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2021年の米国、世界、そして日本

【企業の論理、力の論理 グローバリゼーションのルール】
2021年の米国、世界、そして日本

 2020年は世界が、とりわけ米国が暗いニュースで溢れていたが、最後に来て安定の兆しを見せて終わった。ワクチン開発の成功と接種開始、そしてジョー・バイデンの大統領選勝利だ。ワクチンは、時間はかかるだろうが私たちを先行きが見えない状況から解放してくれるだろうし、バイデン氏は米国と世界に安定と予測可能性を取り戻してくれることが期待されている。

 昨年米国にこれほど混乱をもたらしたのは、全く未知の新型コロナウィルスの席巻だけではない。リーダーシップの欠如もそれに拍車をかけた。トランプ大統領は今までの大統領と違うことを売りにしているために、科学を信奉する既存のエリートの言うことを否定し、独自のアプローチを取り、コロナ対応で国内を分断した。

 そのトランプ氏は1月20日をもって大統領の地位を去る。今後コロナワクチンの接種も拡大するだろう。米国は、日本は、そして世界は、コロナ以前の状態に戻れるのだろうか。

 いくつかのことは元に戻り、他のいくつかは戻らない。米国において以前に戻るものは、専門家による予測可能な国内、外交政策立案と実施。中国を諸悪の根源とせず、協力も妥協も可能な競争相手とすること。メディアが大統領の言動以外のことにもっと注意を払うこと。

 戻らないものは、米国が今までのように世界の諸問題の救済者、頼り甲斐のあるリーダーであるのをやめることだ。トランプ氏とコロナ、そしてこの組み合わせが顕在化させた、米国社会に根付く構造的な人種差別。この3つが、米国内の様々な問題解決が非常に困難なものであることを明らかにしたからだ。

 米国は今後も世界の問題に関与はするし、おそらく中心的な存在ではあり続けるだろう。しかし、強力なリーダーシップを取ることはないだろう。代わりに他国との協力による解決を目指す。そうすることでバイデン政権は、国内問題にかなり真剣に集中する。

 バイデン氏は国家安全保障補佐官にジェイク・サリバン氏を指名した。彼はオバマ政権下で外交政策の中核を担ってきた人物だ。彼はトランプ政権になってから在野で発言してきたが、彼の主張は民主党政権で外交や安全保障に関わってきたエリートとほぼ同じだ。彼の考えが今後のバイデン外交を主導しそうだ。

 そのサリバン氏が一番重視しているのは、米国は国内的な諸問題点を解決することにまず集中すべきだ、という点だ。彼は中国との競争に関しても、中国に立ち向かう以前にまず米国民がより幸せになるような米国にするのが先決だ、と考える。なぜなら、米国の国力の中核は、他国が米国をモデルとみなして喜んで米国を支持するところにあるからだ。トランプ政権の4年間はこうした米国の魅力を枯渇させ、コロナ対応の失敗は一層米国と自由民主主義の輝きを失わさせ、逆に対応に成功した中国の権威主義的政治体制に正当性を与えるようになった、とサリバン氏は考える。

 サリバン氏とバイデン氏は、その外交の中核に“ミドルクラスのためになる外交”を置く。つまり、ある外交問題を解決するのに、その政策が米国の一般の人にとって良いものであるかどうか――軍部、ビッグビジネス、エリートではなく――が、これからの外交政策の判断基準となる。これは、トランプ氏の反既得権益/エリート的なアピールが支持を得ていたことの反映だ。

 この新しい米国の姿勢は、日本にどう影響するだろうか。今後米国は、どういったアジアが米国の国民にとって望ましいのかを考える、ということだ。となると、米国が切実な自国のこととしてアジアや中国での問題に取り組むことはないだろう。なぜなら、多くのアメリカ人はアジアにあまり関心がないからだ。では、日本はどうしたらいいのか。次回のコラムでこの点を考えてみたい。

 

佐々木文子
Distance Education for Africa www.deafrica.org
ProActiveNY www.proactiveny.org

《企業概況ニュース》2021年 01月号掲載