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アルコール飲料市場最前線

米国のアルコール飲料市場は堅調に成長を続けている。外食産業の低迷とは逆に、家で過ごす機会が多くなった昨今、これまでよりも個人消費によるアルコールの需要が高まっているのが実情だ。米国におけるアルコール飲料市場の様相に触れながら、トレンドや市場傾向を考察する。

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 市場調査会社のMarket Research Futureのレポートによれば、米国のアルコール飲料市場(スピリッツ、ビール、ワイン)は2027年までに2兆6,840億ドル(年間平均成長率2.4%)にまで達すると予測されており、*アルコール市場の規模は、年間2,500億ドルを超えたという。

 ビールの主な原材料である麦はカナダからの海外産が多く、ワインや、スピリッツなども輸入されたものが多く愛飲されている。現在の米国アルコール飲料市場は世界規模での流通によって支えられているが、各国の輸入規制や製品コスト、アルコール課税などの影響で値段や売上が大きく左右される。今やビールの価格も最大30%ほど高騰しており、さらにワインやスピリッツも同様に価格高騰が進んでいる。価格競争で有利な大企業が中小企業を買収するという動きが活発化する傾向からさらに価格の高騰化が進み、マイクロブリュワリーなどの小規模企業の市場での立場を弱小化させるという不利益が生じる問題が浮上している。2022年2月に米国財務省が公表したアルコール飲料市場の報告書によると、こうした動きを懸念し、司法省と連邦取引委員会は独占禁止法を前提にした精査が必要だと指摘している。

 近年においては、日本酒や焼酎、ウイスキーなどの人気も高まっている。また最近のライフスタイルの傾向や健康志向の高まりにより低アルコール飲料、低カロリーアルコール飲料などの需要も高くなってきている。クラフトビールも2018年頃から成長しており、同年で24%までシェアを伸ばしたが、大企業による小規模なベンチャー企業などの買収、統合が激しく行われているのが現状である。

 世界全体を見ると圧倒的にビールの消費量が多く、種類の多様化も進んでいる。特にインドや中国などアジア圏でのアルコール消費・需要が高まっており、インドでは、VAT69や McDowell’sのウィスキーの人気が最も高く、一方で中国ではテキーラやビールなどの消費量が高騰しているという。このことからもアルコール飲料のアジア市場の拡大が膨らむと見込まれるため、米国企業もアジア圏への参入に期待を膨らませている。

*米国財務省の報告

市場を大きく支えるビール
コロナ禍の影響

 ビールは国内最大のアルコール飲料の消費量を誇る。2020年から2021年は新型コロナウィルス拡大によるロックダウンなどの影響でスーパーマーケットや大手百貨店などの流通の滞りが生じた。徐々にオンライン販売のおかげでビールなどの需要は高まりつつあったが、2020年は厳しい状況だったと言える。大手ビール製造会社のキリン・ホールディングスが発表しているレポートによると、2020年の世界でのビール消費量は1億7,750万キロリットルで、前年より6.7%減少したという。これは、過去3年で初めての減少だった。消費量が最大の国である中国でも2003年以来、初めて8.0%の減少を示したことから、これらの減少は2019年のコロナの影響が大きく反映されていることが見て取れる。

 **ビールの種類別消費量は「ライト」52%、次に人気が「スーパープレミアム、プレミアム」16.1%、「クラフト」が13.5%、「ポピュラー」が7.8%、「フレーバード麦芽飲料」4.9%、「アイス」3.5%、「モルトリカー」2.3%になっている。

**U.S. Treasury Department

健康志向が生んだ新製品勢力

 最近の傾向としては、健康志向の影響下ノンアルコールや低アルコールビールなどアルコール度数が低いビールなどが活況を呈している。また、クラフトビールもコロナ禍以前から人気が高まり、北米市場の流れを大きく変えた。また、サトウキビ由来の炭酸水と果物のフレーバーが特徴のハードセルツァーが若者を中心に人気を集めており、テキサスを中心に新鋭の中小規模から大手の老舗メーカーまでトレンドの波に乗っている。ノンアルコールスカッシュの成長も著しく、*2027年までに295億ドルに達すると予想されている。

