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運転手は従業員、ギグワーカーの権利保証
~カリフォルニア州で新たな法律が施行~

第52回【リーガル塾:3分で学ぶ米国ビジネス法】
運転手は従業員、ギグワーカーの権利保証
~カリフォルニア州で新たな法律が施行~

 2020年9月4日、カリフォルニア州のニューサム知事は、独立請負人の条件を示す州法(以下、「AB5」)の修正条項(以下、「AB2257」)に署名し、即日施行された。AB2257は、事業主が労働者を独立請負人として扱うための3つの条件を定めたAB5の条件は変更せず、対象外となる職業をさらに拡大している。今回は、新しく施行されたAB2257について詳しく見ていこう。

AB5の背景とその概要

 カリフォルニア州最高裁判所が2018年、「労働者が事業主の本業と同様のサービスを提供する場合は、通常、従業員と見なされる」と判断したことに伴い、2020年1月に施行されたAB5は、事業主が労働者を独立請負人として扱うための3つの条件を定めている。その条件とは、労働者が(A)業務に関する契約または業務の遂行中に、事業主の指揮命令下にないこと、(B)事業主の通常業務の範囲外の業務を行うこと、(C)従事している業務と同じ性質の独立した商売、職業、事業に従事していることである(これらは、「ABCテスト」と呼ばれている)。AB5は、医師、弁護士、会計士、建築家、エンジニア、私立探偵、証券仲介人、投資アドバイザー、グラフィックデザイナー、マーケター、人事コンサルタント、トラベルエージェント、フリーランスライターや写真家などの職業はAB5の対象外としており、独立請負人として区分できるとしている。

今回施行されたAB2257の概要

 AB2257でAB5の対象外となり、追加で独立請負人として区分できるのは以下の通りである。

・B to B契約 請負業者が個人事業主、パートナーシップ、会社として法人向けサービスを提供する場合。これは公的機関または準公営企業が請負業者と契約する場合にも適用される。

・単発のB to B契約 業務に対する指揮命令を行わない、支払金額を明記した書面による契約を交わす、各事業者が事業所を維持するといった基準に合致し、単発で業務を提供する目的で、個人が別の個人と契約する場合。

・紹介エージェント コンサルティング、青少年スポーツのコーチ、キャディ、結婚式やイベント企画サービス、通訳などの、個人サービスをクライアントに紹介する事業。

・専門サービス コンテンツ提供者、アドバイザー、プロデューサー、ナレーター、地図製作者、 造園家、不動産鑑定士などの職業。

・音楽業界とパフォーマー 作詞家、作曲家、編曲者、音楽エンジニア、ミキサー、ミュージシャン、ボーカリスト、広報担当者などの職業。

 一方で、ライドシェアや配達業の運転手やその他のギグ・エコノミー業者、フランチャイジング、運送業者やトラック運転手、映画やテレビ業界の職業などはAB2257でも対象外となっていない。AB2257が自社のビジネスにどのように影響するかを理解することが最も重要である。

カリフォルニア州上級裁判所の判断

 2020年8月10日、運転手らの雇用形態の見直しを求める州政府が起こした訴訟について、カリフォルニア州上級裁判所は、UberやLyftの運転手はAB5に当てはまらないと判断し、両社に運転手を従業員として扱うよう求める仮命令を出した。Lyftは独立請負人から従業員への雇用形態の変更について「ビジネスモデル全体の見直しが必要」として、8月20日深夜からライドシェアサービスの一時停止に踏み切る考えを表明していたが、効力発生直前に上級裁が仮命令の猶予期間を延ばしたことで、土壇場で事業停止を回避した。

今後の動き

 AB2257で対象外とならなかった業界は、2021─2022年の議会に向けて今後、ロビー活動を行っていくだろう。UberやLyft、Door Dashといった輸送プラットフォームを提供する会社は、運転手に適用される労働者の新たな分類を作る投票イニシアチブ(Proposition 22)を支持している。AB5が1994年に施行された連邦航空局法に抵触しているとして、トラック業界は既に訴訟を提起しており、現在係争中及び今後提起される訴訟が、AB2257の適用範囲に影響を与える可能性がある。アメリカの法律は、適用しながら姿形を変えていくものであり、今後の動向を注視していく必要がある。

  *ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。 Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group   萬 タシャ 弁護士 Yorozu Law Group 235 Montgomery Street, Suite 300 San Francisco, CA 94104 Tel: 415.707.5000 info@yorozulaw.com www.yorozulaw.com

略歴 萬(よろず)タシャ Yorozu Law Group 代表弁護士 オレゴン生まれ関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日米の商慣習や法制度等の違いを踏まえた法務・税対策両面からの戦略的アドバイスを提供する。日系企業の外部顧問を多数務めるほか、北加日本商工会議所と米日カウンシルの常任理事等を務める。家族とトライアスロンに参加するのが趣味。

《企業概況ニュース》2020年 10月号掲載