストランでの店内飲食、映画館、モール、ジムなどの再開は見送られた。ニューヨーク市は6月にフェイズ2でアウトドアでの飲食、ヘアサロンなどのビジネス再開が許可され、店舗の再開に伴いニューヨーク州の消費者支出は5月、6月と2ヶ月連続で強い増加を記録した。6月の小売・総売上高は、5月の18・2%の上昇からさらに7・5%上昇した。レストランの売り上げは20%の増加がみられた。一方、レストランの営業再開に伴いグロサリーストアの売り上げが反対に1.1%の減少となった。自動車ディーラーの売上高は低金利を利用して前年比8・7%の増加となった。郊外に引っ越しする労働者や夏の休暇をとるバケーショナーが車を購入することも自動車販売に貢献した可能性がある。

好調だった6月の住宅販売は家具、電気製品、キッチン用品などの販売にも大きく貢献した。

 ニューヨーク市のオフィス市場は、将来の不確実性により活動は一時停止、様子見の状態が続きリースや投資物件売買の活動は過去最低の記録に近づき、サブリーススペースは増加が目立つようになった。オフィスビルの場合、住宅市場と違いすぐには家賃に影響がでることはなく、今のところ家主はレントの値下げには踏み切っていない。

不動産投資は、第2四半期の米国におけるオフィスビル販売において2010年初頭の大不況の回復以来最低の110億ドルまで減少した。特にニューヨーク、ワシングトンDC, シアトルなど大都市において急激な後退がみられる。今後の商業不動産投資は、大都市での投資物件を避けて郊外の物件に需要が高まると分析さる。ただ9・11 のようにニューヨーク離れが一時的なものとなるか、あるいは長期に渡るかはまだ全米の多くの州で感染拡大が続くなかワクチンもできていない現時点では予想不可能であり、将来の経済回復の見込みのタイムラインも不透明である。

 

Masubuchi Realty LLC
社長 増渕 敬子
keiko@masubuchirealty.com

《企業概況ニュース》2020年 8月号掲載