 マーケティング・リサーチ会社の「 The Insight Partners」のレポートによると、ノンアルコール飲料の市場規模価値は、おおよそ1890億ドルで6.2%の年間平均成長率と予測されている(2022~2028)。同市場での主要プレーヤーは、コカ・コーラ、ペプシコ、ネスレ、レッドブル、アサヒといった一流企業が並ぶ。コカ・コーラ社の調査では、米国成人の18%がノンアルコールビールを消費しており、通常のビールを普段から飲むがノンアルコールも好んで選ぶという人が35%いるという。特にミレニアル世代やさらに若いZ世代よりも40代、50代といった健康を気にするX世代にもノンアルコール飲料は人気だという。

*米国財務省の報告

お酒を好む米国人の現状と変化

 2021年、調査機関のギャラップ社が発行したレポートでは、米国の成人60%がアルコール飲料を愛飲しているという結果が出ており、2019年の65%に比べ減少した。また、Z世代とミレニアル世代は、ほぼ半数がアルコール飲料を購入している。**Z世代の47%に比べてミレニアル世代は48%で、僅かながらZ世代のアルコール飲料を愛飲している人が少ない。Z世代の好むアルコール飲料はビール、フレーバード麦芽飲料、ハードセルツァーが43.2%、スピリッツが34.9%、ワイン19.3%、瓶カクテル、ミキサーカクテル2.0%など。Z世代の間では、軽く飲める缶カクテルなどが人気だという。コロナ感染拡大でバーなどに飲みに行くという習慣も減り、SNSなどに費やす時間も増え、身体や精神の健康を保つことが重要だと考える傾向がある。あえてアルコールを飲まない「ソーバーキュリアス(Sober Curious)」という言葉も生まれた。

**Numerato調べ

衰えない日本酒市場

 日本酒や焼酎等の日本のお酒は、コロナ禍以前からもその人気は続いており、現在も依然変わらぬ人気ぶりだ。米国だけではなく世界全体の市場も成長している。オンライン調査会社のeMarketerのレポートによると、ECでの売上高が2022年になって初の1兆ドルを超えると予測している。日本酒造組合中央会(Japan Sake and Shochu Makers Association)は、世界での日本酒の輸出額が22年の上半期で総額約233億円(前年比133.7%)で過去12年連続で最高を記録し、米国は同年期で61億円(前年比163.3%)に達したことを伝えた。同組合中央会によると、コロナ禍を経て営業を再開したレストランにおいて、和食の人気とともに日本酒が注目されているという。また、ネット通販などの販売チャネルが広がっていることも背景にあると説明している。

アルコール飲料市場に追い風
規制緩和で成長期待大

 コロナ禍の余波が続く米国の外食産業、飲食業界は必死に立て直しをはかっている。こうした状況の後ろ盾となるのが政府からの支援だ。ビジネス支援や優遇措置などが行われ、さらに各州でアルコール飲料関連の規制緩和も行われている。焼酎は日本酒に比べて浸透していないが、ニューヨーク州は2022年の6月30日にアルコール飲料管理法(Alcoholic Beverage Control Law:ABC法)が改正され、これまで焼酎などの蒸留酒はハードリカーに分類され、販売にはライセンスが必要だったが、24%以下のアルコール度数のアルコール飲料がソフトリカーライセンスでも販売できるようになった。ハードリカーのライセンスの取得はコストがかかるという理由で浸透率も低かったが、この改正によって、アルコール度数が24%以下の焼酎が多く出回り、焼酎の販売拡大にもつながることが予想される。

 カリフォリニア州では、これまでアルコール飲料のテイクアウトを禁止していたが、リカーライセンスを取得している飲食店がアルコール飲料を容器に入れてテイクアウト用に販売することを許可した。また一部の地区でリカーライセンスの認可取得時間を短縮し、申請料金も下げる意向だ。テキサス州では、アルコール飲料の販売がこれまで正午以降だったのが、2021年9月以降、午前10時から店頭販売が可能となった。

 巣ごもり消費のおかげでアルコール飲料の売上も上昇傾向にある。これまでビール一強だったのが、これまでなかった新生のアルコール飲料が次々と開発され、次々とムーブメントを起こしている。販売経路やチャネルが多岐に渡り広がってきており、人種や年代など特定のセグメントに絞ったマーケティングに注力している企業も多くなった。これからのライフスタイルに合わせたアルコール飲料の選び方はこれまでとは異なる傾向にあるため、今後もさらに展望が見えづらくなっているのが現状だ。また、中国産アルコール飲料の米国需要も高まり、米国の市場も押され気味である今、米ベンチャー企業や中小企業が市場に参入をはかりやすく、それぞれが強みを活かしながら、大手企業とともに成長していくのが理想といえる。

《UJP編集部》

《企業概況ニュース2022年12月号掲載》

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