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二人の大統領候補者とアメリカ社会

【企業の論理、力の論理 グローバリゼーションのルール】
二人の大統領候補者とアメリカ社会

 9月29日の米国大統領候補者討論会の残念さについてはもう十分に指摘されてきた。そこで筆者は、あの討論会の別の特徴から、今後のアメリカ社会の方向と、その日本への影響について、若干考えてみたい。その特徴とは、両候補者が白人の高齢男性だ、という点だ。両者は、彼らの属するグループを全く反対の方向に導いていこうとしている。

 トランプ氏は、これまで特権的な立場にいた中高年白人男性の地位の低下を食い止めるべく戦っている。それゆえそこに属するグループの絶対的な忠誠を得、頑強な支持層を作り出した。一方バイデン氏は、単に生まれ持った特性ゆえに人が特権を持つことは許されないと考え、そうした特権のない社会を平和的に作ろうとしている。

 傾向は明らかだ。バイデン氏のビジョンが将来のアメリカだ。そのことは、若者を見ていると手に取るようにわかる。私はニューヨーク市内のある私立大学で国際政治を教えているが、クラスは常に8割以上が女子で、皆、人権、社会正義、移民、気候変動等にとても関心を持っている。社会正義のために働きたいという学生ばかりだ。少ない男子学生は、非常にフェミニンで、ウォールストリートでがっつり稼ぎたい、という感じとは程遠い。そして皆リベラル。

 それはもちろん、ニューヨークだから、というかもしれない。それはそうだ。が、実際にニューヨーク、ボストン、シカゴ、カリフォルニアの大都市のエリート大学で学ぶ学生―その多くはリベラル―が、将来の米国における政治、経済、社会の大きな部分を運営していくのだ。私はテキサスの私立大でしばらく教えたが、驚いたことにほぼ全員が、テキサスで一生暮らしたい、と言っていた。

 もしトランプ氏が勝てば、白人男性の特権を固守しようとする最後の戦いを仕掛け、社会の将来の趨勢―若者の求める方向―との亀裂は一層深まるだろう。一方バイデン氏が勝てば、白人男性の優位を打ち消すように方向修正するだろう。

 選挙の結果は、日本にどう影響するだろうか。

 もしトランプ氏が勝てば、彼の、社会の趨勢に抵抗する態度が、さらなる摩擦を生み出す。白人優位主義者とそれに反対する人々の対立と抗争はさらに増加するだろう。国内問題が先鋭化し、対外政策はおろそかになる。コロナ対策への批判を受けて反中攻撃を激化させたように、国内問題対策として対中強行をし続けるだろう。もし日本が、中国を取り込んでアジアの安定化を図りたいならば、それは困難になる。なぜなら彼は日本に米中どちらかを選ぶよう迫ってくるだろうと考えるからだ。

 一方バイデン氏が勝てば、白人特権を取り除くことに精力を傾け、また若者が重視する政策をとるだろう。人権、気候、環境、社会正義、などだ。ということは彼の外交政策アドバイザーのサリバン氏の主張が現実化する。〝普通のアメリカ人のためになる外交〟だ。それは、国民の負担になるようなことはなるべく避け、外交政策の善悪は、一般の米国人のためになるかどうか、で判断する。つまり、米国民のためにならないことはしない、ということだ。日本への負担は、さらに増えるだろう。

 どちらの候補が勝っても、米国は国内問題に一層のエネルギーを注入する。日本は、菅首相ではないが、自助を強化する必要に迫られるだろう。

佐々木文子
Distance Education for Africa www.deafrica.org
ProActiveNY www.proactiveny.org

《企業概況ニュース》2020年 11月号掲載