Home > US Living > REALTY > 【NY商業不動産ウォッチング】世界の中心に商機あり

 今回のパンデミックで最も大きな打撃を受けた業界のひとつであるホテル産業は、買い手市場となっている。長期展望で見た場合、ホスピタリティの物件購入を検討している企業にとってはバーゲンで購入できる良い機会であり、ニューヨークの主要ホテルであるヒルトンタイムズスクエアは、10月いっぱいで完全営業停止をする発表をしたばかりである。

 ニューヨーク市ホテル協会によると、現在ニューヨーク市の約160のホテルが一時的あるいは永久的に閉鎖されており、ニューヨークのホスピタリティの20%〜30%が永久的に閉鎖をするであろうと予想をしている。

 オフィスセクターにおいては、商業不動産リサーチ会社の最新の分析によると米国全土においてオフィスビルの再開許可にもかかわらず、オフィステナントのほとんどはまだ戻ってきていないと報告されている。全国的にはオフィススペースの約10%から15%の占有率である。ニューヨーク市においては、オフィスに戻ってきているテナントは、10%以下で、多くの従業員は電車やビルのエレベーターなどの人混みを避け在宅勤務を続けている。しかし、オフィステナントはスペースを利用していないが家賃の支払いは停滞していないという、ビルの所有者にとっては喜ばしい調査結果がでている。

 不動産投資信託のデータによると、オフィスビルのオーナーは、4月、5月の家賃の約93%を回収しており、6月、7月は約97%でさらに回収率が伸びている。ただし、パンデミックに入ってからオフィスリースの動きは減少しており、多くの企業は今後さらにリモートワークに切り替える傾向にありスペースの縮小を行っている。ニューヨーク市におけるサブレットスペースは、3月末から17%の増加がみられ2019年の後半と比べて52%の増加になる。このサブレットスペースの増加に加えて、工事が完成して新しく市場に出たオフィスビルの利用可能なダイレクトスペースのボリュームも2019年後半から17%増加しているため、需要に比べて供給が増えている。コワーキングオフィスの大手であるリージャスは、チャプター11を申請した。パンデミック以前は非常に人気の高かった共有ワークスペースだが、通常のオフィスよりもさらに密集したデザインではソーシャルディスタンス規制下において需要が低下し、
WeWork をはじめとする多くのコワーキングオフィス事業の企業は大幅な撤退を余儀なくされ、現在ビルの所有者とリース締結の交渉を進めている。

 企業にとっては、従業員の健康管理が最大の課題であり、安全で快適な職場環境を提供するために密集した公共交通機関の利用を避け、家賃が低く、より広くて密度の低いオフィススペースを求めて郊外のオフィスに注目し始めている。不動産投資家も郊外のオフィスビルの投資に焦点を移している。

 リテールセクターにおいては、特にアパレル、レストラン業界の打撃は大きく、経済が再開されて良い兆しは現れてきているものの回復にはほど遠い。8月の時点で路上店舗の家賃の回収率は73%、ショッピングモールの家賃回収率は50%であるという。店舗家賃の回収率はオフィスに比べて明らかに低い。最近の調査では、マンハッタンのブロードウェイ沿いの路上店舗の空室が335件あり3年前から73%増加している。最新のニュースでは、センチュリー21が、チャプター11を申請した。全13店舗を閉店する予定である。JCペニー、ロード&テイラー、ニーマンマーカスなどの大手店舗に続く閉店である。センチュリー21の旗艦店は、ワールドトレードセンターのグランドゼロに位置し、19年前の9/11のテロ攻撃で破壊された後6ヶ月で立ち直りをしたが、今回のパンデミックでは残念ながら閉店に追い込まれた。

 ニューヨーク市のリテールは、ツーリストや通勤者に大きく依存するが、ロックダウン、渡航制限、在宅勤務による大幅な通勤者の減少、住民のマンハッタン離れによるレストラン、店舗の売り上げの落ち込みは激しく、郊外に比べてはるかに経済的打撃が大きい。ニューヨーク市は9月30日からレストラン室内での飲食が25%の収容制限で可能となるが、ニューヨーク州のレストラン協会の調査によると約64%のレストランは年内に永久閉店するという報告がでている。これは、その他の小売業の35%、ビューティサロンの24%、ジムの26%が永久閉鎖するとの予想数字からいってもはるかに多い閉鎖率である。パンデミック以前からすでに見られたリテールのオンライン化は今後益々多方面に進み、テクノロジーは飛躍を遂げ世の中は物質的に豊かになり生活は便利になる。好む、好まないに限らず私たちはソーシャルメディアに翻弄され、日常生活のほとんどの機能は電子化されるであろう。

 だが5年後、10年後の社会で私たちは今までより幸福感、満足感があるだろうか? 私たちはこのパンデミックから何を学びとり成長するのか試されている。精神的にも豊かな成熟した社会にするために、政府機関や企業だけに任せず私たちは個人レベルにおいて何をすべきなのか今自分に問いかけている。

 

Masubuchi Realty LLC
社長 増渕 敬子
keiko@masubuchirealty.com

《企業概況ニュース》2020年 10月号掲載