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企業・雇用主のためのCOVID-19 対応に関する法的留意点(5)
〜従業員の一時解雇と完全解雇〜

第51回【リーガル塾:3分で学ぶ米国ビジネス法】
企業・雇用主のためのCOVID-19 対応に関する法的留意点(5)
〜従業員の一時解雇と完全解雇〜

 COVID19の影響が長引く中、ビジネスを維持するために奮闘している企業及び雇用主が増加していることだろう。7月号では、「労働力の変更に伴う基礎知識」として、完全解雇に替わるワーク・シェアリング・プログラム(Work Sharing Program)について紹介した。今回は、従業員の一時解雇と完全解雇に伴う留意点について、カリフォルニア州法を例として概要を説明しよう。

概要

 COVID19及び屋内退避指令による事業の中断に伴い、多くの企業が屋内退避指令の遵守や、経費削減のために、労働力の変更を検討する必要に迫られている。その様な状況において、一時解雇(従業員の一時的無給休暇)や完全解雇(現在の事業状況を理由とした従業員の雇用終了)が、ビジネスを維持するための最終的な手段となる場合もあるだろう。気に留めておきたいのは、いかなる労働時間削減、減給、従業員解雇も、労働協約、雇用契約、あるいは就労ビザの必要条件など、適用される全ての雇用法を遵守して計画・実施することが重要である。

従業員の一時解雇

 一時解雇とは、事業状況又は経済事情を理由とした従業員の臨時的な解雇である。雇用主は、状況が改善した暁には一時解雇を解消して、従業員に復職を求めるという見込みの元に、一時解雇した従業員を給与支払台帳に残しておく。雇用主は、全従業員又は一部の従業員を、一定期間又は無期限に一時解雇することができる。一時解雇を検討す る雇用主は、以下を留意されたい。

・エグゼンプト従業員は、一週間単位で一時解雇しなければならない。(そうでない場合、エグゼンプト従業員が少しでも労働した週は、その週一週間分の給与を支払わなければならない。)

・一時解雇の期間によっては、従業員がグループ健康保険に不適格になったり、失業保険の受給資格を得たりする場合がある。

・一時解雇の期間が、給与の支払い期間(Pay Period)を超える場合は、完全解雇と同等に扱わなければならない。その場合、雇用主は、その一時解雇期間開始前日に、対象となる従業員に対して最終給与(全ての労働時間、及び、休暇又は有給休暇の現金払い戻し額)を支払わなければならない。

・一時解雇は、カリフォルニア州労働者調整及び再訓練予告法(California Worker Adjustment and Retraining Notification : Cal-WARN)や連邦労働者調整及び再訓練予告法(Worker Adjustment and Retraining Notification : WARN)に基づいて、大量解雇扱いとなる場合がある。

・終了期限が未定の一時解雇は、完全解雇として扱わなければならない。

従業員の完全解雇

 従業員の完全解雇が必要とされる場合には、雇用主は、解雇に伴うリスクの分析、完全解雇についてのビジネス上の決定理由と判断基準を文書で残し、従業員解雇計画の準備・実施をすることが重要である。その際、雇用主は、以下の点を考慮されたい。

・その解雇が、差別禁止法で保護されている従業員を、不平等に対象としていないか。

・その対象となる従業員との雇用契約、繰延報酬契約、労働協約、あるいはその他の契約における、その解雇の許容性及び影響。

・更なる追加解雇の必要性。職場の安定性と従業員の士気維持のためには、最終的な対象人数は変わらなくても、一度に大勢の従業員を解雇する方が、複数回に渡って解雇するよりも望ましい場合がある。

・大量解雇、解雇通知、最終給与及び未消化の休暇・有給休暇の全額の支払い、失業保険申請案内、及び健康保険継続加入通知などに関する雇用法の遵守義務。

・従業員に対して、労務訴訟提訴の権利放棄と引き換えに退職金(Severance Payments)を提示するか。2人以上の従業員を解雇する場合の他、40歳以上の従業員に退職契約書(権利放棄合意書)を提示する場合には、雇用主には一定の遵守義務があるので留意されたい。

 

 これらの情報を企業が試練の時を乗りこえる一つの手段として、役立てていただければ幸いである。一時解雇や完全解雇に関しては様々なリスクが伴うので、実施を計画される段階で専門家に相談することをお勧めする。

 

  *ここで扱う内容は、一般的事実であり、特定の状況に対する法的アドバイスではなくそれを意図したものでもない。 Yorozu Law Groupは、サンフランシスコに拠点を置く国際法律事務所で、企業法務、国際税務、M&A/戦略的提携、ライセンシング、国際商取引、雇用法において日本語と英語で法務サービスを提供している。© Yorozu Law Group  

萬 タシャ 弁護士 Yorozu Law Group 235 Montgomery Street, Suite 300 San Francisco, CA 94104 Tel: 415.707.5000 info@yorozulaw.com www.yorozulaw.com

略歴 萬(よろず)タシャ Yorozu Law Group 代表弁護士 オレゴン生まれ関西育ち。カリフォルニア州・オレゴン州弁護士、MBA取得。米国で20年以上の弁護士経験を有し、日米の商慣習や法制度等の違いを踏まえた法務・税対策両面からの戦略的アドバイスを提供する。日系企業の外部顧問を多数務めるほか、北加日本商工会議所と米日カウンシルの常任理事等を務める。家族とトライアスロンに参加するのが趣味。

《企業概況ニュース》2020年 9月号掲載