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米国国防権限法と国防総省のリストが与える影響
~自社のサプライチェーンを見直そう~

第54回【リーガル塾:3分で学ぶ米国ビジネス法】
米国国防権限法と国防総省のリストが与える影響
~自社のサプライチェーンを見直そう~

 現在の中国共産党に関連する政治的、地理的問題を背景として、米国政府は中国企業に対する規制を強めており、これは日本企業にも大きな影響を与える可能性がある。今回は、国防権限法1999と国防権限法2019について概要を説明する。

国防権限法1999リストの概要

 2020年6月24日、米国国防総省は、1998年10月17日に制定された1999年国防権限法(National Defense Authorization Act 1999、以下「国防権限法1999」)の第1237条(b)に従い、中華人民共和国(以下「中国」)に本社を置き、直接的または間接的に米国で事業を行っていると国防総省が判断した中国共産軍企業(Communist Chinese Military Companies、以下「CCMC」)20社(AVIC, CASC, CASIC, CETC, CSGC, CSIC, CSSC, Norinco Group, Hikvision, Huawei, Inspur Group, Aero Engine Corporation of China, CRCC, CRRC Corp, Panda Electronics Group, Sugon, China Mobile Communications Group, China General Nuclear Power Corp, China National Nuclear Corp, China Telecommunications Corp)のリストを公表した。

 続いて8月28日、国防総省は、追加で11社(CCCC, CALT, China Spacesat, China United Network Communications Group Co Ltd, CEC, CNCEC, ChemChina, Sinochem Group Co Ltd, China State Construction Group Co., Ltd, China Three Gorges Corporation Limited, CNECC)を発表した。この法律では、司法省(DOJ)、連邦捜査局(FBI)、および諜報機関(Intelligence Community)との協議に基づく初回リストの公開期日は 1999年1月中旬であっ たが、今回初めての発表となった。

 国防総省のCCMCリスト自体は、制裁のためのリストではない。国防権限法1999第1237条(a)に基づき、大統領は、国際緊急経済権限法により、CCMCリスト企業に対して制裁を課す権限があると謳われているが、絶対的な権限ではない。現在のところ、米国政府が制裁を実際に課すかどうか、または制裁の種類や範囲についての明確な発表はないが、制裁措置は、製品・技術の輸出に影響を与える可能性があり、米国人・米国企業にリスト企業と取引することを禁止したり、一定種類の民間・軍事製品をリスト企業に販売することを禁止したりする可能性があるため、今後の動向を注視する必要がある。

国防権限法2019リストの概要

 2018年 8月 13日に成立した2019年国防権限法(National Defense Authorization Act 2019、以下「国防権限法2019」)第889条は、米国連邦政府機関の調達禁止措置を定めている。2019年8月13日に施行された第一段は、連邦政府機関がサーバー、ルーター、監視カメラ等の通信・監視関連の機器やサービス(以下「排除対象機器・サービス」)を調達する場合に、その中にHuawei, ZTE, Hytera, Hikvision, Dahua(以下「中国企業5社」)製の製品、部品、サービスなどが含まれている場合には調達を禁止している。2020年8月13日に施行された第二段は、中国企業5社製の排除対象機器・サービスを使用している企業の製品やサービスを連邦政府機関が調達することを禁止している。これは、調達する製品が通信・監視関連のものに限らず、職員の制服や自動車など、どのような製品やサービスであっても、その企業と連邦政府機関との契約が禁止されるというものである。これに伴い、中国企業5社と取引をしている企業は抜本的なビジネスモデルの変更を迫られている。

考察

 国防権限法1999に基づき発表されたCCMCリストと、国防権限法2019の中国企業5社は別の法律に基づいているため、CCMCリストに掲載された企業が米国連邦政府機関との取引を直ちに禁止されるというものではないが、中国企業5社と同様に今後取引を禁止されることになるかどうか懸念されており、今後の動向を注視していく必要がある。サプライチェーンの中で、自社がどこに位置するかを把握し、CCMCリストに掲載された企業や中国企業5社と直接的、間接的、その他ライセンス取引など、ビジネス関係があるのであれば、専門家にご相談されることをお勧めする。

  *ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。 Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group   萬 タシャ 弁護士 Yorozu Law Group 235 Montgomery Street, Suite 300 San Francisco, CA 94104 Tel: 415.707.5000 info@yorozulaw.com www.yorozulaw.com

略歴 萬(よろず)タシャ Yorozu Law Group 代表弁護士 オレゴン生まれ関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日米の商慣習や法制度等の違いを踏まえた法務・税対策両面からの戦略的アドバイスを提供する。日系企業の外部顧問を多数務めるほか、北加日本商工会議所と米日カウンシルの常任理事等を務める。家族とトライアスロンに参加するのが趣味。

《企業概況ニュース》2020年 12月号掲載