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企業・雇用主のためのCOVID-19 対応に関する法的留意点(3)
〜労働力の変更に伴う記述基礎知識〜

第49回【リーガル塾:3分で学ぶ米国ビジネス法】
企業・雇用主のためのCOVID-19 対応に関する法的留意点(3)
〜労働力の変更に伴う記述基礎知識〜

 企業・雇用主のためのCOVID19対応に関する法的留意点に関しての記事の3回目として、今回は、様々な経費削減の一環として、労働力の変更を余儀なく検討している企業が知っておくべき基礎的な選択肢を説明する。企業にとって、試練の時を乗りこえる一つの手段として、この情報を役立てていただければ幸いである。

概要

 屋内退避命令が徐々に緩和されている州もあるが、企業の多くはCOVID-19の感染拡大で受けた打撃をどう乗り越え、いかにビジネスを前進させるかの課題に直面している。事業運営上の厳しい制限や、経費を削減するための最終手段として、労働力の変更を検討している企業は少なくない。以下にどのような選択肢があるか、カリフォルニア州を例として列挙する。

ノン・エグゼンプト従業員の労働時間削減

 雇用主は通常、ノン・エグゼンプト従業員の予定労働時間を削減できる。しかし、エグゼンプト従業員は、労働した週に対して一週間全体分の給与が支払われるため、少しでも労働した週の労働時間を削減しても、経費削減にはならない。

従業員給与の減給

 雇用主は、次の方法でノン・エグゼンプト従業員の給与の減給ができる。(a) 勤務時間を削減する、又は(b) 従業員の時給を下げる。実務上は、後者よりも前者の方が従業員は受け入れ易いと思料する。

 また、雇用主は、次の方法でエグゼンプト従業員の給与を減給できる。(a) 一週間以上の単位で、一時解雇を行う、又は (b) 従業員の給与を減額する。

従業員の一時解雇

 一時解雇とは、事業状況又は経済事情を理由とした従業員の臨時的な解雇である。雇用主は、状況が改善した暁には一時解雇を解消して、従業員に復職を求めるという見込みの元に、一時解雇した従業員を給与支払台帳に残しておく。雇用主は、全従業員又は一部の従業員を、一定期間又は無期限に一時解雇することができる。

加州ワーク・シェアリング・プログラム California Work Sharing Program: 従業員完全解雇に代わる方法

 カリフォルニア州は、ワーク・シェアリング失業保険プログラム(California Work Sharing Program: WSP)を設け、ノン・エグゼンプト従業員を完全解雇する必要性の減少又は回避する選択肢を雇用主に与えている。従業員の完全解雇に代えて、従業員の労働時間と給与を削減することを検討している雇用主は、WSPに申請することができる可能性がある。WSPは、従業員に失業保険を支給することで、削減された労働時間と給与を補填する。WSPにより、雇用主は教育した従業員を維持しつつ、現状の雇用経費を削減する(加えて、新規採用や解雇の作業負担を減らす)ことができるため、雇用主にとっては有益なシステムである。

従業員の完全解雇

 従業員の完全解雇が必要とされる場合には、その理由がレイオフであれ、労働力削減であれ、雇用主は、弁護士に相談して、解雇に伴うリスクの分析、完全解雇についてのビジネス上の決定理由と判断基準の文書化などを行い、従業員解雇計画の準備・実施を進めることが重要である。

 この記事が米国で事業展開をしている日系企業と日本本社にとって、現地管理職が抱えている法的な課題をより理解し、運営上・雇用上のリスクを抑えるための意思決定において戦略的判断材料となれば幸いである。労働力の変更や他の経費削減方法を分析及び実施するにあたっての特定のアドバイスは、専門家にご相談することを勧める。

  *ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。 Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group   萬 タシャ 弁護士 Yorozu Law Group 235 Montgomery Street, Suite 300 San Francisco, CA 94104 Tel: 415.707.5000 info@yorozulaw.com www.yorozulaw.com  

略歴 萬(よろず)タシャ Yorozu Law Group 代表弁護士 オレゴン生まれ関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日米の商慣習や法制度等の違いを踏まえた法務・税対策両面からの戦略的アドバイスを提供する。日系企業の外部顧問を多数務めるほか、北加日本商工会議所と米日カウンシルの常任理事等を務める。家族とトライアスロンに参加するのが趣味。

《企業概況ニュース》2020年 7月号掲載