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【米国人事労務管理 最前線】 「At-will Employment」と「差別禁止」

COVID-19の影響によって国家非常事態が宣言され、各地で外出制限やそれに類する行政命令が出されてから約3か月間が経ちます。この期間、事業を継続することが極めて困難になったために、人員整理を含む何らかの雇用対応を余儀なくされた企業もあったのではないかと思いますし、事業を継続できたとしても従業員をオフィス出社から暫定的に在宅勤務に切り替えた企業も多いと思います。また、各地で段階的にReopening(経済活動・事業活動・オフィス等の再開)されてきてはいるものの、感染に対する恐怖・不安や第二波への懸念、ソーシャル・ディスタンシングの継続を含む各種感染拡大対策等による事業活動への制限もあり、急激な景気回復は見込みにくいとの予測等もあることから、今後、何らかの雇用対応等を検討・実行せざるをえない企業が出てくるかもしれませんし、従業員を暫定的な在宅勤務からオフィス出社に戻そうとされているかもしれません。

ご存知の方も多いと思いますが、米国では、差別的事由による(Protected Groups(保護されるグループ)の特色を基にした)雇用上の決定は禁止されています。 そのため、雇用上の何らかのアクションを起こす際には細心の注意を払って進めるべきであり、難しいと感じる方は多いと思います。 一方で、米国の映画やドラマを見ていると、いとも簡単に従業員を解雇しているようなシーンが出てくるため、その関係が分かりにくいと思われる方も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は米国における人事労務管理の基本に立ち返り、「At-will Employment」と「差別禁止」との関係について簡単に解説いたします。

At-will Employment
米国でマネジメントをしていれば聞いたことがないという方はいないはずです。 これは米国において雇用関係を成り立たせる際の一つの考え方であり、雇用関係が雇用者と被雇用者の任意(自由意志)に基づいて成立しているとするものです。 At-will Employmentは、(いくつかの例外はあるものの)基本的には「いつでも、理由の有無に拘わらず、事前通告の有無に拘わらず、雇用者側からも被雇用者側からも雇用関係を解消できる」と定義されています。 つまり、この定義に従えば、従業員が「本日付で退職します!」と言えたり、会社側が「君は本日付で解雇だ!」と言えてしまいます。 そこで特に会社側を代表するマネジメントの方々から次に出てくる疑問が、「本当に“理由の有無に拘わらず”会社側が従業員を解雇できるのだろうか?」「それではなぜ米国では解雇に関連する訴訟が多くあるのか?」という点です。

差別禁止
“理由の有無に拘わらず”、例えばマネジメントの好き嫌いだけで従業員を解雇することが法令以前の問題であることは言うまでもありませんが、米国には、雇用上の決定にあたって従業員に対して差別的な取り扱いを禁止する様々な法令が存在します(この“雇用上の決定”にはもちろん”解雇“も含まれます)。 ここで混乱してしまうのが、前記のAt-will Employmentと差別禁止法との関係です。
現在、Black Lives Matter運動が全米各地で起こっており、その関連で公民権運動についても取り上げられる機会が多くなっています。 公民権運動を先導したキング牧師が有名な「I have a dream」スピーチをしたのは1963年ですが、その後の1964年に公民権法が制定・施行されました。 その中で「Protected Groups(保護されるグループ=それらの特色に基づいて差別してはいけないとされるグループ)」として人種、肌の色、宗教、出身国、性別が明記され、その後、様々な法令で障害、市民権、軍役、年齢、遺伝子情報等にまで拡大しています。 つまり逆に言えば、公民権法以前は雇用上の決定における差別は公然と行なわれていたわけであり、At-will Employmentという考えができた後に、様々な差別禁止法が成立してきているわけです。言い換えると、“理由の有無に拘わらず”雇用上の決定はできないわけではないが、それが差別的事由であったと証明されると、差別禁止法違反になってしまう可能性があるということです。

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三ツ木良太
HRM Partners, Inc. President and COO

《企業概況ニュース》2020年 7月号掲載