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若年層へのアプローチをどう進めるか
《NHKコスモメディア・アメリカ》

〝dライブラリ〟の拡充がポイント
若年層へのアプローチをどう進めるか
《NHKコスモメディア・アメリカ》

NHKコスモメディア・アメリカ
https://www.nhkcosmomedia.com/

社長 兼 CEO
皆木 弘康 さん

 アメリカとカナダにおいて24時間日本語チャンネル「テレビジャパン」を放送するNHKコスモメディア・アメリカ。同社が4年前に始めたSVOD(サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド)サービス「dライブラリジャパン」の登録者数がコロナ禍に急増し、これからの時代に求められる配信を考える時期を迎えている。2022年7月に社長に就任した皆木弘康さんに、今後の展開などお聞きした。

最新の人気コンテンツをタイムリーに

 dライブラリとは、インターネットで日本のドラマや映画を視聴できるサービスです。コロナ禍で登録者が一気に増えたのですが、巣ごもり需要の他に、コンテンツが充実してきたことも一つの要因とみています。4年前の開始直後は、日本で話題になったドラマや映画を1、2年遅れで配信してきましたが、現在はできるだけ最新作品を購入するようにしています。例えば、日本で話題の人気ドラマが月曜日に放送されたら、その週のうちにdライブラリにもアップします。ワンクール終わった時点でdライブラリに全話が揃い、何度でも見返せるという具合です。もちろん昔の人気ドラマや映画も増やしており、2023年の正月以降には、角川映画の「セーラー服と機関銃」や「人間の証明」といった名作もラインナップ予定です。

 近年、ケーブルを切ってインターネットに変える〝コードカッティング〟の流れが、日本でもアメリカでも加速しています。特に、若い方々の家にはテレビがなく、動画はPCで観るという人も増えました。こうした層にも我々のコンテンツを楽しんでもらうには、もっと彼らにとって魅力的なコンテンツを揃えていくことが重要と考えています。テレビジャパンをしっかりと続けながら、デジタル発信やdライブラリとのバランスを取っていく。この見極め段階に差し掛かっているのです。

成長を遂げた韓国に、コンテンツを学ぶ

 以前、僕がソウル支局に駐在していた際、日本で「冬のソナタ」が大ブームとなりました。2003〜2004年頃のことです。夜10時台の番組で二桁視聴率という衝撃的な韓国ドラマでしたが、思えばその頃を境に、韓国発コンテンツの品質が一気に向上したと感じます。いまや、「愛の不時着」や「梨泰院クラス」といった世界的ヒットドラマが生まれ、韓国映画がアカデミー作品賞を受賞するほどです。その背景にはアメリカに250万人、中国にも250万人いる在外韓国人の存在があり、その国民5000万人の10分の1という大きな市場を無視できず、国外も意識した番組作りに努めた結果だと思います。対して北米の在留邦人は50万人と言われていますので、なかなか国外を意識したコンテンツ作りは難しく、韓国に比べて日本は出遅れました。ただ、潜在的な力は十分ありますので、韓国の辿った海外戦略を学ぶことが、今の日本には必要です。

ものごとの中にある、事実を描き出す

 僕は、報道番組プロデューサーとして、ドキュメンタリーやニュース分野のディレクターをやってきました。直近では「おはよう日本」という朝のニュース番組の部長を務めており、他にも「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」といった、取り分け国際ドキュメンタリーの分野中心に携わってきました。学生当時は、映画よりもテレビが新しいという風潮があり、映画のようなストックコンテンツよりも、生を取り扱うテレビ報道に魅力を感じたのです。中でも、僕が関わってきたのは、地道にデータの調査や取材を重ねて作る〝調査報道〟というジャンルで、ものごとの中にある事実を描くことにこだわってきました。

 例えば、長崎の原爆投下翌日の8月10日に撮影された115枚の写真に、アメリカ人映画監督がデジタル修復をかけて再現する姿を追った番組を、被爆50年節目のタイミングに放送したこともあります。太平洋戦争を扱ったアメリカの映画やドキュメンタリー番組のエンディングは、いつもキノコ雲が映されて終わりますが、その下で起きている様子をアメリカ人の多くは知りません。僕たちは115枚の写真に映し出された人々の“きのこ雲からの50年”を記録しました。時間をかけてじっくり調べるのは、お金も手間も掛かり大変な作業ですが、こうしたことに若い頃から取り組み、ある意味でテレビ価値向上の一助になってきたと自負しています。

満足感の残る、質の良いコンテンツを

 報道番組に関わってきたことも関係するのかもしれませんが、NHKコスモメディア・アメリカで扱うコンテンツ選定には、〝できるだけ質の良いものを〟という思いを持っています。視聴率が高いドラマ、観客を動員できた映画をそろえるべきだ、と考え方はそれぞれですが、そういった数字だけで判断するのではなく、質の良いコンテンツを見つけ出す。そのためにも、自分自身がたくさんの作品を観て、配給会社とコミュニケーションを取っていかなければなりませんし、相当な目利きにならなければいけません。それでも、観た後で学びがあったり、満足感の残るコンテンツを揃えたいねとスタッフたちと話しています。

 個人的には、現代史を含む歴史ドラマや戦争もの、例えば「ペンタゴン・ペーパーズ」や「ザ・シークレットマン」といったジャーナリズムを描いた映画が好みなのですが、日本では社会的・政治的メッセージが色濃い作品は生まれにくいのかもしれません。「新聞記者」というドラマは非常に面白いと感じましたが、同じように日本の歴史に埋もれた事実が、まだたくさんあります。これらを掘り起こす〝ノンフィクションの力〟を活かした番組作りも、今後の日本には必要なのかもしれません。

初めて日本語コンテンツを観る時の感動を

 昔から本当に映画やドラマが大好きで、日本でもネットフリックスU-NEXTなど3〜4社と契約してドラマや映画を満喫してきました。ただ、飛行機の機内映画で音が聞き取りにくかったり、小さな画面で詳細が見えなかったり、そもそも日本語字幕がなくて英語が聞き取れずに細かい所が理解できなかった時には本当にがっかりします。そのストーリーを初めて観る時の感動や驚き、ワクワク感を奪われたように感じてしまうのです。最近は、ネットフリックスやアマゾンでも日本語を含む各国字幕サービスが整備され、こうした場面に遭遇することは少なくなりましたが、NHKコスモメディア・アメリカでも、こうした、日本語コンテンツを初めて観る時の喜びや楽しみという所も大切にしながら、より良いものを提供していきたいと思っています。

《企業概況ニュース2023年新年特別号掲載》

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