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香港と日本の立場

【企業の論理、力の論理 グローバリゼーションのルール】
香港と日本の立場

 「拘束中に〝不協和音〟という(欅坂46の)日本の歌の歌詞がずっと頭に浮かんでいました」。香港の民主化運動の先頭に立つアグネス・チョウさんが、先日保釈された直後、日本語でのインタビューにこう答えた。彼女は、日本に対する愛着を披露するとともに、香港に注目し続けるよう訴えた。

 チョウさんが拘束されたのは、中国共産党が国家安全法を導入し、香港に認められていた政治的権利と司法の独立が大幅に制限されたからだ。この法律により、香港の自由と民主主義が、さらに危険にさらされている。

 今回のコラムでは、日本は政府として彼女の訴えにどう対応すべきかを考えてみたい。彼女への抑圧と彼女の声を知った日本人は皆、彼女と香港の民主主義を守らなければならない、中国共産党は抑圧的で暴力的だ、と思っただろう。世界中の人がそう思ったはずだ。その代表が、米国のポンペオ国務長官だ。彼はこの法律の施行に猛烈に反対し「自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう」と訴え、共産党政権自体への反対を明示した。さらに「我々とともに立ち上がる勇気がない国もある」と、日本を含む中国への態度を保留している国々を非難した。

 日本でも、香港への支持を訴えるソーシャルメディアへの投稿が増えている。そればかりか、自民党内でも、安倍官邸が中国の反民主主義的な行動にあまりに宥和的である、若手議員が批判の声を上げている。

日本はどうすべきか

 この問いに答えるには、日本の国家目的について考える必要がある。一番重要な国家の目的は、日本が安全であり、かつ繁栄していくことだ。政府は、日本が外国から攻撃を受けることなく、経済が正常に機能し、日本国民が安定した生活を送れるようにしなくてはならない。非人道的なことが海外で起こっていても、それに対して日本に何ができるかは、それらがいかに日本国民の生活に影響するかにかかっている。無慈悲なようだが、国家予算は限られており、それは日本の国民のために使われるものだ。しかも、非人道的なことは、中国内に限られない。北朝鮮、アフリカ、シリア、イエメンでは、内戦で、何百万もの人が苦しい思いをしている。イエメン、シリアと、香港と、どちらの人々が苦しい思いをしているか。それを判断するのは難しい。

 残念ながら香港は、中国の一部だ。ニューヨーク大学を卒業し、コロンビア大学の大学院に行く中国本土出身の私の学生は、非常に聡明で、私からすると普通のニューヨーカーだが、その彼女に香港についてどう思うか聞いたところ、「香港だけが自由を享受しているのは不公平だ。香港の自由が少し減るのは当然だ」と言った。彼女の友達で国連で働く大学院生の中国人も、彼女に同意していた。

 中国は日本と永遠に隣同士だ。そして日本の最大の貿易相手でもある。日本がバブル後の経済停滞から脱出できたのは、中国経済の発展に大いに依存していたからだ。日本は、米国のように自給自足が可能で中国とも遠く離れている大国とは違う。米国の誘いに乗って中国との関係を断ち切ると、米国とは比較にならない痛みを伴う。

 日本は、中国の人権抑圧策、非民主的な強権政策に対しては、断固批判すべきだが、米国に追従して制裁などを中国に課すべきではない。それよりも、中国に常に関与し、助け舟を出し、そのイメージを改善する手助けをすべきだ。中国には、信頼できる友好国がいないことを忘れるべきではない。

 確かに中国は非民主主義で抑圧的だが、その点を批判する米国は、同様に非民主的で抑圧的なサウジアラビアと仲良くしている。国際政治とはそんなものだ。結局、米国の対中批判は自国の国益のためだ。日本は、日本にとっての利益を考えて、対香港政策を決めることが重要だ。

 

佐々木文子
Distance Education for Africa www.deafrica.org
ProActiveNY www.proactiveny.org

《企業概況ニュース》2020年 7月号掲載