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第6回 米英豪の新たな安全保障の枠組みとフランスの反発

【クロスロード : 世界と日本】
第6回 米英豪の新たな安全保障の枠組みとフランスの反発

 9月15日、米英豪の首脳は、三か国の新たな安全保障の枠組みである「AUKUS(オーカス)」に合意したことを発表した。AUKUSは相互の防衛能力の強化を目的とし、情報共有や技術協力、産業基盤協力など広がりを持つが、具体的な取り組みとして豪海軍の原子力潜水艦の獲得の支援が含まれている。

 豪州は、もともと、通常動力型潜水艦12隻をフランスのナバル(Naval)グループから調達するという契約を2016年に結んでいた。当時日本も三菱重工等が建造する「そうりゅう型」潜水艦の輸出を狙ったがフランスが競り勝った。しかし、その後、進捗が遅れ、想定金額も大幅にあがり、プロジェクトは困難な状況に陥っていた。

 フランス側と事前の調整なく発表された今回の決定にフランスは強く反発。ルドリアン外務大臣とパルリー国防大臣は即座に声明を出し、今回の決定を仏豪協力の理念に反するとし、「フランスという欧州の同盟国・パートナー国をオーストラリアと構築するパートナーシップからはずすという米国の選択には一貫性が欠如しており、フランスは遺憾に思う」、「欧州の戦略的自律性を追求する必要性がさらに高まった」と表明。さらに、フランスは米国と豪州から大使を召還した。

 フランスはニューカレドニアなどの領土を有する太平洋国家で、豪州の隣国だ。1960、70年代はフランスによる南太平洋での核実験、また、1980年代はニューカレドニアの独立運動などもあり、仏豪関係は必ずしも良好ではなかったが、その後、両国の努力と、また中国の拡張的な動きもあり、近年両国関係は強化されつつあった。2021年8月31日は、仏豪で初の外務・防衛担当閣僚協議(2+2)を開催、両国のさらなる関係強化を目指していた。

 フランスの怒りの理由には、商業的機会の損失もあるが、プライドが傷つけられたという思いも大きいだろう。米国による原子力潜水艦技術の提供は、1958年に英国に対して実施されたのみで、極めて異例の対応だ。それだけに米英豪は情報管理を徹底し、豪州で15日の朝に緊急閣議を実施した際にも多くの閣僚は何が議論されるかさえ知らなかったという。フランスへの正式な連絡は、発表の数時間前に行われた模様で、インド太平洋への関与を強める意思を持っていたのに「軽んじられた」ことがフランスには許せなかった。

 バイデン政権は、国際ルールに反する中国の現状変更的な動きに対して、同盟国・同志国で協調しながら対応することを目指している。AUKUSもこうした協調の一環だが、情報管理を徹底したが故に、他の同盟国であるフランスとの関係が悪化してしまった。フランスはトランプ政権時代の米国の不安定で信頼を欠く対外政策の影響もあり、欧州の「戦略的自律性」が大切だという思想を持っている。

 今回の件で、「戦略的自律性」が離米・反米の色彩を強めれば、権威主義国家の国際ルールに反する動きに民主主義国が協調して対抗するという戦略にはマイナスとなる。米国は、逆切れせずに辛抱強くフランスとの関係を管理する必要がある。また、フランスも、中国の風圧を前線で受ける豪州の厳しい安全保障環境への配慮が必要であろう。

(2021年9月21日、記)

大矢 伸
一般財団法人 アジア・パシフィック・イニシアティブ
上席研究員

《企業概況ニュース》2021年 10月号掲載

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