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現金勝負が目立つ人材獲得合戦
《HRM PARTNERS, INC.》

人事・備忘録 第八回
現金勝負が目立つ人材獲得合戦
《HRM PARTNERS, INC.》

 前回6月号の「人事・備忘録」では、既にリモートワークに馴染んだ従業員たちと全日出勤再開を目指す会社側との間で働き方に対する意識の乖離があること、また地方にある製造企業では駐在員までもが交代制シフトに加わらねばならないほど工場労働者の確保に四苦八苦していることなど、業種問わず多くの在米日系企業にて日々綱渡りの如き人事運営が行われていることについて触れました。

 このような状況の下、繰り返しとなりますが、今日彼らから寄せられる問合せは①現従業員の留保策(リテンション)と②新規補充(新たな採用)など人手不足問題に集約されます。

 尚、これら①②に触れる前に理解しておくべき事として、①なり②なりに向けた解決策には「正解」がないということです。言い換えれば企業によって解決策は「まちまち」であり、「最適解な」解決策は企業規模や環境・ポジションはおろか会社運用年数や当該従業員の勤続年数および各々が置かれた状況やライフスタイルによっても大きく変わってくることです。それ故、弊社から各地の・各業界の・各規模のお客様に向けては、ケース毎にそれこそ数多のアドバイスを提供しているのが実情です。従って「これは駄目あれも駄目」とか「これは効果なし」と否定したり自家撞着を恐れず、自問して浮かんできた案は何であろうと実践しようと試みることも大切でしょう。

 現在は採用市場が過熱し、さながら人材獲得合戦の様相を呈しています。そこらじゅうで「Now Hiring(人材募集中)」のサインが目立ち、企業間ではHiring Bonus(着任賞与)オファーや初任給上乗せ、商品提供、はたまた給与増額や着任賞与オファーといった「現金勝負」な状況に陥っています。テキサス州の或る独立系ファストフード店が定着しない従業員や他チェーン店に移っていく店員たちを目の当たりにし、着任賞与としてアイフォンの最新機種を提供することを打ち出したとのニュースのほか、トラック運転手の圧倒的な不足から或るドライバーの年俸が4万ドルから7万ドルに跳ね上がったとか、ファストフード店で10代の年俸5万ドルのフロアマネージャーが誕生したとか、アマゾンが最大3,000ドルの着任賞与を提示した等々、殊更に目につくニュースが昨年から今春にかけて幾つも出ました。

 但し、このような「現金勝負」スパイラルに陥れば、それ以上の額を提供する競合が現れたり時間が経つほどに魅力半減になるほかなく、最後は競い負けてしまうことは自明の理です。少し古いですが2021年6月付の記事に「失業者の39%のみが『1,000ドルの着任賞与で仕事に戻ろうという気になる』と回答した」とあり、これは残り6割の者には魅力的に映っていないことを皮肉ってもいます。

 現金勝負が時には必要いや不可欠な場合はあります。唯、もしも現金勝負の勝者になれないと思われるならば、短期的な結果は出にくいものの、人手不足の解決策の種が自社の雇用方針・職務環境・総報酬制度・ベネフィットなど結局は雇用政策の根幹にありと省みれば、そこに活路を見いだせるでしょう。

上田 宗朗
HRM PARTNERS, INC.
mueda@hrm-partners.com
※企業概況ニュースにて「人事・備忘録」を連載中

《企業概況ニュース》2022年 8月号掲載

 

人事・備忘録:第一回 Ban the Box(法)
人事・備忘録:第二回 Salary History Bans : 給与履歴照会制限法にまつわる話
人事・備忘録 第三回 労使間の守秘義務契約にまつわる話 ①
人事・備忘録 第四回 労使間の守秘義務契約にまつわる話 ②
人事・備忘録 第五回 ワクチン接種における強制・非強制の攻防
人事・備忘録 第六回 ワクチン接種しない理由を問うことのリスク
人事・備忘録 第七回 加速する賃金上昇傾向と人手不足問題

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