経営者視点で考えるコロナウイルスとの付き合い方
※この記事は、2021年12月15日に行われた取材をまとめたものです。
「デルタ」の猛威も収まらぬうちに、新たな脅威として感染者数を増やし続ける新型コロナウイルスの変異ウイルス「オミクロン」。ワクチン接種により小さな光が見えたものの、日常生活やビジネスなど今後の先行きを不安視する声は大きい。こうした状況下で、私たちが今すべきことは、そして考えるべきことは何なのか───米国国立研究機関でウイルス・免疫学の研究者として活躍する峰宗太郎さんにお話を伺った。
局面を変える可能性を持つ「オミクロン」
オミクロンの感染者数が急速に増加していますが、まず重要なのは、未だデルタも世界的に大流行し続けているということです。その上でオミクロンについてお話しすると、うつりやすさ──「伝播性」(transmissibility)と言いますけれども、オミクロンの伝播性はデルタよりも高いことはほぼ確実で、今後、世界に広がっていくことはまず間違いないと思います。どれぐらい病気が重くなるかという「病毒性」については明確になっていませんが、決して舐めてかかれる状況でないことは確かです。
もう一つ、ワクチンの効き目ですが、これはオミクロンに対して明らかに悪くなっています。今後あまりにも感染が拡大し、予防効果も大きく落ちていくようであれば、改良型ワクチンの投入ということになるでしょう。こうした理由から、このオミクロンが〝コロナとの戦いの局面を変える可能性のある変異体〟であることは間違いなく、よく注意し監視していく必要があります。これまでは〝3回目ワクチンの接種でひと段落〟という考え方で定着していましたが、オミクロン対応の改良型ワクチンを4回目のワクチンとして接種するという、これまでの戦略を立て直すフェーズも視野に入ってきたと言えるのです。
**********
今後、どこまでパンデミックの状態が続くかは分かりません。ただ、COVID–19はすでに世界中へと広がり、簡単な終息は望めないと私は見ています。国家間を人々が簡単に行き来し、国際交流が盛んな時代です。こうした中、これほど大きなパンデミックに陥った経験は人類になく、これからは、世界中のどこかに、常にこの新型コロナが残り続けるということを大前提に考えるべきです。そうなれば、国としてはできる限り多くの国民にワクチンを打ってもらうことが重要課題となり、ワクチンの効果を維持させるために定期的なワクチン接種が必須となる可能性もあります。季節性のインフルエンザにコロナのワクチンを混ぜて一緒に打つ方法なども、来年以降は検討されていくのかもしれません。結局のところ、流行が続く限りは、毎年など、定期的なワクチン接種が必要となり、ワクチン接種率の高い国からコロナを気にする必要がなくなっていくのではないかと見ています。
mRNAワクチンのブースター接種は必須
現時点のオミクロン対策としてできることは、3回目のワクチン接種としてメッセンジャーRNA
(mRNA)ワクチンを打つということです。つまりファイザーかモデルナですね。これまでモデルナかファイザーを2回接種されている方は、3回目にどちらを選んでも大きくは変わりません。モデルナの方が若干効果が高いのですが、その代わり副反応も少し強い。他の種類を交差させることで効果が強まることはほとんどありませんので、実際に私はモデルナを3回打ちました。
それから、ファイザーがブースター接種により25倍云々という報道が流れていますが、これは抗体価の話であり、予防効果が25倍になる訳ではありません。抗体価だけではあまり意味がなく、大切なのは、ブースター接種により発症予防効果が90%台に回復するという事実なのです。モデルナでも90%台まで戻ることが分かっていますので、ブースター接種をすべきということは、ほぼ確実な状況です。
残念なことに、ジョンソン&ジョンソン(J&J)とアストラゼネカについては効果が劣るワクチンということが分かっており、特にオミクロンに対しては効果がほとんどなく、これ以上使い続ける理由は見当たりません。mRNAワクチンの接種が許可された国に居住しているのであれば、必ずmRNAを指定して接種してください。J&Jやアストラゼネかを1回目、2回目に打った人も、3回目はmRNAワクチンをしっかりと打つようにしてください。
〝エンデミック〟という可能性
ワクチン接種率が高まることは、その地域での流行コントロールをしやすくなることに繋がります。また、多少流行したとしても、重症化する人が少なく抑えられるという状況を維持できますので、医療崩壊を防ぐことはできるのではないかと考えています。しかしですね、8割を超えても2割の人は接種していないことには変わりありません。人口1000万人の都市であれば、200万人ぐらいの人はワクチン未接種者ということです。その残りの2割に当たる人が今後ワクチンを接種するかといえば、そんなことはありません。ワクチン接種に否定的な人にはいくつかの種類がありますが、特にディナイヤー(denyer:否定者)やリフューザー(refuser:拒絶者)といった人たちは、絶対にワクチンは認めないコアな層で、彼らの考え方を覆すことは難しい。でも、そういう言説に影響されて接種を躊躇している不安層の方たち───いわゆるムーバブルミドルたちに正確な情報を届け、考えを変えさせることは可能だと思っています。説得すべきは反ワクチン派ではなく、そういう不安を持ち、躊躇している人たちなのです。
ワクチンを拒否している人たちは、基本的な予防策も取りたくありません。手洗いもしなければ、マスクも着けたくないんですね。そもそも、コロナなんて存在しないという考えの人までいるような状況なので、そうなるとこの先考えなければならないのは、新型コロナが、一定の地域ごとに、一定の羅患率で、季節ごとに繰り返して発生する〝エンデミック〟になる可能性です。つまり、新型コロナに対する意識の高い地域ではワクチン接種率が上がり、次第に流行が下火になる。そうでない地域では、いつまでたってもコロナが蔓延を続け、経済的にも負担が続く。自分たちが損してでも、信じるもののために殉じていく世界観が定着していくのではないかと思っています。
米国立研究機関博士研究員
医師(病理専門医)、薬剤師、医学博士
峰 宗太郎 さん
https://linktr.ee/minesot
米国国立研究機関にて「EBV(エプスタイン・バー・ウイルス)」という、ヒトに感染するy–ヘルペスウイルスの研究に取り組んでいるウイルス・免疫学の研究員。日本で病理医をしていた頃に、このEBVが引き起こす血液のがんを数多く診断した経験を持ち、血液の病理専門だったこともあり、実際にこのEBVがどのようにがんを引き起こすかに興味を持った。研究を続けるうちにEBVをコントロールできない疾患が多くあることに気づき、さらなる探究のために渡米し、EBVと免疫の関わりついて研究して今年で4年目となる。