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オフィスが生まれ変わる!? 新しい試み
「メトロバーブ(Metroburb)」
《リロ・リダック》

第5回
オフィスが生まれ変わる!? 新しい試み
「メトロバーブ(Metroburb)」
《リロ・リダック》

 新型コロナウイルスの感染拡大によるリモートワークの拡大やオンラインショッピングの加速を受けて、オフィスや店舗を縮小または閉鎖する企業が増えています。こうした動きは、周辺のレストランやストアなど地元経済へも影響があるので、オフィスや店舗の再利用や活性化が喫緊の課題として全米で議論されています。

 こうした中、「メトロバーブ」と呼ばれる画期的な「ダウンタウン」建設が全米の注目を集めています。「メトロバーブ」とは、郊外(suburb)に建設する近代的なダウンタウン(Metro)という意味が込められた造語です。テナントは一企業のみであった旧来型のオフィスから生まれ変わろうとしている新しい大きな試みで、オフィスパークの再活性化として、ひいては郊外の経済活性化として全米で応用できるモデルになるだろうと期待されています。

「メトロバーブ」の事例

 それでは、「メトロバーブ」を代表するニュージャージー州の事例をご紹介します。一つ目は成功例として全米で引き合いに出されるベル・ワークス(Bell Works)です。同州首都のトレントンから車で東に一時間ほど行った郊外のホルムデルにあります。こちらは以前、2百万平方フィートもあるベル・ラボラトリーズ(Bell Laboratories)のリサーチ施設でした。再開発された今ではオフィスや住宅はもちろん、レストランやストア、バスケット場やフィットネス、図書館や子供託児所などを兼ね備えた魅力的な「ダウンタウン」へと変貌を遂げました。仕事・生活・ショッピング・レジャーが揃う都会的で近代的な暮らしができる「メトロバーブ」が建設されました。

 続いて、大手製薬会社のホフマン・ラ・ロシュ(Hoffmann-La Roche)のオフィスキャンパスから変貌を遂げたON3です。こちらは、ニューアーク・リバティー国際空港から車で25分ほど北上したナットリーにあります。メディカルスクールやラルフローレンなどのアパレル、日系製薬会社のエーザイ、ホテルやレストラン、ストア、住宅などが集約された「メトロバーブ」が建設されました。

 こうした成功例をもとに、ある企業の跡地が「メトロバーブ」に生まれ変ろうとしているのが、倒産してしまったトイザらス(Toys “R” Us)本社です。193エーカーに上る同社のオフィスキャンパスは、ニューアーク・リバティー国際空港から車で45分ほど北上したのどかな郊外のウェインにあります。あるディベロッパーが2019年に1900万ドルで購入しましたものの、現在ほとんどテナントが見つかっていない状態です。コンサルティング会社のBRS(ニュージャージー州)が先日同社オフィスキャンパス周辺住民を中心に再開発についての調査を実施した結果、住宅やR&Dスペース、店舗、レストラン、そしてパフォーマンスホールなどの複合施設としての再利用されるのが最良だという結論に達しました。そして、多くの人々の最も関心を集めたのは、レジャーやレストラン、子どものアクティビティ、フェスティバル、そしてショッピングでした。郊外でも魅力的で便利な生活ができる「メトロバーブ」の誕生に期待が寄せられています。

メトロバーブ・テンプレート(Metburb Template)の応用

 ベル・ワークスにみる大型オフィスキャンパスの再開発モデルは「メトロバーブ・テンプレート」と呼ばれ、地元のニュージャージー州のみならず、全米で応用できると期待されています。ベル・ワークスの再開発を手掛けたインスパイアード・バイ・サマーセット・ディベロップメント(Inspired by Somerset Development、ニュージャージー州、以下インスパイアード)は地元の承認を得て、リースに乗り出すのに数年かかりましたが、最終的には数百件の住居やオフィススペース(120万平方フィート)、小売店(6万〜7万平方フィート)を集めた「メトロバーブ」へと生まれ変わりました。そして、全体の97%が貸出をしている状態です。

 またインスパイアードは「メトロバーブ・テンプレート」を応用して、中西部初の「メトロバーブ」をイリノイ州にも建設しました。同州ホフマン・エステート(Hoffman Estates)にある空きビルとなったAT&Tキャンパスは、オフィススペース(120万平方フィート)や会議室や倉庫(6万平方フィート)、レストランやストア(6万平方フィート)が集約されたベル・ワークス・シカゴランド(Bell Works Chicagoland)になりました。

「メトロバーブ・テンプレート」の条件

 インスパイアードのCEOで創設者でもあるザッカー氏によると、「メトロバーブ・テンプレート」はどんなケースにも当てはまるというわけではないようです。まず、建物は中央に吹き抜けがあり、その周りをストアやレストランが囲むような作りにする必要があります。また、毎日多くの人に出入りしてもらうために、メジャーな道路からのアクセスが良いことも必須です。そして、オフィスのみの再活用を超えて、仕事・生活・ショッピング・レジャーが揃う「メトロバーブ」という近代的な都会を作り出すことを念頭に置いておかないといけません。トイザらス跡地もどのような「メトロバーブ」が建設されるのか、新たな成功例となって全米のオフィスパークの再利用・活性化へのヒントをまた生み出すかが注目されています。

リロ・リダック

商業不動産部:山口 直樹
米国のオフィスに関するご相談・お問合せはリダック商業不動産まで
Commercial_US@redacinc.com

《企業概況ニュース》2022年 11月号掲載

 

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