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第7回 鉄鋼アルミ関税とインド太平洋経済枠組み

【クロスロード : 世界と日本】
第7回 鉄鋼アルミ関税とインド太平洋経済枠組み

 トランプ前大統領は2018年4月に、通商拡大法232条に基づき、安全保障上の脅威を理由に鉄鋼とアルミの輸入にそれぞれ25%と10%の追加関税を課した。日本やEUなどの同盟国も含めて「安全保障」を理由に関税を課したことへの批判は強く、バイデン政権成立時に早期の撤廃が期待されたが、これまで継続してきた。

 10月31日、米国とEUは232条に基づく追加関税を「関税割当」に置き換えることで合意したと発表。関税割当は、一定の輸入量までは無税、超過分にのみ高い関税を課す仕組みで、無税となる輸入量が大きければ、追加関税撤廃と同等の効果を持つ。

 米EUの合意は、関税割当に加えて、「過剰生産能力」と「脱炭素」に関する協働も含まれている。狙いは中国だ。中国は世界の鉄鋼の50%以上を生産する。政府支援を受けた過剰な生産能力から生じる輸出圧力が、海外の鉄鋼会社を圧迫しているとの国際的批判は強い。米国は、EU、さらに他の同志国とも協力し、中国の過剰生産能力問題に対応したいと考えている。

 脱炭素に関しては、EUは、炭素集約度の高い鉄鋼等の域内輸入に関税をかける「炭素国境調整措置」の素案を既に発表している。国内措置を導入していない米国は、EUに対して炭素国境調整措置の導入に関して十分協議を行うように求めていたが、232条関税見直しを奇貨とし、鉄鋼に関しては、中国からの炭素集約度の高い鉄鋼の輸入につきEUとも協力して市場アクセス制限を検討するということだ。米国とEUは、過剰生産能力と脱炭素の観点で共通の枠組み(アレンジメント)の策定を目指している。

 日本はどう対応すべきか。鉄鋼・アルミ関税に関しては、11月16日に来日した米国レモンド商務長官、USTR(米通商代表部)タイ代表と日本側でも議論が行われたと思われる。「関税割当」は管理貿易的手法であり、また、日本からの輸入を安全保障上の脅威とみなすという問題は残り、良い解決法ではない。理想的には、232条関税の完全撤廃を目指すべきであろう。外交的妥協が必要な場合には、あくまで関税割当は暫定的措置と明確にしておく必要がある。

 他方、過剰生産能力、脱炭素の観点でのアレンジメント等の形成には、わが国も積極的に議論に参加してルール形成に関与することが重要であろう。ルール形成の観点では、中国がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への参加を申請する中、米国の復帰も期待されるが、米側の反応は否定的なのは残念だ。米側は代わりに米議会での批准が不要な「インド太平洋経済枠組み」というアイデアの検討を始めている。まだ初期段階で詳細の策定は今後だが、サプライチェーン強靭化、インフラ投資、デジタル・エコノミー、技術標準、イノベーション協力などと並び、中国を念頭に非市場経済的措置への対応も含まれる可能性がある。

 日米間では今般、外務省、経産省、米USTRによる「貿易パートナーシップ」、経産省と米商務省による「日米商務産業パートナーシップ(JUCIP)」なども設置されたようだ。今年4月には「日米競争力・強靭性(コア)パートナーシップ」も立ち上げられており、相互に調整しつつ議論を深めると共に、「インド太平洋経済枠組み」の議論にも初期から関与することが重要であろう。

(2021年11月18日、記)

大矢 伸
一般財団法人 アジア・パシフィック・イニシアティブ
上席研究員

《企業概況ニュース》2021年 12月号掲載

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