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人々を笑顔にさせる この仕事が自分の天職

《桜ガーデンズ・ロサンゼルス 》日系シニアのための楽園を守りたい
人々を笑顔にさせる この仕事が自分の天職

桜ガーデンズ・ロサンゼルス    
エグゼクティブ・ディレクター  ダニエル 小西 さん           
https://www.pacificaseniorliving.com/ca/los-angeles/sakura-gardens/

 アメリカにいながら日本を感じる老後を過ごしたい。そんな想いを叶える場所がここロサンゼルスにある。桜ガーデンズ・ロサンゼルス───用意された127ユニットには現在、日系人や日本人、在日韓国人など118人が入居し、平均年齢86歳のシニアたちが暮らしている。館内スタッフは日本語を話し、在籍する9人の看護婦中6人も日本語スピーカーだ。言葉だけではない。日本のきめ細かいサービスはもちろん、すき焼き、揚げ出し豆腐、チキン竜田揚げにちらし寿司などの和食が用意され、日本語放送に日本文化アクティビティも充実している。入居者はコーラス、カラオケ、民謡三味線、書道、麻雀、生花などのクラスを満喫し、節分、子供の日、お盆など日本のカルチャーを身近に感じながら過ごせるのだ。

 もともと、高齢化が進む日系一世の老後を憂慮して考えられたプランで、1969年に非営利団体「敬老シニアヘルスケア(以後:敬老)」が、ロサンゼルスのリンカーンハイツに土地を購入し全米初の日本語ケア老人ホームが誕生した。その後、活動の幅や内容を広げながら、50年以上にわたって長期介護施設として日系社会のために重要な役割を担ってきた。桜ガーデンズはその4施設の中の一つとして、介護の必要のないシニア層向け引退者ホームとして運営されてきた。敬老の精神や質の高いケアは注目を浴び、日本からも多くの団体が視察に訪れる。

 しかし、2016年に敬老がこの4施設をパシフィカ社に売却したことで歪みが生じた。営利組織の手に渡ることで、有能なバイリンガルスタッフの雇用不安や日本文化をベースとしたケアの存続が危ぶまれ、その他にも入居費の高騰、住環境への悪影響などと不安はつのる。売却から5年間、2021年2月まではこれまで通りの運営が確約されてきたが、以降のプランについては何も明らかにされていない。この問題の着地点を、ダニエルさんを始めとするスタッフ、入居者だけでなく、日系コミュニティに関わる人たちが皆、固唾を飲んで見守っている。

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 ダニエルさんは日系二世としてロサンゼルスで生まれた。小さい頃から人を笑顔にすることが好きで、そんな仕事に就きたいと漠然と考えた。カリフォルニア大学ではソシオロジー(社会学)を専攻し、特にジェロントロジー(老年学)に興味を持った。大学時代に訪れたシニアハウスで居住者のケアをするうちに、一対一で人生に向き合うソーシャルワーカーの仕事が、自分の天職だと気付いた。桜ガーデンズに関わるようになって8年。今はエグゼクティブ・ディレクターとして桜ガーデンズ全体を見る立場となったが、入居者たちをもっと笑顔にしたいというその時の気持ちは、今でも変わらないままだ。

 「新型コロナへの不安もありますが、このコミュニティが2月以降どうなるのか。これが、今1番の関心ごとです。多くの人が未来を憂いている状態ですが、僕が今できるのは居住者の不安を減らすこと。ここにある鯉ポンドやゲートボールパーク、ガーデンなども無くなってしまうかもしれない。それでも、20年、30年先へ繋げるために今できることを、声を揚げて主張していかないといけないと感じています」。

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 ダニエルさんには、守るべき笑顔が他にもある。家で待つ宮崎出身の奥さんと2人の娘たちが、日本語での家族団欒を楽しみにしている。そこでもきっと、家族をさらにハッピーにさせるためのアイデアを、ダニエルさんは一生懸命に考えているのだろう。

  《企業概況ニュース》2021年 01月号掲載