今回は「抵抗勢力編」の最終回です。
前回は「隠れた抵抗」の見つけ方についてお伝えしました。見つけるだけでなく、それ以上強い抵抗にならないよう、適切にケアする必要があります。ケアには2つのコツがあります。
1 反論せずに、まず共感する
変革プロジェクトの中心メンバーがプロジェクト計画を説明している時、誰かが「本当にこの進め方で上手くいくのか」と懸念を表明したら、どう切り返しますか? よくあるパターンは以下の2つです。
・大丈夫です、ちゃんと内部で議論して決めました。(”Leave it up to us, we’ve discussed this internally.”)
・では、どうすれば良いと思いますか?(”What do you suggest we do?”)
これらに共通するのは「私達はちゃんと考えました」という正当性の主張です。懸念を表明した側がこの発言を聞くと、「この人は私の話を全然聞いてくれない」「面倒くさい、もう勝手にやって下さい」となってしまいがちです。
ここで表れた懸念は「隠れた抵抗」となり、徐々に不信感や疎外感に変わり、やがて「大きな抵抗」へと顕在化します。そうならないよう、まず懸念に共感しましょう。
・【悪い例】大丈夫です、ちゃんと議論して決めました。
・【良い例】ありがとうございます。これからの話ですから、懸念はごもっともです。具体的にどの辺が引っかかるか、おっしゃっていただけますか?(”Thank you for your feedback. We understand your point. Can you tell us what specific area is most concerning?”)
・【悪い例】では、どうすれば良いと思いますか?
・【良い例】なるほど、鋭いご指摘ありがとうございます。もし良ければ、ざっくりでいいので、上手くいかなそうなポイントと「こうすれば良いのでは」をいくつか挙げていただくことは可能ですか?(”We appreciate your feedback. Could you give us some ideas on where there may be issues and what we can do about them?”)
ささいな違いですが、懸念への共感と発言者への感謝を言葉でしっかりと伝え、懸念の共有を促すことで、相手が「自分の懸念を拾ってくれた」と感じてくれます。「隠れた抵抗」の兆しが見えたら、まずは共感することから始めましょう。
「もう上層部とこうすると決めましたので…」のような一方的な切り返しもたまに目にしますが、現場が抵抗勢力に変わりやすいので、気を付けて下さい。
2 説得せず、真摯に共有する
共感はとても大事ですが、それだけでは解決しないことも数多くあります。その多くは情報共有の不足に起因します。「なぜそうしなければならないのか」「そうしようと思うまでにどういう経緯があったのか」を説明しないまま、「こうしたいのでお願いします」と説得しようとしても、到底受け入れられるものではありません。
議論の経過や結果をきちんと記録していれば、それを丁寧に説明しましょう。現場の抵抗にあってとん挫するプロジェクトを分析すると、プロジェクトゴールや議論の経過の記録がないまま、決定事項を現場に落とそうとしているケースが目立ちます。情報共有不足が起因の懸念には、以下のように切り返しましょう。
・【良い例】ありがとうございます。これからの話ですから、懸念はごもっともです。これまでの議論の経緯をお伝えしますので、具体的にどの辺が引っかかるか、おっしゃっていただけますか?(”Thank you for your feedback. Let me explain how we got here, and I would appreciate it if you could point out your specific areas of con
cern.”)
ネガティブな発言は「隠れた抵抗」の兆しです。見つけたら、まず共感し、真摯に情報共有しましょう。
次回は連載記事の最終回、「Have fun!」をお届けします。
《執筆》
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ
ティンダル 玲子 さん
2020年ケンブリッジ米国法人入社。コンサルタントとして大手製造業のERP導入、グローバルロールイン/アウトに従事。SAP FI(財務会計)認定コンサルタント。米国・ドイツ・日本でプロジェクトを経験。在米歴8年(大学、大学院、ケンブリッジ米国法人)。米国人の夫・娘・猫と暮らすワーキングマザー。
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズは在米日系企業の業務改革、IT戦略立案、DXに必要なコンサルティングサービスを提供しています。あらゆる変革の立ち上げから導入までを円滑に進める方法論とバイリンガルファシリテーションを武器にプロジェクトを成功に導きます。日本では7年連続「働きがいのある会社」Top 10に選出されています。
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