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バイデン新政権と日本

【企業の論理、力の論理 グローバリゼーションのルール】
バイデン新政権と日本

 前回のコラムで、次回はバイデン政権の外交政策、とりわけそのアジア政策がどう日本に影響を与え、日本はそれにどう対応したら日本のために一番いいのかを考えるとして終わった。それからの間に、米国を揺さぶる事件が起きた。暴徒による米国議会議事堂襲撃事件だ。この事件を踏まえて、日本はこれからどう米中と付き合っていくべきかを考えてみたい。

 この議会議事堂襲撃事件が明らかにしたことは、今の社会状況を放っておくとさらに政治社会分断が深化し、議論し選挙/ルールに沿って物事を決めるという民主主義の手続きが歪曲されているとして、無視、直接行動を起こす人々が増えるということだ。

 米国にはそうした分断深化を食い止めるに十分な叡智と資源、時間がある。とはいえ、この二極化はあまりに深い。

 最近、米国の世帯のうちの40%は貯金が300ドル以下、というニュースに驚愕した。ほぼ半分の国民が全くの日暮らしということだ。一方で、一部の企業の資産価値はコロナ禍で一層増え、それらの経営者、従業員もその恩恵を得ている。

 学者の多くは、この米国の社会的分断を、クリントン政権あたりから本格的に始まったグローバリゼーションへの対応の結果とみる。つまり、バイデンが支えたオバマ政権もこの分断に責任があるわけだ。

 バイデン政権は、こうした米国の社会状況の改善にほぼ全ての国力を注入するだろう。というのは、中国はこの米国を見て、中国の優越と資本主義の重大な欠点を他国に吹聴しているからだ。はっきり言って、米国は中国と競争している暇はない。中国と競うにはまず国内を立て直す。それがバイデン政権の対中政策の基本中の基本になるだろう。

 しかも、政治体制としての民主主義は、明らかに中共独裁制より人々の支持を受けるだろう。となると、ソ連の全体主義が自滅し米国が勝利した冷戦のように、米国もその民主主義を魅力的なものとして維持し続けることで、長期的には中国に負けないだろう。

 米国は、米中競争を煽るようなことをしないで、国内問題に集中するだろう。そんな競争は膨大なエネルギーと時間を消費するからだ。今、多くの米国民が中国に批判的だが、それはトランプ政権が煽動したからである。バイデン氏は同盟重視を強調するが、それは言い方を変えれば、国外の問題は当事国にお任せする、ということだ。

 バイデン政権は日本に対して、中国にインド太平洋地域での主導権を取られないように、この地域への日本の一層のリーダーシップとコミットメントを要求すると思われる。米国は、例えば尖閣諸島へのコミットメントは明確化するが、日本の負担をさらに要求するだろう。

 米国は戻ってきた、とバイデン氏は高らかに宣言した。が、実際には、リーダーというよりは同盟国間のコーディネート役として戻ってきたのであり、地域ごとの問題に関与はするが、前に出て取り仕切るようなことはないと思われる。米国民も、もう米国の世界における強いリーダーシップを求めてはいないだろう。

 私は、これは日本にとってチャンスだと思う。米中の対立回避と、米中両国との協力関係が自国の安定と発展に不可欠な日本にとって、アジアにおける米中関係を取り持つイニシアティブをとれるならば、日本は、自国にとって最善のアジア情勢を作り出す機会を与えられたようなものだからだ。

 トランプ政権は、日本が米中間のバランスを取ることを許さなかった。政権が変わった今、日本が国益を増進できるかどうかは、このチャンスをうまく利用できるかにかかっている。

 

佐々木文子
Distance Education for Africa www.deafrica.org
ProActiveNY www.proactiveny.org

《企業概況ニュース》2021年 03月号掲載