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《Mitsugi International Corporation》

2023年のHRマネジメントを考える
《Mitsugi International Corporation》

多くの人が”当たり前”と考えてきたことが新型コロナウイルスのパンデミックによって実は当たり前ではなく変えられるものであると分かり、日常生活面での”次の当たり前”を模索し続けてきた数年間。それではHRマネジメント面での次の当たり前とはどのようなものになっていくのだろうか?今回は特に経営者・管理職者視点や人事担当者視点で考察してみる。
《こちらの記事は、企業概況ニュース2023年1月 新年特別号に掲載されたものです》

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 2020年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックから3年弱が経ちます。この間、政治的・経済的・社会的等に大きな変化があり、それらは皆様のビジネスにも何らかの(もしくは多大な)影響を及ぼしたのではないでしょうか?

 例をあげればキリがありませんが、雇用・労働面では、パンデミック発生当初の外出規制等によって在宅勤務を強制されたことで、雇用主・従業員双方にとって職場というものの概念、業務の進め方や働き方を深く考えさせられることになったと思います。また、在宅勤務ができない職種に就いていた方は失業もしくは休職を余儀なくされ、働く意義そのものについても考えさせられることになった方も多いと思います。それらを含め、なかなか落ち着かない状況下で心身ともに疲労が重なることでワークライフバランスが崩れてしまい、自身のキャリアやライフプランについて見直された方もいらっしゃることと思います。

 実際、自主退職や転職する方が多くいらっしゃったことは、社会現象の一つとも言われる「Great Resignation(大量(自主)退職時代/大量離職時代)」が示すとおりです。そして今でこそ「New Normal/Norm(新常態)」として定着してきた感がある「Work from Home(在宅勤務)」「Remote Work(遠隔勤務=オフィス以外から働く)」ですが、原則オフィス勤務に戻したい会社経営層と在宅勤務の継続を希望する従業員との間でのぶつかり合いも多く見られ、「Hybrid Workplace(もしくは「Part Time Work from Home」「Part time Remote Work」)」という職場概念・勤務形態を正式導入された企業も多かった印象です。

 様々なワードが使われた2020年から2022年ですが、今回は、HRマネジメント面で2023年に特に気にしておいていただきたい事項について、いくつかのキーワードとともにお届けしたいと思います。

 

企業文化のアップグレード

 新たな企業文化の醸成・浸透は雇用・労働面だけに関わることではなく、ビジネスを推進していくにあたっての最重要課題の一つかと思います。様々な要因から発生した人材不足や賃金高騰によって、現在の従業員の「Retention」や新たな従業員の「Recruiting」や「Hiring/Onboarding」に苦労するケースは2023年もしばらく続くことでしょう。そのような状況に対処するために各種人事制度を見直すことはもちろん必要だとは思いますが、その前に、今一度、自社の企業文化が従業員を惹きつけるものになっているかを再考していただきたいと思います。その際のキーワードになってくるのは大きくは「Purpose Driven Organization」「Employee First Culture」「Change Management」あたりでしょうか。従業員が共感をもって働きたいと思えるような目的を持った組織であるか、従業員のことを第一に考えているか、過去に縛られたり硬直化したりせずに変化に柔軟・迅速に対応できるようなマネジメントができているか。それらを自信を持って前面に押し出していけるような企業文化であれば、採用活動を進める上では魅力的に映ることと思いますし、従業員の組織へのEngagementの向上にも活きてくると考えます。また、「Diversity, Equity and Inclusionを意識した組織人事運営というのは2023年には更に進展していくことが予想されますので、気にしておいていただければと思います。

多様な職場・働き方への対応

 「Work from Home」「Remote Work」「Hybrid Workplace」というキーワードは2023年も何度も見聞きすることでしょう。そこから更に進んで「Work from Anywhereというキーワードを聞く機会が増えてくるかもしれません。これはその言葉が示すとおり、場所を選ばずに何処からでも働けるということです。Z世代を含む比較的若年層は(もちろん対象職種や個人個人によって違いますが)、オフィス出社でも在宅勤務でもなく、個々人の状況等で何処からでも(さらに“いつでも好きな時間に”)働けるような職場環境を希望する傾向があるという調査結果もあります。州外雇用や国外雇用は労務管理・税務対応等で様々な課題がありますが、自社にとって優秀と思われる人材の雇用や人件費を有効に活用するためには検討しても良い方策ではないでしょうか。

 また、「Metaverseというキーワードも頭の片隅に留めておいていただければと思います。最新技術の活用はどの企業も検討・実行してきており、特に大手企業ではその傾向は強いでしょう。HRマネジメントからは遠い言葉のように思われるかもしれませんが、アメリカにおけるトレンドとして、このような最新技術をHRでも使えないだろうかという議論が始まっています。たとえば、採用活動やオンボーディングにおいては既に取り組んでいる企業もあるようです。

各種人事制度の改善

 各種人事制度の改善にあたってのキーワードとしてはTransparency」があげられるでしょう。報酬制度面では、ご存知の方も多いと思いますが、「Pay Transparency Laws」といって、特に採用活動にあたって自社の対象ポジションの給与レンジを公開しなければならないとする法律の施行が進んでいます。給与レンジを公開できるためには、もちろん自社の給与制度が自社にとって最適になっている必要はありますが、公開するということは他社との競争にも晒されやすくなるということであり、自社の論理だけで制度設計をしていると他社との競争に勝てなくなってくる可能性が高くなるとも言えます。そのため、給与のベンチマーキングはこれまで以上に重要になってきますから、給与調査をすることで市場の給与水準を把握する取り組みが求められてくると言えます。そして、報酬制度と切っても切り離せないのが評価制度ですから、自社の評価制度が透明性をもって設計・運用されているかも確認しておいた方が良いと考えます。

 また、福利厚生制度面ではTotal Wellbeing」や「Wellness-Focused Employee Benefits」というキーワードが示すように、単に保険や年金プランを提供するに留まらず、従業員のフィジカル・メンタルも含めた総合的なケア等を意識した制度設計が重要になってくると考えられます。

従業員育成

 ここでのキーワードは「Upskilling」「Reskilling」です。一部の方には極端に聞こえるかもしれませんが、アメリカにおける組織人事運営では、組織に貢献できるであろう人材を採用・雇用し、貢献度が低い従業員は解雇してしまうというのが一般的な捉えられ方かと思います。つまり、従業員育成にはそれほどの時間も労力もお金もかけないという考え方です。

 しかしながら、しばらくは人材不足・採用難が続くであろうと予想される2023年においては、これまで以上に現在雇用している従業員を大事にしていくことが求められ、そのためには従業員育成にもフォーカスしていく必要があります。特に部下を持つリーダー層は単に業務遂行能力や管理能力が優れていれば良い訳ではなく、部下のケアや部下と適切にコミュニケーションをとっていけるようなソフトスキルの開発・改善は重要になってくるでしょう。

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 今回はHRマネジメント面で皆様に2023年に特に気にしておいていただきたい事項について、いくつかのキーワードととともにお届けしましたが、今後も連載記事等を通して、少しでも参考になるような情報を提供していければと考えております。

 

《執筆者》三ツ木 良太 (Ryota Mitsugi)
Founder and C.E.O.
America HR Management
President and C.E.O.,
Mitsugi International Corporation
E-mail: Ryota@MitsugiInternational.com

 

 

 

米国における企業経営・雇用・労働・人事労務管理等を専門とするビジネス/マネジメント・コンサルタント。米国におけるHuman Resources(HR)の二大上級プロフェッショナル資格と呼ばれる「Senior Professional in Human ResourcesⓇ (SPHRⓇ」と「SHRM Senior Certified Professional (SHRM-SCP)」の両方を保有。

 イリノイ州シカゴ生まれ。学習院大学法学部を卒業後、日本電信電話株式会社(NTT)、ニューヨークに本社を置くコンサルティング会社を経て、主に米国新規進出を目指す日本企業や在米日系企業をサポートするMitsugi International Corporation(略称「M.I.C.」)を設立。(途中、ロサンゼルスに本社を置く人事労務管理専門のコンサルティング会社の社長も務める。)各地の商工会等での講演・セミナー実績多数。また、月刊ビジネス情報紙『企業概況ニュース』でのコラム連載をはじめ、マネジメント、人事労務管理、組織開発や人材開発等に関する記事も多数執筆。

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